上田電鉄の千曲川橋梁を渡る記念列車(写真:鉄道チャンネル、2021年3月の全線復旧セレモニーで撮影)

JRグループの全国ダイヤ改正があった2024年3月16日、筆者は北陸新幹線に乗車していました。目的地は延伸開業した福井、敦賀……ではなく長野県上田市。

人口約16万人の東信(東信濃)の中心都市で、鉄道は北陸新幹線、しなの鉄道、上田電鉄の3線が走ります。

上田市で3月16、17の両日開かれた「人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in上田」。沿線人口減少などで岐路に立たされる、地方鉄道・バスの再生を考える市民フォーラムで、200人以上が参加しました。本コラムは大会での発表や乗車ルポから上田電鉄の現状を考え、将来を展望します。

5年ぶりで実開催

「人と環境にやさしい交通をめざす全国大会」とは行政、鉄道会社、研究者、一般市民、鉄道ファンなどが一つのテーブルで話し合う市民会議です。2005年に宇都宮で初開催、その後2~3年ごとに京都、横浜、岡山など、主に地方都市を巡回しながら回を重ねてきました。

全国大会最大の成果は「宇都宮ライトレール(宇都宮LRT)」。

地元でも必要、不要に割れていたLRTを「必要」の方向に収束し、2023年8月の開業につなげました。

大会は今回が11回目。本サイトでも紹介させていただいた前回、2021年の滋賀はリモートで、実開催は2019年の前橋以来5年ぶりになります。

533日ぶりの全線復旧

「赤い鉄橋」復活から3年 上田電鉄の現状と針路は 市民フォーラムで考える(長野県上田市)【コラム】
上田駅で発車を持つ1000系電車。元東急電鉄の1000系で、写真は上田市の日本遺産の雨乞いの儀式をモチーフにしたラッピング車「れいんどりーむ号」(筆者撮影)

まずは上田電鉄のプロフィール。上田電鉄別所線は上田~別所温泉間11.6キロ。開業は戦前の1921年です(全通は1924年)。

運行会社は上田温泉電軌から上田丸子電鉄、上田交通などと変わり、2005年から現在の上田電鉄に。上田丸子電鉄時代の1958年、東急グループに入りました。

最近、最大の危機は2019年10月の台風19号による千曲川橋りょうの落橋。上田~城下間、全長224メートルの千曲川橋りょうは通称「赤い鉄橋」。まぎれもない別所線のシンボルでした。

全国大会のパネルディスカッションに登壇した長野県知事の阿部守一さん、上田市長の土屋陽一さんの話によると、一時は鉄道廃止も検討されたそうです(フラットな立場の大会の趣旨にあわせ、本コラムは「さん」付けで紹介します)。

「赤い鉄橋」復活から3年 上田電鉄の現状と針路は 市民フォーラムで考える(長野県上田市)【コラム】
パネルディスカッションで発言する阿部長野県知事(中央)と土屋上田市長(右端)(筆者撮影)

しかし、国(国土交通省)との協議で、いわゆる上下分離方式での復旧を決定。再建された鉄橋は上田市が保有、橋りょうの再建工事も上田市が主体になることで、国の支援が受けられるようになりました。2023年7月に全線復旧した、熊本県の南阿蘇鉄道でも取られた公的支援による災害復旧のスキームです。

2021年3月28日、533日ぶりで「赤い鉄橋」に列車が走りました。

1日2800人が利用

復旧後の上田電鉄どうなった? 全国大会でパネリストを務めた、上田電鉄の常務・國枝聡さんによると、被災前に年間130万人程度だった利用客は現在100万人前後で完全には戻り切っていません。輸送人員年間100万人は、単純計算で1日2800人程度。沿線には高校のほか長野大学もあり、通学生中心に一定の利用があります。

「赤い鉄橋」復活から3年 上田電鉄の現状と針路は 市民フォーラムで考える(長野県上田市)【コラム】
上田電鉄の年間乗車人員の推移。千曲川橋りょう落橋で大きく落ち込んだものの、V字回復していることが分かります(資料:上田市)

