今年2月に逝去した世界的指揮者小澤征爾さんと親交が深かった村上さんが、小澤さんを偲んで、自宅から持参したレコードをかけながら、良き音楽を求め続けた小澤さんの足跡を辿りました。
この記事では、小澤さんとジェームス・テイラーとの思い出を語ったパートを紹介します。
◆小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ「ディヴェルティメント ニ長調 K.136 第1楽章:Allegro」
モーツァルトの「ディヴェルティメント ニ長調 K.136」は征爾さんにとっては大事な意味を持つ曲になっています。これは彼が桐朋学園時代に、恩師である齋藤秀雄さんにみっちり念入りに叩き込まれた曲であり、征爾さんが若い学生たちを仕込むときに必ずと言っていいほどテキストとして取り上げてきた曲でした。
僕は彼がオーケストラのリハーサルをするのを見ているのが好きだったので、この曲はいやというほど聴きました。モーツァルト初期の作品で、簡潔にシンプルに書かれていて、演奏すること自体はそんなに難しくないんだけど、実は奥が深い。
ここでは1992年に録音されたサイトウ・キネン・オーケストラの演奏をおかけします。心のこもった演奏というのは、きっとこういう音楽のことを言うのでしょうね。欲張ったところのない、純粋に求心的な音楽です。
モーツァルト「ディヴェルティメント ニ長調 K136」の第一楽章です。
◆Bonney, Kirchschlager, Ainsley, Tokyo Opera Singers, Saito Kinen Orchestra, Seiji Ozawa「ミサ曲 ロ短調 BWV232 グロリア9.合唱:世の罪を除かれるお方よ、10.アリア:父の右に座すお方よ、11.アリア:なぜならば、あなたのみが聖」
小澤さんはなぜかバッハを演奏する機会があまりなかったようです。だからこのサイトウ・キネン・オーケストラとの「ロ短調ミサ」BWV232の録音はとても貴重です。現代オーケストラによる演奏ですから、最近主流になっているピリオド楽器演奏によるバッハとはかなり音楽の傾向が違っています。しかしこの慈しみの気持ちにあふれる「ロ短調ミサ」は他の演奏には替えがたいものがあります。心が洗われるようです。
「グロリア」第9曲のコントラルトのアリア、第10曲のバスのアリア、第11曲のコーラスを続けて聴いてください。
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先日東京でジェームズ・テイラーのコンサートがありまして、行ってきたのですが、コンサートのあとでテイラーさんと楽屋で話をする機会がありました。そこで2人でずっと征爾さんの話をしていました。テイラーさんはマサチューセッツ州タングルウッドにある征爾さんの家のすぐ隣に住んでいて、とても親しかったんです。
これは征爾さんから聞いた話ですが、あるシーズン、ボストン・レッドソックスの開幕試合の日に、小澤家のテレビがたまたま故障してしまって、征爾さんがテイラーさんのうちに電話をして「これからお宅にテレビを観に行かせてもらっていいかな?」と訊いたら、テイラーさんは「僕はこれから球場にオープニングの国歌を歌いにいくから、好きにうちに来てテレビを観てくれていていいよ」と言ったそうです。しかしすごい話ですね。
番組では他にも、2人の対話集『小澤征爾さんと、音楽について話をする』の取材のために録音された会話の一部を特別公開する場面もありました。
<番組概要>
番組名:村上RADIO特別編~小澤征爾さんの遺した音楽を追って
放送日時: 2024年4月29日(月・祝)15:00~16:50
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/