代表の活動期間には限りがあり、多くの練習時間を取れるわけではない。パッと集まって試合をこなし、パッと解散になるケースが多い。
たとえ短い準備期間でも結果を出さなければならず、試合後に「連係を深める時間がなかった」という言い訳は通用しない厳しい世界だ。

 リオネル・スカローニ(アルゼンチン代表監督)、ディディエ・デシャン(フランス代表監督)、カルロ・アンチェロッティ(ブラジル代表監督)といったスター軍団を率いる指揮官は、いかにチームをまとめているのか。まずは、高品質の選手たちに良いコンディションで気持ちよく良くプレイしてもらわないといけない。チーム全体をマネジメントする能力を持ったスター軍団を率いる指揮官を紹介する。

デシャン2度目のW杯制覇へ スカローニは2連覇を目指す

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前回のカタール大会優勝のアルゼンチン代表を率いたのはスカローニ監督 Photo/Getty Images

 フランス代表がはじめてW杯を制したのは地元開催だった1998年大会で、キャプテンを務めていたのがディディエ・デシャンだった。早くから多数の移民を受け入れてきたフランス代表はさまざまなルーツを持つ選手で構成され、それぞれ個性的でまとまることが難しいときもある。このときのデシャンはピッチ内外で素晴らしい統率力を発揮し、母国を初優勝に導いてみせた。

 現役時代のデシャンはW杯を制しただけではなく、EURO(欧州選手権)、CLでもタイトルを獲得するなど輝かしい成績を残している。引退後はモナコ、ユヴェントス、マルセイユで監督を務め、2012年7月にフランス代表の監督に就任。以来、現在まで継続してチームを指揮している。

 デシャンは監督としても2018年ロシアW杯に優勝し、選手&監督で世界一になった3人目の人物となった(他2人はマリオ・ザガロとフランツ・ベッケンバウアー)。個性的で良質な選手たちをいかにまとめ、ピッチに送り出せばいいか。現役時代から人望が厚かったデシャンは良く心得ている。

一例としては、絶対的なエースであるキリアン・ムバッペの起用方法だ。大事なのは、彼が持つ能力をチームのなかで最大限に生かすことだ。「(ムバッペは)走らないが、他に多くの重要な能力、決定的な能力を持っている」(デシャン)という言葉にムバッペは攻撃>守備で良いとする方向性が表れている。

 デシャンが率いるフランス代表は、W杯に2大会連続で決勝進出している。北中米W杯でも優勝候補にあげられるが、監督として2度のW杯制覇を成し遂げたのは、1934年大会、1938年大会を連覇したイタリア代表のヴィットリオ・ポッツォ監督だけだ。デシャンは偉大な記録をかけて監督として3度目のW杯に挑む。

 2022年W杯決勝戦でこのフランス代表を下し、3度目の世界一に輝いたのがアルゼンチン代表で、当時44歳で出場国最年少だったリオネル・スカローニがチームを率いていた。スカローニは現役時代に戦術家であるホセ・ペケルマンのもとアンダー代表やA代表でプレイ。指導者となってからはアルゼンチンU-20代表監督と兼任でA代表のアシスタントマネージャーを務めていた。

 その後に暫定監督を経て、41歳だった2019年11月に正式監督となった。こちらもリオネル・メッシから守備の負担を減らすべく強度高く、献身的なプレイができる選手を中心にチーム作りを進め、暫定監督だった2019年7月のチリ戦から2022年W杯のグループステージでサウジアラビアに敗れるまで36試合連続無敗という記録を打ち立てた。このW杯に優勝を飾り、さらにはコパ・アメリカ2024にも優勝。
スカローニはこれまでに90試合を戦い、67勝14分9敗という高い勝率を誇っている。

 スカローニはポテンシャルが高い若手を積極的に起用するタイプで、フランコ・マスタントゥオーノ(18歳)、ニコ・パス(21歳)、ジャンルカ・プレスティアーニ(20歳)など次世代を担うだろう選手たちにすでにチャンスを与えている。各選手まだまだ若く、マスタントゥオーノは所属するレアル・マドリードで出場時間が短く、プレスティアーニはCLで人種差別発言の疑惑があるなどそれぞれ問題を抱えているが、代表監督は選手が置かれたこうした環境を良くみている。今後にスカローニがどのような判断を下すか、逆に注目される。
「われわれには素晴らしい選手が揃っている。(監督に)スカローニが就任して以来、みんなが熱意や興奮を持ってプレイできている」

 これは、メッシが昨年末に『ESPN』で残したコメントである。現在38歳のメッシが北中米W杯に出場するかどうかは未定だ。しかし、スカローニへの信頼、アルゼンチン代表への思いは厚く、最悪でも「現地で観戦する」とも語っている。スカローニは人心掌握に秀でたタイプで、若手はもちろん、経験豊富な選手からも人望がある。

