インテルで輝きを放つアチェルビ Photo/Getty Images
奇跡の延長戦
インテルのフランチェスコ・アチェルビが脚光を浴びた。チャンピオンズリーグ準決勝バルセロナ戦、サン・シーロで迎えた93分、37歳のベテランCBがまさかの同点ゴールを叩き込んだ。
最終的にはダビデ・フラッテージが勝ち越し点を奪い、4-3(合計スコア7-6)で勝利し、パリ・サンジェルマンとの決勝進出が決まったが、誰もがまず称賛を送るべきはこの“老兵”だった。
その右足でのフィニッシュは、左利きであるアチェルビのキャリア66試合目にして欧州カップ戦初得点という劇的な一撃。サン・シーロを歓喜に包み、インテルを4度目の欧州制覇に一歩近づけた。そして何より、それは彼自身の苦難に満ちたキャリアの象徴的な瞬間でもあった。
アチェルビはミラノ郊外ヴィッツォーロ・プレダビッシで1988年に生まれ、下部リーグでキャリアを始めた。レッジーナ、キエーヴォ、ジェノア、ACミランと移籍を重ね、2013年から在籍したサッスオーロで初めて安定を手に入れた。その後ラツィオで4シーズン、2022年にインテルへと加入し、今季も主力として君臨している。
だが、アチェルビが戦ってきたのはピッチ上の相手だけではない。2012年、ACミラン在籍時に父を亡くした彼は、深い鬱に陥り、痛みや苦しみを紛らわすためにアルコールに頼るようになったという。
転機となったのは2013年のサッスオーロ移籍直後。定期検診で精巣がんが判明し、手術を受けた。だがその後、再発が判明。
ホルモン値の異常がドーピング検査で検出され、誤解を受けながらも、彼は再び治療に臨み、2014年初頭には化学療法を2か月受けている。
それでもアチェルビは「ひどい矛盾のように思えるかもしれないが、がんが自分を救ってくれた」と断言する。「人生をやり直し、すっかり忘れていた世界を見つめ直したようだった。怖くなくなったんだ。夢を見るのはやめて、シンプルな目標を大切にするようになった」と語り、がんとの闘病によって、鬱やアルコール依存からも抜け出した。
その言葉の重みは、4か月前に最愛のパートナーであるクラウディア・スカルパーリ氏と結婚し、2人の娘を育てる現在の姿からも伝わってくる。
バルセロナ戦でシモーネ・インザーギ監督はアチェルビをターゲットマンとして前線に投入。高さとフィジカルを頼りにゴールを狙う中で、彼はインテルの希望となるゴールをもたらした。
ジェットコースターのような人生を送ってきたアチェルビ。そして今、彼は自らの壮絶な物語に最後の1ページを加えようとしている。舞台はフースバル・アレーナ・ミュンヘン、欧州の頂点だ。
編集部おすすめ