パリのリヨン駅で発車を待つTGV。パリに「(国鉄)パリ駅」はなく、SNCFの7駅からそれぞれの方面に向けた列車が発車します

今回は趣向を変えて海外鉄道の話題。

ズームインするのはフランス。フランス国鉄(SNCF)の営業キロは全土で約3万キロ。JR、私鉄、公営交通などをあわせた日本の鉄道の全営業キロ(約2万7000キロ)をしのぎます。

フランスの鉄道……、最高速度320キロの高速列車「TGV」(ティージーヴイ。フランス語読みではテジェべ)が日本でも知られますが、列車はそれだけにあらず。都市間列車のIntercites(アンテルシテ)、簡易寝台夜行のCouchettes(クッシェ)、普通列車のTER(テーウーエル)と多士済々。ライフスタイルにあわせた列車の旅が楽しめます。

今回はフランス鉄道の略史とともに、首都のパリ発のTGVが結ぶ2つの地方都市をご案内します。
(本コラムは列車名などアクセント記号省略でローマ字表記させていただきます)

「サキドリフランス」で20機関が来日

フランスの鉄道に注目したきっかけは、フランス観光開発機構が先ごろ、東京都内で開催した「SAKIDORI FRANCE(サキドリフランス)2025」。フランス観光開発機構は定期的にセミナーを開催して、フランスの観光情報を発信します。

最高時速320キロのTGVが走るヨーロッパの鉄道王国・フランス 東京のワークショップで話題をゲット【コラム】
サキドリフランスの会場風景。東京・渋谷のホテルに出展約20機関がブースを構えました(筆者撮影)

サキドリフランスは、フランスから来日した地方観光局やホテルなどが日本の旅行会社やマスコミに来訪を呼び掛ける年1回のワークショップ(観光商談会)。今回は約20機関がブースを構えました。

筆者の得意分野は観光ではありませんが、2025年4月に大阪・関西万博フランス館での文化イベントを取材させていただいたご縁で、ワークショップへのご案内をもらいました。多くが観光系ニュースというアウェイ(?)の中、本サイトのような鉄道系はレアだったようです。

鉄道のほとんどはSNCF

最初に、フランス鉄道のミニヒストリー。フランス最初の旅客鉄道は、1832年のリヨン~サンテティエンヌ約50キロとされます。日本の汽笛一声のちょうど40年前。リヨンは当時、パリに次ぐフランス第2の都市で旅客とともに石炭輸送が主な役目でした。

話は1世紀ほど飛んで、フランス国鉄に当たるSNCFの誕生は第2次世界大戦開戦前年の1938年。SNCFはSociete Nationale des Chemins de fer Francaisの頭文字です。Chemins de ferは「鉄の道」。鉄の道を走る乗り物の発想は日仏共通です。

日本でも鉄道の戦時統合がありましたが、フランスは日本以上。パリの地下鉄(メトロ=Metro〈Chemin de fer Metropolitain〉)や地方の軽便鉄道などを除き、多くの鉄道がSNCFに統合されました。フランスで徹底した鉄道国有化が行われたのは、戦時体制下、中央集権の思想が強かったためとされます。

最高時速574.8キロ

戦後のSNCFは電化に力を入れます。電気鉄道で世界トップクラスに立ったフランスに満を持して登場したのがTGV。Train a Grande Vitesseの頭文字で、直訳は文字通りの高速列車です。

最初のTGVは、首都・パリと第二の都市・リヨン間。1981年の部分開業に続き、1983年に全通しました。

TGVがスピード記録に血道を上げるのは、鉄道ファンの皆さまならご存じ。1990年に時速515キロ、2007年には574.8キロの世界記録を樹立しました。この記録、2015年4月に日本のリニアモーターカーの603キロに抜かれましたが、今も鉄輪の鉄道車両のレコードホルダーです。