史上初を狙うアンチェロッティ デ・ラ・フエンテは高勝率

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ヴィニシウスなどクセのあるタレントをまとめるのは、名マネージャーたるアンチェロッティの得意とするところ Photo/Getty Images

 カルロ・アンチェロッティがブラジル代表の監督に就任したのは、2025年5月のこと。セレソンが外国籍監督を招聘したのは、史上初のことだった。以来、北中米W杯南米予選も含めて8試合を戦い、4勝2分2敗となっている。敗れたのは南米予選最後のボリビア代表戦(0-1)と、記憶に新しい昨年10月に味の素スタジアムで行われた日本代表戦(2-3)だ。



 ボリビア代表戦はすでにW杯出場が決まった状態で迎えたアウェイゲームで、富士山の上をいく標高4,150mにある都市エル・アラトで開催された一戦だった。日本代表戦はアジアツアーの2戦目で、韓国戦から中三日とあって主力の多くを温存し、場数の少ない選手を起用した一戦だった。いわば負けても影響のない2試合で、アンチェロッティは自身の信念に基づいて強化を進めている。

「(選手は)代表に合流したら高いモチベーションを持っていないとダメ。常に競争があり、少しずつ試してどの選手がハマるかみていく。チームは複数のシステム、プレイスタイルで戦えないといけない。ブラジルの選手のクオリティであれば、できると信じている」(アンチェロッティ)

 これは日本代表戦の前日会見で語っていた言葉だ。日本代表戦ではCBのファブリシオ・ブルーノが緩慢なプレイで失点にからんだが、これで見切ることなくその後も招集して根気強く起用している。大事なのは北中米W杯で、本番で最高の結果を収めるべくチームを作っている。現在サントスでプレイするネイマールの状態も常にチェックしており、今後W杯に向けて強化試合を戦うメンバーリストに“ネイマール”の名前が入っていることが明らかになっている。

 過去、外国籍監督がW杯を制したことはない。優勝国の監督は、必ずその国の国籍というジンクスがW杯にはある。
東京での記者会見でこれを問われたアンチェロッティは、「たしかに外国籍でW杯に優勝した監督はいないが、物事にはすべてはじまりがある」との言葉を残している。

 現在のFIFAランキング1位はスペイン代表で、2022年12月からルイス・デ・ラ・フエンテが指揮官を務めている。デ・ラ・フエンテはアンダー代表のU-19、U-20、U-23の監督を務め、U-19欧州選手権2015、U-21欧州選手権2019に優勝。さらに、2021年に開催された東京五輪では準優勝している。こうした育成年代の好成績、プレイスタイルをA代表につなげるべく、ラウンド16で敗退という不本意な結果に終わった2022年W杯後にデ・ラ・フエンテが監督に就任している。

 現在のスペイン代表にはマルク・ククレジャ、マルティン・スビメンディ、ペドリ、ミケル・メリーノ、ミケル・オヤルサバルなど、アンダー代表でデ・ラ・フエンテと共闘した選手が多く、気心が知れている。ヤマル、ニコ・ウイリアムスなど次から次に優秀な若手が出てくるが、デ・ラ・フエンテは自国の育成年代を知り尽くしていて、彼らの力をA代表へ昇華させるのがうまい。

 37試合30勝4分3敗(PK戦も勝敗として換算)。デ・ラ・フエンテが就任してから、スペイン代表は恐ろしい勝率を残している。欧州選手権2024に優勝、ネーションズリーグ2024-25は準優勝に終わったが、ポルトガルとの決勝はPK戦での敗戦だった。すなわち、デ・ラ・フエンテ体制になってから90分間で負けた試合は2試合しかない。2023年3月のスコットランド戦(0-2)と2024年3月のコロンビア戦(0-1)で、ポルトガルに敗れたPK戦を引分けとすると26試合連続負けなしという状態だ。


 アンダー代表のころから国際経験を積み、なおかつ好成績を残してきた選手ばかりの“無敵艦隊”の司令官として、彼らと付き合いが長いデ・ラ・フエンテほどうってつけの人物はいない。北中米W杯で連続負けなし試合をどこまで伸ばすか要注目だ。

トゥヘル&クーマンも手駒が豊富 クリロナを使いこなすマルティネス

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屈指のタレント軍団イングランドを、前任のサウスゲイトから引き継いだのがトゥヘルだ Photo/Getty Images

 2025年1月からイングランド代表を指揮するトーマス・トゥヘルも外国籍監督でW杯優勝を目指すひとりで、就任からここまで10試合で9勝1敗という成績を残している。敗れたのは強化試合のセネガル戦で、公式戦(北中米W杯欧州予選)にはすべて勝利している。欧州予選を引分けもなしの全勝で乗り切ったのはイングランドとノルウェーだけで、好調な歩みをみせている。

