子供にかかる教育費の中で最も大きいのは大学進学費用。たとえ早いうちから準備をしていても、進路によっては予想以上にお金がかかることも起こりえます。

そんな時、進学を諦めることなく、勉強を続けるのを後押ししてくれるのが奨学金制度です。



現在は独立行政法人日本学生支援機構(以下、日本学生支援機構)に名称も変更され、制度内容も変わっていますが、筆者も何十年か前、「日本育英会」の奨学金制度を利用したことがあります。



その日本学生支援機構が、大学学部、大学院および短期大学本科の学生を対象に調査を実施(有効回答数43,394人)。結果をまとめた「平成30年度 学生生活調査報告」には、実際に奨学金を利用している学生の割合や、利用している家庭の年間収入などについて調査結果が出ています。どんな結果だったのかを見てみましょう。



■奨学金制度を利用しているのは約半数



「平成30年度 学生生活調査報告」によると、学校区分別(国公立・私立を合わせた平均)の奨学金受給者(注1)の割合は、短期大学(昼間部)が55.2%と最も高く、大学(昼間部)47.5%、大学院修士課程48.0%、大学院博士課程53.5%、大学院専門職学位課程41.1%(図表1参照)。



注1:日本学生支援機構、地方公共団体、地方公共団体、民間団体、学校からの奨学金受給者



図表1:奨学金を受給している学生の割合・学校区分別(平均)



年収によって奨学金を利用している割合はどのくらい違うのか

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出所:日本学生支援機構「平成30年度 学生生活調査報告」を基に筆者作成



このように、大学院専門職学位課程以外は、概ね約半数が奨学金を受給しているという結果になっています。



■年間収入別の奨学金受給者の割合



大学(昼間部)について、家庭の年間収入別の奨学金受給希望・受給状況を見てみると、300万円以下の家庭では受給者の割合が約8割。以降、年間収入が上がるにつれて奨学金の受給者の割合は少なくなっています(図表2参照)。



図表2:年間収入別 奨学金受給者の割合・大学(昼間部)



年収によって奨学金を利用している割合はどのくらい違うのか

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出所:日本学生支援機構「平成30年度 学生生活調査報告」を基に筆者作成



とはいえ、年間収入800万円以上900万円未満でも受給者の割合は約2人に1人。900万円以上では「奨学金は必要ない」の割合が約7割近くいる一方で、4人に1人は奨学金を受給しています。このように、高所得世帯であっても奨学金制度を利用している家庭はそれなりにいるようです。



たとえば大学生の子供が複数いたり、まだ住宅ローンの返済が終わっていないという状況もあるでしょう。また、高所得層の家庭では塾通いや私立の中高一貫校への進学など、教育費に多くのお金をかける傾向もあるため、結果的に奨学金の利用につながっているのかもしれません。



■大学卒業後には返済が始まる



経済的な理由で進学を迷っている場合、奨学金制度は頼れる味方です。筆者自身、奨学金制度がなかったら全く違う人生を送っていただろうと思います。ただし給付型ではなく、貸与型の奨学金の場合、卒業すると奨学金の返済が待っています。



日本学生支援機構の返済は、貸与終了の翌月から数えて7か月目の月(3月に貸与終了した場合は10月)から始まります。しかも、第一種奨学金(無利子)ではなく、第二種奨学金(利子付き)の場合、在学中は無利子ですが貸与期間終了の翌月1日からは利子が発生します(注2)。



受け取った奨学金の総額(貸与総額)によって返済期間は異なりますが、筆者は返済に10年ほどかかりました。一人暮らしをしながらの奨学金の返済は、なかなか大変だったというのが実感です。



注2:返還期限猶予中の期間については利子は発生しない。



■返済を延滞するとローンが組めなくなるケースも



奨学金も通常のローン同様に、返還金を延滞すると本人や連帯保証人、保証人に対して文書と同時に電話による督促が行われます。



そして、個人信用情報の取り扱いに関する同意書を提出していて、かつ奨学金を返還している人が、3か月以上延滞すると、個人信用情報機関に個人情報が登録されることになります。



個人信用情報に延滞者として登録されると、クレジットカードが発行されなかったり、利用が止められたりすることがあります。また、自動車や住宅のローンなど各種ローンが組めなくなる場合もあります。



奨学金だからと安易に考えることなく、計画的に返済していくことが非常に重要です。



■おわりに



最近では日本学生支援機構だけでなく、学校をはじめ各種団体が奨学金制度を設けています。また、貸与型だけでなく、返済が不要な給付型の奨学金制度も充実してきており、学びたい意欲を持っている学生の選択肢は広がったといえるでしょう。



一方で、貸与型の奨学金は借金であることに変わりはありませんから、学生から社会人になると同時に返済が始まります。そのため、大学に進学する本人が明確な理由を持っていないと後で後悔することになるかもしれません。



借金を背負って社会人としてのスタートを切ることを考えると、親の側は、大学にかかる費用の大部分ではなく、足りない一部分を補う程度に奨学金制度の利用を選択肢にしておくのがよいのではないでしょうか。



参考資料

  • 平成30年度 学生生活調査報告( https://www.jasso.go.jp/about/statistics/gakusei_chosa/__icsFiles/afieldfile/2020/10/22/houkoku18_all.pdf )(独立行政法人日本学生支援機構)
  • 2020年 返還の手引き( https://www.jasso.go.jp/shogakukin/henkan/houhou/__icsFiles/afieldfile/2020/09/17/202009_r2_henkan_tebiki_1.pdf )(独立行政法人日本学生支援機構)
  • 個人信用情報機関への個人情報・個人信用情報の登録( https://www.jasso.go.jp/shogakukin/entai/kojinjoho.html )(独立行政法人日本学生支援機構)
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