広電は路面電車衰退の時代をどう乗り切り、令和の今もなぜ利用さ...の画像はこちら >>

かつて札幌、仙台、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、北九州、福岡と全国主要都市には軒並み路面電車が走っていました。しかし高度成長期の1960~1970年代、〝道路交通の邪魔者扱い〟されてほとんどの路線が廃止されました。

政令指定都市唯一の例外が117万都市の広島市。広島電鉄(広電)が明治の創業期から令和の現代まで都市のモビリティ(移動手段)として機能し、JR広島駅ビルに高架で乗り入れるなど進化を遂げ続けます。
通勤や買い物のマイカー依存度が約4割と高率にもかかわらず、広電が利用される最大の理由。前回本コラムの通り、交通結節機能を重視してJRや路線バスからの便利な乗り継ぎに力を入れ、「市内中心部の移動は広電一択」の意識を市民や観光客に定着させたからにほかなりません。

「人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in広島」(2026年3月15日、広島工業大学)をきっかけにした広島訪問。コラム続編では、広島港、広電宮島口といった交通結節点の電停をルポして、広電が愛される要因を考えました。

<前回記事> 駅ビル2階から路面電車が発車 JRと広電の交通結節機能を強化!生まれ変わった広島駅を見る(広島県広島市)【コラム】 https://tetsudo-ch.com/13025318.html

駅前広場に乗り入れた横川駅

広電ルポのスタートは横川駅(停留所)。広電は広島駅、横川駅、広電西広島、広電宮島口の4停留所でJRと接続します。
(TOP写真:2003年に広電が駅前広場に乗り入れた横川駅。横川は都心部へのアクセスの良さを買われ、広島の住みたい街ランキングで人気上昇中。近隣には歴史ある商店街や映画館があります・筆者撮影)

広電は2003年、それまで数十メートル離れた国道上にあった横川駅電停を駅前広場内に移設。ホーム全体を覆う大屋根も整備して、交通結節機能を充実させました。

筆者は横川発電車内で1日乗車券を購入。

海陸の交通結節点・広島港に向かいました。

広電は路面電車衰退の時代をどう乗り切り、令和の今もなぜ利用されるのか?  全線完乗で考えました(広島県広島市)【コラム】
広電の全線路線図。広島駅~広電宮島口が本線筋ですが、路面電車らしく広島市内各所にネットワークを持ちます(画像:広島電鉄Webより引用)

1957年から市内線と宮島線を直通運転

移動時間を利用して広電のミニヒストリー。会社設立は1910年6月、社名は広島電気軌道でした。広電が鉄道(宮島線)と軌道(市内線)に分かれることは本サイトをご覧の多くの皆さまならご存じでしょうが、鉄軌道の境界が鉄道は西広島駅、軌道は己斐(こい)停留所です。

長く鉄軌道は別線でしたが、1957年に駅構内の線路配置を変更して、市内線と宮島線が直通運転できるようになり、現代につながる郊外は一般鉄道、市内に入ると路面電車の〝広電二刀流〟が始まりました。

1960~1970年代は全国で路面電車廃止が相次ぎ、広電には廃止された各地の電車が譲渡され車両近代化が図られました。ドイツ(当時西ドイツ)のドルトムントからやってきた車両も交え、広電は「電車の博物館」と称されました。

現在は、1999年デビューの5000形「グリーンムーバー」に代表される超低床バリアフリー車が主力ながら、旧形車もまだまだ現役。ファンを楽しませてくれそうです。

海陸の交通結節点「広島港」

広電のルポに戻ります。瀬戸内海に面した広島市は海上交通も盛んです。
広島港電停の整備は横川駅と同年の2003年。国(中国地方整備局)などによる港湾埋め立て整備にあわせて電停を旅客船ターミナル前に移設しました。

こちらもホーム全体を覆う大屋根で、海陸の交通結節機能を充実・強化しました。

広電は路面電車衰退の時代をどう乗り切り、令和の今もなぜ利用されるのか?  全線完乗で考えました(広島県広島市)【コラム】
大屋根に覆われた広島港電停。取材日も電停前の広場にキッチンカーが集合、賑わいを演出しました(筆者撮影)

黒鯉のルーツは西広島駅に!?

