■”アメリカ車”への追憶が吹き飛んだ~クルマと遊ぼう(12)



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四半期に一度ペースの北米シカゴ出張では、毎回空港からハーツのレンタカーを借りている。



最近のレンタカーのシステムは感心するほど便利になっており、前もってホテルやフライトの予約と一緒にレンタカーもブッキングしておけば、カウンターでの手続きを待つ長い列に並ばずに済むばかりか、貸出プールに待機しているクルマの中から好きなのを選んでそのまま走り出し、出口ゲートで登録さえすればすべて完了!という何とも便利なシステムである。



■喜び勇んでスタートボタンを押すと...



元々アメリカ車好きな私としては、せっかく北米に来たのだから、ここはひとつアメリカ車を借り出したい。ところが私を迎えてくれるのは、たいていヒュンダイのソナタか日産のアルティマばかり。そもそも予約するときにネットの画面に出てくるのはクライスラー 200か同等のクラスという案内なのだが、いまだかつて貸出プールにその姿を見たことがない。



ところが、今回のシカゴ出張の際は車両の入れ替えがあったようで、見飽きた韓国車、日本車の中に“デトロイト 3”のクルマ達を見つけることができた。そこで私が1週間のシカゴ滞在の相棒に選んだのは、真っ白なシボレーマリブ。オドメーターを見てみると走行はまだ400マイルというほぼ新車といえる状態。まさに、グッジョブ、ハーツ!だったのである。



早速トランクスペースにスーツケースを放り込み、スタートボタンを押してみる。軽いセルモーターの回転音に続いて、ミーン♪というこれまた軽いエンジン音…。



えっ! ちょっと待て…排気量はもしかして小さいのか? おいおい、マリブだぜ?



何十局とあるサテライトラジオの中からヒップホップを探し出しつつ、いわゆる取扱説明書のページをめくってみる。すると、なんとあのミーン♪という軽い唸り音は1.5リッター4気筒ターボエンジンが回る音だった。



シボレーマリブといえば、私と同じ1964年デビューで70~80年代のシボレーの上級ミドルセダンを象徴するモデルであり、特別なグレードであったSSは当時のNASCARでも活躍している。



途中空白があったものの、現在までシボレーのラインアップに名を連ねていることは知っていたが、まさか今やその心臓はコンパクトカーと同じような小排気量をターボで補い、多段化トランスミッションでストレスなく走らせる、といったクルマになっているとは想像もしていなかった。



さらに説明書を読み込んでみると、最高出力は160馬力、最大トルクは25㎏ちょいということがわかった。これを6速の電子制御オートマチックトランスミッションでエンジンの力を余すことなく使い切りながら走るということらしい。



シボレーマリブよ、お前もか...無国籍なクルマを生むダウンサイジング

■往年の”アメリカ車”から様変わり



事前学習も十分に済んだので、走り出してみた。ゼロからの発進は至ってスムーズ。いわゆるミドルサイズのセダンなので、決して軽くはないであろう車体なのだがストレスなく他車の流れについていける。ただ、タコメーターを見る限り、かなり細かくシフトチェンジをしているようで、私の好きなアメリカ車を象徴する「息の長い加速」はもはやそこにはない。



加えて、ひと昔前の大排気量のアメリカ車であれば、アイドリングに近い回転域からでも、ひとたびアクセルを踏めば強大なトルクでドロドロモリモリ加速をしたものだが、この最新型マリブは加速しようとするとギアが一段落ち、途端に例の「ミーン」という軽い唸りと共にタコメーターの針は軽快に動き、小気味よく変速をしていく。



足周りもひと昔前のワナワナ、ブルブルした感覚に代わって、フリーウェイのコンクリートの継ぎ目をタタン、タタンとショックを上手に吸収しながら走る車になっていた。



こうなると、この新型シボレーマリブは、私にとっては特徴のない無国籍なクルマにしか感じられず、せっかく米国に来たのだからアメリカ車を・・・という当初の期待をガラガラと崩れさせるに十分な「無難なよくできたクルマ」になってしまっていた。



そして、さらに私を驚かせるに十分な出来事は、フリーウェイを降りて最初の信号で止まった時に起きた。なんと、アイドリングストップ! 確かに今どきのクルマなのだから、アイドリングストップが付いていても何ら不思議はない。



しかし、ミドルサイズセダンなのに1.5リッター4気筒の小さなエンジンを積み、ちょこまかちょこまか変速を繰り返しながら「ミーン」という軽い音を社内に響かせながら走るセダンが、信号で止まると極めつけのアイドリングストップ…。私の中で往年のシボレーマリブへの追憶は、もうどっかに吹き飛んでしまった。



次にシカゴに行くときは素直に日産のアルティマにしておこうと、心に決めたのであった。



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