 トゥヘルは就任最初のメンバー招集で代表から遠ざかっていた当時34歳のジョーダン・ヘンダーソンを復帰させ、32歳だったCBのダン・バーンを初招集するなど独自色を出したチーム作りを進めてきた。とはいえ、イングランド代表にはハリー・ケイン、デクラン・ライス、ジュード・ベリンガムなど“核”となる選手がいて、これらの選手はケガやコンディション不良でない限り外れることはない。

 既存の選手+新戦力をうまく融合してトゥヘルはチームを作ってきた。現在のイングランド代表はポジションによってはコマが豊富で、トゥヘルにはまだまだうれしい悩みがある。左サイドのウイングであれば、トゥヘルのもとマーカス・ラッシュフォード、アンソニー・ゴードン、ノニ・マドゥエケ、エベレチ・エゼなどが先発してきた。恐ろしいことに、コール・パルマー、フィル・フォーデンなども存在する。

 こうした豊富な戦力をいかに組み合わせて北中米W杯に挑むか。

3月31日(日本時間4月1日)には聖地ウェンブリーでイングランド代表×日本代表が行われる。いろいろなテストができる一戦にトゥヘルがどんなメンバーを起用するか。そして、この世界トップレベルの相手に日本代表がどんな内容&結果に終わるか、いまから楽しみでならない。

 北中米W杯で日本代表が対戦するオランダ代表もズラッとタレントが揃っている。監督を務めるのはロナルド・クーマンで、2022年W杯後から指揮を執っている。クーマンは2018年から2020年までの期間もオランダ代表監督を務めていたが、このときはバルセロナの監督に就任するために辞任。今回は2度目の代表監督就任となっている。

「いつもそうだが、われわれにはタレントが揃っている」

 これはFIFAのサイトでクーマンが語っている言葉で、現在のオランダ代表はとくにプレミアリーグで活躍する選手が多く、どのポジションにも隙がない。キャプテンのフィルジル・ファン・ダイク(リヴァプール)を筆頭に、ユリエン・ティンパー(アーセナル)、ナタン・アケ(マンチェスター・シティ)など最終ラインの選手はメガクラブでプレイし、中盤にはタイアニ・ラインデルス(シティ)、ライアン・グラフェンベルフ(リヴァプール)、前線ならコーディ・ガクポ(リヴァプール)、ドニエル・マレン(ローマ)といった具合だ。クーマンはこうした選手たちを適材適所で起用し、欧州予選を6勝2分けの無敗で突破している。

 ネーションズリーグ2024-25では準々決勝でスペイン代表に敗れたが、第1戦2-2、第2戦3-3という死闘で、PK戦までもつれ込む接戦だった。クーマンは現役時代も含めて国際大会の経験が豊富で、ファン・ダイクは「(クーマンは)ビッグマッチに向けてチームをどう準備すればいいかわかっている」と語る。北中米W杯の優勝争いを考えると、オランダ代表はなんとも不気味だ。「われわらは有力な優勝候補だとは考えられていないが、サプライズを引き起こすことができるチームだ」というクーマンの言葉をここに記しておきたい。

 クリスティアーノ・ロナウドが健在のポルトガル代表は、ネーションズリーグ2024-25に優勝している。指揮官を務めるのはロベルト・マルティネスで、アンチェロッティやトゥヘルと同じく、外国籍監督でのW杯優勝を目指している。2018年W杯はベルギー代表を率いて4強入りしており、52歳と若いがマルティネスにはすでに十分な実績と経験がある。

 スター軍団をまとめる手腕はベルギー代表でも証明済みで、ポルトガル代表でも技術力の高い選手たちに献身的な守備を求めつつ、攻撃では「個」の力が最大限に発揮されるように方向性を与えている。また、W杯優勝の可能性を問われたときには「自分たちや相手を分析し、改善することでネーションズリーグに優勝できた。同じように戦うことで実現できる」(マルティネス監督)と語っている。タレント軍団が明確な方向性を持ってプレイする強さがポルトガル代表にはある。

 なにより、マルティネスには41歳になったC・ロナウドへのリスペクトがあり、世界最高峰のストライカーを擁することをポジティブにとらえている。というか、ストロングポイントとしてC・ロナウドをフィニッシャーに据えてチーム作りを進め、実際に結果を残している。

 北中米W杯でC・ロナウドがワールドカップ・トロフィーを掲げるようなことがあれば、マルティネスの評価はさらに高まることになる。ネーションズリーグ2024-25では25年間勝利がなかったドイツ代表に勝利し、PK戦とはいえ欧州選手権2024王者のスペイン代表にも競り勝っている。ポルトガル代表はマルティネス指揮のもと、北中米W杯でなにかを起こすかもしれない。

文/飯塚 健司

※電子マガジンtheWORLD315号、3月15日配信の記事より転載

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