広島港から鉄軌道の境界駅・西広島へ。かつて鉄道線は西広島、市内線(路面電車)は己斐(こい)という別駅でした。己斐は全国屈指の難読駅。半ば伝説ながら、190~200年ごろ神功皇后が献上された「黒鯉」に感動されたのが地名の由来ということです。

鉄道ファンなら見たいのが西広島の配線。4面6線のうち3線は市内線と宮島線の直通線。残り3線は市内線または宮島線の行き止まりです。
西広島と同じく複雑な配線の駅。筆者が思い当たったのは小田原で、小田急と箱根登山電車の境界駅です。

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西広島電停。広電宮島口発の電車が市内線に入って広島駅に向かいます。
ホームを挟んだ右隣は西広島止まりの市内線(筆者撮影)

広電で市内線と宮島線は沿線風景もまるっきり異なります。当たり前ですが宮島線は鉄道、市内線は路面電車。鉄道好きなら西広島ホームで行き交う電車を眺めるだけでも楽しめるでしょう。

世界遺産の入り口広電宮島口

広電ルポ、広電宮島口に到着しました。世界文化遺産の厳島神社(広島県廿日市市)観光には、宮島フェリー(主にJR西日本宮島フェリーと宮島松大汽船の2社が運航。両社の〝仁義なきバトル(?)〟は有名です)への乗船が必要で、フェリーターミナル前が広電宮島口。2022年7月、広電駅が海側(南側)に70メートルほど移設され、電車とフェリーの交通結節機能が強化されました。

駅舎のシンボルが大きな三角屋根で、横川駅や広島港に共通します。モダンで落ち着いたデザインで、何よりインパクト大。駅舎内には広電の営業センターがあります。

広電は路面電車衰退の時代をどう乗り切り、令和の今もなぜ利用されるのか?  全線完乗で考えました(広島県広島市)【コラム】
⑤世界文化遺産の厳島神社の玄関口・広電宮島口。シンボリックな大屋根に目を奪われます(筆者撮影)

広電版IC乗車「モビリーデイズ」

広電の近況をアトランダムに。乗車システムのMOBILY DAYS(モビリーデイズ)、広電グループが2024年9月に本格導入した交通系IC・QRコード決済システムで、簡単にいえば広島版ICOCAやSuicaです。
広電乗車時、通常はワンマン運転車両のように運転士のいる最前部から降車しますが、モビリーデイズならどのドアでも降車OKで便利です。

ただし、東京では当たり前になった「スマホ乗車」、筆者の乗車中はあまり見かけませんでした。

広電の運賃は全線240円均一。なので広電には一般路線バスのような整理券はありません。市内線で乗り継ぎの場合は乗換券をもらえます。「広電ではICOCAやSuicaは利用できない」の誤解も一部あるようですが、それは間違い。降車時、運転席横の読み取り機にタッチすれば、広島エリア以外のICカード乗車券も使用できます。

循環線開業と速度アップ

最後に広電の未来に続くニュース。一つは広島市中心部の「循環線」で、稲荷町~紙屋町東~広電本社前の周回ルートが2026年3月28日に開業、観光客らの街歩きを促します。

広電は路面電車衰退の時代をどう乗り切り、令和の今もなぜ利用されるのか?  全線完乗で考えました(広島県広島市)【コラム】
2026年3月開業の「循環ルート」。日中時間帯の運行で、JR山手線のように「内回り」、「外回り」と称されます(資料・広島市)

もう一つは速度向上。路面電車は軌道法で最高時速40キロに制限されますが、国の許可を受けて2026年3月から一部区間で試行的に50キロに引き上げています。クルマは50キロ走行しており、等速にそろえて接触事故を防ぐ狙いです。

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本コラムでは触れられませんでしたが、広電の超低床車の技術的ポイント。広電とメーカーが共同開発しました(資料・広島電鉄)
広電は路面電車衰退の時代をどう乗り切り、令和の今もなぜ利用されるのか?  全線完乗で考えました(広島県広島市)【コラム】
「人と環境にやさしい交通をめざす全国大会in広島」にNゲージ鉄道模型ブースを出展した関水金属(ブランド名・カトー)。ジオラマを山陽新幹線と広電の模型が快走します(筆者撮影)

広電が目指すのは「広島市中心部の移動は広電に任せれば大丈夫」(中尾正俊元常務の全国大会in広島での基調講演から)の安心感。広電の挑戦はこれからも続きます。

記事:上里夏生

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