関西私鉄の雄、マルーンの電車の魅力を関東で知る　ロマンスカーミュージアムで企画展「小田急と阪急」（神奈川県海老名市）【コラム】

全国に200社（者）以上ある鉄軌道事業者で、最強のブランド力を持つのは？　その答えで真っ先に思い浮かぶ鉄道の一つはおそらく阪急電鉄でしょう。

大阪・梅田を起点に京都、宝塚、神戸の３方向に路線を持つ阪急、日本生産性本部による顧客満足調査の近郊鉄道部門で2024年度まで16年連続で１位にランク。そんな情報を知らなくても、連想ゲームで「マルーン」と出題されれば、本サイトをご覧の皆さまの多くは反射的に「阪急電車」とお答えになるでしょう。

関東エリアにも〝マルーン愛好家〟は存在しますが、沿線外なのでそれを明かせる場は多くありません。そんな隠れ阪急ファンが、溜飲（りゅういん）を下げる機会がやってきました。

小田急海老名駅に隣接するロマンスカーミュージアムで、2025年12月３日から始まった企画展「Timeless ＆ Graceful～小田急と阪急、伝統と優雅さの本質」。年末年始を挟んだ2026年２月２日まで、秘蔵模型や多くの資料で阪急の魅力を解き明かします。

企画展の開幕を飾るトークショー（12月６～７日）で、阪急の魅力を熱く語ったのが藤田雅之さん。阪急公式のYouTubeチャンネル「【公式】阪急電車ファン全員集合！」で阪急電車館の館長としてチャンネルコーディネーターを務めます。

本コラムは藤田さんのトークを再構成。前身の一つ、1907年創業の箕面有馬電気軌道にさかのぼる略史とともに、代表的な車両をご紹介します。
（掲載の車両写真は阪急電鉄の厚意でご提供いただきました。

阪神急行と新京阪の２系統がルーツ

阪急電鉄の系譜を詳細にたどれば本コラム何本分ものボリュームになりますが、ここではポイントを絞って超略史にまとめました。

ルーツは「箕面有馬電気軌道→阪神急行電鉄」と、「北大阪電気鉄道→新京阪鉄道→京阪電気鉄道（先代）」の２系統。阪神急行電鉄は現在の主に神戸線と宝塚線、新京阪鉄道は同じく京都線を運行しました。両社は1943年に戦時統合、京阪神急行電鉄が誕生しました。

京阪神急行電鉄は1973年、阪急電鉄に社名変更。今はすっかり定着した阪急の社名、元をたどれば京阪神急行電鉄の略称です。

ところで、阪急神戸線の開業は1920年の梅田～上筒井（神戸市内の駅で現在は廃止）。1889年の国鉄（前身の鉄道院など）東海道線、1905年の阪神に比べ後発でした。

藤田さんは、「国鉄や阪神との違いを打ち出すため、社名に『急行』を冠したのでは」と推測します。

阪急の名車３選①「600系」

藤田さんは阪急の歴代スター車両を披露しました。その中から３選を取り上げます。

まずは1926年製の600系電車。日本で初めての本格的全鋼製電車です。

当時の阪神急行、大阪市内高架化などの完成を機に近代的なスチール製電車を投入しました。屋根が深く、車体はリベット多数の無骨なスタイルながら、社会は鉄道近代化を実感しました。

メーカーは現在の川崎車両の前身にあたる川崎造船で、各地の鉄道に同形車が現れました。戦後は２両固定編成に改造され、1975年まで現役でした。

名車３選②「100（P-6）系」

阪急史で説明不要の名車といえば、すばり100系電車です。別名「P-6」で、新京阪時代の形式名。２ドアクロスシートで大阪と京都を結びました。

1927年から複数メーカーで、VIP用貴賓車を含め73両を製作。メーカーによってリベットの打ち方や屋根カーブが異なり、ファンにとって格好の研究材料になりました。

〝100系伝説〟が、大山崎付近（京都府大山崎町）の阪急京都線と国鉄東海道線の並走区間。100系は力走する国鉄のSL特急「つばめ」を抜き去り、「関西に阪急あり」を強烈に印象付けました。

ロマンスカーミュージアムのイベントでは、阪急秘蔵の模型が登場。

名車３選③「2800系と6300系」

３選締めくくりは2800系と後継の6300系。2800系は1964年、京都線にデビューした２ドアクロスシート車。側面窓を２個ずつまとめた洗練されたスタイルで、ファンに愛されました。後年は車体中央にドアを増設して一般通勤電車に。2001年まで現役でした。

2800系の後継、6300系は1975年に登場。ほぼ同形の増備車、6330形も1983年にデビューしました。外装のポイントは車体上部のアイボリー。一般車両にも採用されました。

京都線の代表車両でしたが、一部は嵐山線に移動。2011年には、６両１編成が観光列車「京とれいん」に改造されました。

ところで2800系と6300系の違い、2800系は端部から窓２枚分中央寄りにドアがあるのに対し、6300系は車体端部がドアで、車内はオールクロスシートです（先頭車両を除く）。

このため、6300系はホームドアへの対応や通勤３ドア車への改造が難しく、２ドアのままフィナーレを迎えました。後継で2024年にデビューした2300系（２代目）は３ドアですが、車内はセミクロスシートで観光気分を味わえます。

「本物の電車に乗りにきて」

最後になりましたが、公式YouTubeチャンネル「【公式】阪急電車ファン全員集合！」で活躍する藤田さんのプロフィール。現役の阪急社員で、公式YouTubeチャンネル阪急電車館の館長です。阪急には1987年に入社。駅、車掌、運転士を経て企画列車などの業務に携わりました。阪急電車の魅力をファンの皆さまに伝えるため、YouTubeのチャンネルコーディネーターに抜擢されました。

YouTubeチャンネル「【公式】阪急電車ファン全員集合！」の動画は、阪急以外にも静岡県の大井川鐵道や名門鉄道模型メーカー・カツミの訪問記など話題満載。ロマンスカーミュージアムのナイストークとYouTubeチャンネルからは、深い鉄道愛・阪急愛が伝わってきました。

ミュージアムのイベントでは、年明け１月10～11日に館内ガイドツアー「バーミリオンオレンジの世界にようこそ」も。藤田さんからは、「阪急の魅力を感じたら、ぜひ本物の阪急電車に乗りにきてください」のメッセージをいただきました。

記事：上里夏生

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