株価が堅調で、配当利回りも高い商船三井(9104)。
最近では株主優待の拡充も発表しました。
ポジティブな材料だらけの商船三井ですが、今から株を買う時には気を付けたいリスクがあります。
今回は、商船三井の株式投資での要注意なリスクを解説します。
※グラフなどの各図表は、画像一覧をご覧ください。
■1. 商船三井が株主優待を拡充
商船三井は2022年5月20日、株主優待を拡充すると発表しました。
従来、グループ会社が運航する「にっぽん丸」クルーズで利用できる優待券を提供していましたが、今回、フェリーでも利用できる優待を追加します。
■1.1 株主優待の拡充の概要
毎年9月末日現在で株式1単元(100株)以上を持つ株主を対象に、以下の優待を提供することとなります。
- グループ会社2社が運航するフェリーで利用できるフェリーサービス共通クーポン券
- クーポン1枚につき、フェリーの旅客運賃から5,000円を割り引き
- 大人1名1乗船1枚の利用
- 有効期間は1年間
- 現金との引き換えや差額の返金は不可
- クーポン券の再発行はなし
優待拡充の理由について商船三井は「株主の日頃の支援に応えるほか、より多くの投資家に船を一層身近に感じてもらう機会を創出し、株式を中長期的に保有してもらうため」としています。
■2. 商船三井の株価はどのように推移したのか
商船三井の株価は、2021年序盤から強い勢いで上昇しています。
※株価の数値は全て株式分割の影響を遡及調整しています。
株価は600円から1000円台前半での推移が長らく続いてきました。
しかし、各国経済が新型コロナウイルスの蔓延による影響から盛り返す中、資源需要が急速に回復し、受給のひっ迫から輸送運賃も急上昇。
結果、海運会社の業績を占う指標とされるバルチック海運指数は右肩上がりで推移し、これらの環境を好感する形で商船三井の株価も押し上げられたと推察できます。
2020年1月の水準と2022年5月の水準を比較すると、実に3.7倍近く値上がりしたことになります。
■2.1 TOPIXとのパフォーマンス比較
次の図は、2020年1月第1週の終値を100としたパフォーマンス比較図です。

筆者作成
これを見ると、商船三井の株式のパフォーマンスがいかに高かったかがよくわかります。
■3. 商船三井の配当利回りはどのくらいか
商船三井は2023年3月期の連結業績について、売上高で1,353,000百万円、営業利益で46,000百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で500,000百万円を予想しています。

出所:株式会社商船三井 配当方針・実績
1株当たり当期純利益の予想は1,389.63円で、配当性向25.2%のもと、年間で配当金を350.00円と見込んでいます。
2022年5月25日の終値が3,600円ですので、配当利回りは9.7%となります。
ちなみにこの9.7%という水準は、同日終値ベースで東証全市場において日本郵船(9101)に次ぎ2番目に高い水準です。
なお、9%を超えている銘柄はこの2つしかありません。
■4. 商船三井の株式のリスクとは
足元で株価が堅調で、配当利回りも高く、株主優待も拡充。
こんなにポジティブ材料のある商船三井について、今から株式を買おうか検討されている投資家の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、今から買ううえで、ぜひ頭に入れておきたいリスクがあります。
■4.1 リスク1:不安定な業績
商船三井に限らず、海運ビジネスはもともとハイリスクな事業です。
世界各国の資源需要の波の影響を大きく受けるほか、タンカーの製造リードタイムが長く、需要量の変化に対して供給力の柔軟な調整が難しいといった点が理由として挙げられます。
結果として、商船三井の売上高の推移は下図のように基調が読みづらいです。

出所:株式会社商船三井 損益状況
また、営業損益については下図のように黒字・赤字を転々としています。

出所:株式会社商船三井 損益状況
とりわけ、ここ数年の業績にフォーカスすると、売上高は減少傾向にあり、営業損益も悪化のトレンドにあります。
この実績と足元の株価推移を見比べると、方向感にミスマッチさが感じられるのではないでしょうか。
もちろん、「事業環境の改善に伴って、業績回復を見越した買いが先行して株価を押し上げている」といった可能性もあるでしょう。
しかし、3.7倍近くの株価上昇を踏まえると、「市場が抱いている期待は過大過ぎないか?」という点についても、意識を払うことが重要ではないでしょうか。
■4.2 リスク2:株主優待に関する不安定な環境
商船三井は株主優待の拡充を発表しましたが、実は株主優待についても、世の中の動向は不安定となっています。
2022年に入って、日本たばこ産業・JT(2914)やオリックス(8591)といった、優待が人気な企業が相次いで優待の廃止を発表しました。
理由について両社は「株主還元の公平性を高めるため」と説明しています。
株主優待は、機関投資家と個人投資家で受ける恩恵に差の出る制度です。
東証が機関投資家を意識した市場改革を行うなど、金融市場全体でコーポレート・ガバナンスへの意識が高まる中、優待は廃れていく可能性があります。
商船三井ももしかしたら近い将来、株主優待を廃止するかもしれません。
■5. まとめにかえて
ポジティブな点の目立つ、商船三井。
しかし、株式投資は先を読むゲームです。
今どんなリスクをはらんでいるのかを意識し、将来の想定をしながら投資すべきか否かを考えるのが重要ではないでしょうか。
参考になれば、幸いです。
■参考資料
- 株式会社商船三井 IR情報( https://www.mol.co.jp/ir/ )
- 株式会社商船三井 決算情報・財務データ( https://www.mol.co.jp/ir/accounts/index.html )
- 株式会社日本取引所グループ 市場区分見直しの概要( https://www.jpx.co.jp/equities/market-restructure/market-segments/index.html )
- 株式会社日本取引所グループ「各新市場区分の上場基準」( https://www.jpx.co.jp/equities/market-restructure/market-segments/nlsgeu000005mhh3-att/Criteria_jp.pdf )
- オリックス株式会社「株主優待制度の廃止に関するお知らせ」( https://www.orix.co.jp/grp/company/newsroom/newsrelease/pdf/220511_ORIXJ4.pdf )
- 日本たばこ産業株式会社「株主優待制度の廃止に関するお知らせ」( https://www.jti.co.jp/investors/library/press_releases/pdf/2022/20220214_13.pdf )