國枝さんは上田電鉄の被災を機に東急から派遣され、災害復旧を陣頭指揮しました。全線の運転再開後も上田に残り、鉄道の維持・再生を主導します。

上田電鉄は利用促進に努めます。駅で見付けたパンフレットが、2024年4月14日までの「別所で卒旅(そつたび)キャンペーン」。卒業旅行で別所温泉を訪れると宿泊料金を割り引き、特典も用意します。

「移動するのが楽しくなる仕掛けを」(地元高校生の発表から)

大会の発表では、公立長野県上田染谷丘高校の新井アンジさんの「高校生が考える未来の上田の交通」に興味を持ちました。

上田染谷丘高生161人へのアンケート調査では、通学手段で最も多いのは「鉄道・バス」の54.4%。「自転車」の23.8%、「徒歩」の12.5%が続きます。

鉄道・バスが多いのはその通りでしょうが、問題は駅や停留所までの移動手段。上田市による別の調査では、「家族がマイカーで送迎している」が半数を超えています。

「家族に送ってもらい鉄道やバスに乗る」が、いつわらざる地方都市の現状。「どうすれば鉄道やバスをもっと利用するか」の質問では、「乗りたい時刻に列車やバスが来る」、「運賃がもっと安くなる」の回答が上位でした。

「全国には特典満載の新しい定期券で、バス利用客を3倍に増やした栃木県小山市のモデルケースもあるそう。上田も乗りたくなる仕掛けを凝らしてほしい」と訴えました(当日は新井さんの体調不良で、上田ビジョン研究会の藤川まゆみさんが代理発表)。

再エネ100%で電車を走らせる

上田電鉄をめぐる新しい話題2題。上田市は2023年11月、環境省の「脱炭素先行地域」に認定されました。

件名は「ローカル鉄道と市民がともに支えあうゼロカーボン×交通まちづくり」。別所線の線路敷きや沿線施設・住宅などに太陽光発電パネルを設置して、再生可能エネルギー100%で列車運行します。

東急グループでは、「日本初の再エネ100%電車 EST交通環境大賞受賞の東急世田谷線」の取り組みを2021年2月、本サイトで紹介させていただきました。上田電鉄への展開で、「地球環境にやさしい地方鉄道」を社会にアピールする趣旨です。

もう一つ、上田電鉄が力を入れるのが沿線へのシェアサイクル普及。上田市による社会実験期間は2024年3月20日~12月1日で、上田電鉄の通勤定期券購入者(乗車区間などに一部規定あり)は、沿線のレンタサイクルを基本料金無料で利用できます。

下之郷に車両基地

ラストは、別所線のミニ乗車ルポ。上田駅発の列車は、北陸新幹線やしなの鉄道とほぼ直角の南西方向に発車します。発車後2分足らずで「赤い鉄橋」。沿線からは重厚に見える鉄道施設ですが、車内からは意外とコンパクトに感じます。

「赤い鉄橋」復活から3年 上田電鉄の現状と針路は 市民フォーラムで考える(長野県上田市)【コラム】
「赤い鉄橋」こと千曲川橋りょうを前面眺望。初めての架橋は大正年間の1924年で、5連のトラスが連なります(筆者撮影)

別所線は全線単線ですが、上田側から城下、上田原、下之郷の3駅に行き違い設備があり、自由度の高いダイヤが組めそうです。

終点の別所温泉までの所要時間は約27分。別所温泉駅構内には、線区のシンボルといえる「丸窓電車」こと、上田丸子電鉄のモハ5250形(モハ5252)が静態保存されます。

車両基地があるのは下之郷。通常公開はありませんが、全部で5編成(10両)の車両が眺められます。

ここで上田電鉄余話。一緒に別所線に完乗した大手私鉄OBの方が、「線路がよく整備されている。全然揺れない」と感心していたことをご報告します。同時取材したしなの鉄道については、続報でご紹介します。

「赤い鉄橋」復活から3年 上田電鉄の現状と針路は 市民フォーラムで考える(長野県上田市)【コラム】
下之郷駅隣接の車両基地で元東急5200系を〝発見〟。公開されていないので遠望になりますが、廃車後は倉庫として使用されているとのことです(筆者撮影)

記事:上里夏生