そんなTGV、バリ~リヨンの南東線・地中海線、同~ボルドー、トゥールーズの大西洋線などさまざまな路線を走ります。

最高時速320キロのTGVが走るヨーロッパの鉄道王国・フランス 東京のワークショップで話題をゲット【コラム】
2017年にTGVのブランドを一新してデビューした「inOut(イヌイ)」。フランス語のinOutは「驚くべき、前例がない」といった意味です

ヨーロッパ鉄道旅行大賞を受賞

話をサキドリフランスに戻して、最初に話を聞いたのはオクシタニー地方観光局です。オクシタニーはフランス南部13県の連合体。2016年9月に誕生しました。総人口約580万人。

首都はトゥールーズで、パリからトゥールーズへTGVは5時間弱で走破します。

オクシタニー地方観光局を取り上げた理由、「(EU)Rail Tourism Award(ヨーロッパ鉄道旅行大賞)」の受賞です。オクシタニー地方観光局は2023年、EU Rair(ユーレール)とETCの鉄道旅行大賞を受賞しました。

最高時速320キロのTGVが走るヨーロッパの鉄道王国・フランス 東京のワークショップで話題をゲット【コラム】
ヨーロッパ鉄道旅行大賞受賞者。オクシタニー地方観光局以外では、スイスやオーストリアの関係機関が受賞しました

主催2者のうち、ユーレールは欧州鉄道旅行者必携のユーレールパスを発行、オランダに本社を置きます。ETC(The Europrsn Trvel Commission)は、EUの観光プロモーションを手がける非営利団体です。

鉄道旅行大賞は2021年に創設。鉄道の利用促進に実績を挙げた観光団体を表彰します。筆者は最初、日本の鉄旅オブザイヤーのように特定ツアーの表彰と思ったのですが、そうではなく鉄道ツアー全般のマーケティングやプロモーションを評価するようです。

オクシタニー地方観光局は鉄道旅行の予約方法などを積極的にPRするほか、テレビCMやSNSで列車旅の魅力を発信。サイクリングアプリや、日本でもおなじみのミシュランガイドとの連携も成果を挙げました。

印象に残るモダンデザインの駅

オクシタニーに続いては、アヴィニョン観光局のブースへ。フランス南東部のアヴィニョンは古代ローマ時代に栄えた古都で、人口約9万1000人。

日本では童謡「アヴィニョンの橋で」で知る方がいらっしゃるかも。1100年代、ローヌ川に架橋された22連のアーチ橋「サン・ベネゼ橋」の完成を祝う歌で、現在も4連が残ります。

パリ~アヴィニョンのTGVは3時間弱で、アヴィニョン観光局の〝推し〟はTGV駅。TGVステーションはアヴィニョン中央駅とアヴィニョンTGV駅の2駅あって、特にTGV駅は写真のように印象に残るデザイン。2001年開業。著名なデザイナーが手がけました。

最高時速320キロのTGVが走るヨーロッパの鉄道王国・フランス 東京のワークショップで話題をゲット【コラム】
ドーム状の屋根におおわれたアヴィニョンTGV駅。構内には、日本のエキナカショップのような商業施設もあります
最高時速320キロのTGVが走るヨーロッパの鉄道王国・フランス 東京のワークショップで話題をゲット【コラム】
アヴィニョンTGV駅の断面図。2面4線で、中央2線が通過線、両端2線にホームがあります。線路に細長い駅舎が並行する、日本ではほとんど見ない駅構造です。

いつかはフランスで乗り鉄を

フランス鉄道の紹介は以上。サキドリフランス出展者も日本で鉄道の質問を受けるのは想定外だったようで、帰国後に写真を送ってもらうなど一定の手間を要しました。

いずれにしても、フランスは鉄道ファンにとってあこがれの地。ヨーロッパでは、地球環境問題への関心の高まりもあって、鉄道が見直されます。今回は東京で話を聞くだけでしたが、機会があれば現地で乗り鉄・撮り鉄したいと思いました。

記事:上里夏生
※特記以外の画像はフランス観光開発機構またはサキドリフランス出展観光局提供

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