「非常に感受性が強く敏感な人」を指す、HSP(Highly Sensitive Person)という言葉。最近ますますテレビや書籍、SNSなどで取り上げられることが増えてきました。
HSPという考え方は、アメリカの心理学者エレイン・N・アーロン博士が提唱したものです。病気ではなくあくまでその人が持つ「気質」とされ、実は5人に1人がHSPだといいます。
繊細で疲れやすいHSPは「仕事がつらい」と思うことも多いでしょう。しかし、そんな気質を理解して対策をとれば、今よりも快適に働くことができます。この記事では、HSPが仕事で少しでもラクになれる秘訣を紹介します。
■1. 自分が快適な状態を把握する
HSPは周りからの刺激に対してとても敏感です。ただし、その程度は人によって異なります。そのため、まずは自分がどういう状態だと快適なのか、逆にどういう環境は辛いのかといった目安を知っておきましょう。
例えば、以下のようなものが挙げられます。
- 5人以上の前で話すのは苦しいけれど、1対1なら話せる
- 直接会って話すのは苦手でも、電話なら少しは気がラク
- 会議での発言は苦手でも、事前に案を提出することはできる
- 満員電車での通勤は辛いけれど、各停電車で空いていれば快適
自分の中でこういった基準がハッキリしていれば、事前に対策を取りやすくなります。HSPは先回りして察する能力が高いことが多いです。自分が辛い状況に陥りそうであれば、それを回避する方法を工夫・提案してみましょう。
■2.優先順位やマイルールを決める
さまざまなことが「見えすぎる」のもHSPの傾向です。それはもちろん、優れた才能であることは間違いありません。
しかし「この仕事も済ませた方がいい」「あの件も確認しておかないと」と、あれもこれも気になってキャパオーバーになりがちです。刺激過多の状態はHSPをひどく疲れさせますし、一度にたくさんの仕事を抱えるのは向いていないのです。
そうならないために、明確に仕事の優先順位を決めておきましょう。「今日はこれだけ」という線引きも大切です。加えて、次のようなマイルールを決めてみてはいかがでしょうか。
- 頼まれた仕事は、1時間以内に終わるものだけ引き受ける
- 会社の電話は3回に1回しか出ない
- 定時以降は新たな仕事に着手しない
このように自分の行動基準を決めておくと、その場の状況に左右されず動けるようになります。自分が働く上で「大事にしたいこと」を再確認し、それを守るためのマイルールを考えてみてください。
■3.刺激から離れる・遮断する
職場に攻撃的な人がいる場合、HSPはとても消耗してしまいます。そういった人とは意識的に距離をとるようにしましょう。心の距離というよりは「物理的に」です。
大きな声で話す人や、咳払い、キーボードの音などが気になる場合は、可能なら耳栓やイヤホンを使ってみてください。「気にしない」ことは難しいので、物理的に音を遮断・軽減するのです。
また、会議やプレゼンなどで視線が気になる時には、メガネ(だてメガネ)をかけても良いでしょう。自分の前に1枚“フィルター”を設けることで、刺激を軽減することに役立ちます。パソコン用のメガネならPCからの光刺激も抑えられますし、普段かけない人でも取り入れやすいはずです。
■4.文字でのコミュニケーションを活用する
直接話すよりも、文字でコミュニケーションを取る方が得意というHSPも多いでしょう。なぜなら、相手の視線やその場の空気を感じることなく、自分のペースで考えて反応できるからです。
コロナ禍でテレワーク化が進み、仕事でチャットやメールのやり取りが増えた人も多いはずです。これを機に、さまざまな場面で文字ベースでのコミュニケーションを取り入れてみてはいかがでしょうか。会って話すことを避ける今だからこそ、慣習や思い込みにとらわれず、仕事の進め方を変えられるかもしれません。
■5.毎日必ず一人の時間を作る
HSPは、職場で一日過ごすだけでもぐったりと疲れてしまいます。
例えば、お昼の休憩を一人でとったり、朝一番に出社したりするのも良いでしょう。職場によっては休憩室・仮眠室を利用するか、トイレで一休みという手もあります。
非HSPの人にとっては、そこまでして一人になりたいの?と思うかもしれません。でも、HSPにはこのリフレッシュ時間がとても大切なのです。
ただし、HSPといっても外向的なタイプと内向的なタイプがあり、前者は他の人と過ごすことを好む傾向があります。自分が本当に“充電”できる過ごし方は何か、本音で考えてみてください。
■6.HSPの特徴を活かせる仕事・職場を選ぶ
最も効果的なのは、HSPの特徴を活かせる環境で働くことです。HSPには以下の「DOES」と呼ばれる4つの特徴があります。
- D:深く処理する
- O:過剰に刺激を受けやすい
- E:全体的に感情の反応が強く、特に共感力が高い
- S:些細な刺激を察知する
HSPは全体の15~20%という、いわば少数派。つまり、この特徴を活かすことができればそれだけで大きな強みになります。例えば以下のような仕事が向いているでしょう。
- 正確さが求められる仕事(システムエンジニア、経理など)
- 共感力の高さを活かせる仕事(整体師、カウンセラーなど)
- クリエイティブな感性が発揮できる仕事(デザイナー、カメラマンなど)
一方で、スピード感や競争が求められるような仕事や、不特定多数の相手と関わったり、臨機応変に対応したりすることは苦労を伴います。
今しんどいと感じている仕事や職場はどうでしょうか。自分に合っていないと思う場合は、転職を考えるだけでなく、部署や担当業務の変更を希望することで状況を変えられる可能性もあります。一度ぜひ、この観点から現状を振り返ってみましょう。
■おわりに
筆者自身もHSPの気質を持つ一人です。HSPという概念を知ってから、自分自身を深く理解するとともに、今では自分に合った対策や働き方ができるようになりました。
HSPの特徴を知り、上手に付き合うことができれば、しんどい状況もきっと好転できます。今回紹介した内容をヒントに、自分に合った方法を無理なく取り入れてみてください。
【参考】
『敏感な人や内向的な人がラクに生きるヒント』イルセ・サン (著), 枇谷 玲子 (翻訳) ディスカヴァー・トゥエンティワン
『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』武田友紀 (著) 飛鳥新社
『HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)の教科書』上戸えりな (著) Clover出版
『「人一倍繊細なあなたへ」HSPの個性が輝く”生き方と働き方”( https://limo.media/articles/-/19374 )』LIMO
『漫画で知る「HSP:敏感すぎる人々」。あなたは”1人が一番楽”と思いますか?( https://limo.media/articles/-/14226 )』LIMO