金融庁の調査によって表面化した老後2000万円問題。しかし、以前から老後資金の長期形成の大切さが叫ばれていたものの、貯蓄にまわす余裕がないというのが現実かもしれません。
■2000万円貯蓄している60代は2割を越える
実際、2000万円貯蓄している60代世帯はどのくらい存在するのでしょうか。金融広報委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和元年)( https://www.shiruporuto.jp/public/data/survey/yoron/futari/2019/19bunruif001.html )」より「金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯も含む)」の60代世帯についてみてみましょう。
60歳代(世帯主の年齢)
【金融資産保有平均額:1,635万円(中央値650万円)】
100万円未満:3.5%
100~500万円:13.8%
500~1000万円:11.1%
1000~2000万円:15.6%
2000万円以上:24.5%
60代の時点で2000万円を越えている世帯は、2割を越えるという結果です。でもここで見逃せないのが、金融資産を持たない世帯。実は、同データにおける60代世帯の金融資産非保有世帯は23.7%にものぼるのです。2000万円以上の資産を持つ世帯と、まったく貯蓄のない世帯がほぼ同じ割合と、2極化している現状が浮き彫りとなっています。
■本当に老後2000万円も必要なのか
しかしまずここで、本当に老後に2000万円必要なのかを考えてみましょう。総務省統計局の「家計調査報告( https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_mr.pdf )」(令和2年9月分/二人以上の世帯)によると、1ヵ月の消費支出は1世帯あたり269,863円、うち勤労者世帯では304,161円、無職世帯では215,301円だそうです。また、60代以上の支出は現役期と比べて2~3割ほど減少する傾向にあるといわれています。
老後2000万円が話題となった金融庁の「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書( https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf )」。これは、夫(65歳)妻(60歳)がともに無職、30年後まで毎月5.5万円の赤字となる生活を続けた前提で算定されたものです。そのため、ここで導き出された2000万円という数値が自身のライフスタイルとはかけ離れているケースも当然ありえます。まずは自分の生活を把握し、必要な老後資金について見直すことが必要になるでしょう。
■焦って運用せず、家計の見直しをすることも効果的
米国では75歳以上の高齢世帯がもつ金融資産が、ここ20年で3倍ほどに増加しているのだそう。一方、日本ではほぼ横ばいで推移し、先述の金融庁調査でも「世代別の老後不安」において20~50代のトップが「お金」と、資金面の不安が若年層にも広がっていることが分かります。
長期の資産形成の必要性が注目されている今ですが、「それなら自分も早く取り組まねば」と焦ってリスクの高い資金運用に手を出す前に、家計の見直しをすることも大切です。収入や支出はそれぞれの家庭に合わせて比較的コントロールしやすいですが、リスク運用はマーケット次第というデメリットがあります。リスクのある資産運用をするときは、生活を圧迫しない余裕資金を活用するようにしましょう。とくに60代では子どもの独立など家族構成も変化していることがあります。各種契約の見直しなどをすることで、不必要な支出を減らすことも可能かもしれません。
また一般的に、60代ともなれば月収も高くなり、生活水準も上がっている傾向にあります。そのまま引退生活に入り、生活水準を落とせずに贅沢な暮らしを続けていれば、やはり貯蓄はいつか底をついてしまうことになります。貯蓄や年金から自分たちの老後資金がどのくらいあるのかを把握し、マネープランを立ててみるといいでしょう。身の丈にあった生活をしていくことが資産寿命を延ばすことにもつながります。
■不安ならば便利な制度を用いても
それでも、節約や年金だけでは不安という人も少なくないでしょう。資産運用にはさまざまなリスクの商品がありますが、iDeCoやつみたてNISAといった、節税対策ができて比較的取り組みやすい商品もあります。早めに資産運用を始めたいなら、まずは口座を持っている銀行などに相談してみるのもいいかもしれません。
いずれにせよ、老後生活にお金が必要であることは紛れもない事実。年金や貯蓄で生活がまかなえなくなれば、最悪老後破産に至ってしまうこともあるかもしれません。「お金のなさ」で不安を感じるなら、まずは収入と支出を可視化して、しかるべき対策をとっていきましょう。
【ご参考】貯蓄とは
総務省の「家計調査報告」[貯蓄・負債編]によると、貯蓄とは、ゆうちょ銀行、郵便貯金・簡易生命保険管理機構(旧郵政公社)、銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金、生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式、債券、投資信託、金銭信託などの有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価、債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と、社内預金、勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計をいいます。
【参照】
金融広報委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査](令和元年)( https://www.shiruporuto.jp/public/data/survey/yoron/futari/2019/19bunruif001.html )」4金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯も含む)
総務省統計局「家計調査報告( https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_mr.pdf )」-2020年(令和2年)9月分及び7~9月期平均-
金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書( https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf )」

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