DC加入者はいい意味で「ほったらかし投資」ができているとされていた

 DC(確定拠出年金)制度の利用者が、合計で1,000万人に近づきつつあります。


 企業型DCの加入者は2021年2月末段階で約750万人と、この4月の新規導入企業の増加、および導入済み企業への新入社員の増加を考えると、数十万人の上積みが予想されます。


 これに個人型DCである、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の加入者数が2021年3月末段階で約194万人となっています。


 合計すると約944万人となり、ついに1,000万人の大台が見えてきました。


 DC制度の利用者は、おおむね合理的な投資行動を取ってきたとされます。一部に、リーマン・ショックの後、あわてて売却するような人はあったものの、多くの人はあせって損失確定をすることもなく、新規掛け金については、淡々と積立投資を続けていました。


 中長期投資を考えるなら、短期的な売買は必要ありません。売買回転率が低いことも、DC制度の特徴とされています。


 実際、長期・積み立て・分散投資がDCでは機能しており、多くの人がプラス運用に成功している状態が、R&I(格付投資情報センター)の専門誌「年金情報」などでは報告されています。


 ところが、加入者が1,000万人に近づき、国民の利用率が高まっていく中で、こうしたDC制度のよいところを生かせず、合理的な行動を取ることができなくなっている人も増えてきた、という懸念があります。


「売り」と「買い」の行動が大きかった!最近のDC投信売買動向

 DC向けの投資信託(ファンド)は以前から販売手数料を無料にすることが多く、ノーロード(手数料無料)設定が主流でした。また運用管理費用(信託報酬)も窓口販売と比較して低めに設定されることが多く、「DC専用ファンド」のように区分されています(一般に販売されているファンドとDC専用ファンドがマザーファンドから分かれる仕組み)。


 このDC専用ファンドの動向を見ると、DC加入者の投資動向がおおむね、うかがい知れるわけですが、2020年10~12月、そして2021年1~3月には対照的な傾向が見受けられたようです。


 年金専門誌「年金情報」によれば、2020年度第3四半期の売買動向を見ると、購入については前年度同期とほぼ変わらない水準であったものの、売却のほうはプラス25%と急増しました。


 特に国内株ファンドについては購入額を売却額が上回る状態です。基本的には、毎月の掛け金で購入する動きがありますから、何もなければ基本的に購入額がプラスになります。

これを考慮すると、いかに売却の動きが激しかったかが、分かります。


 背景となったのは2020年の最後にやってきた大幅な株高でしょう。値上がりを見て「これは売らなくちゃ!」という動きがあったものと思われます。


 一方で、「モーニングスター」の最新ニュースなどを読み解いてみると、2021年に入ってからの3カ月(2020年度第4四半期)は、DC専用ファンドの売買動向は「買い」が優勢、とのことです。新規導入したDC企業の影響もあったようですが、バランス型ファンド、外国株(先進国)株式ファンドに大幅な資金流入があったとみられています。


 これはつまり「上がっている! さあ買わなくちゃ」という動きがあったということですが、さて半年の市場の流れを考えてみると、この投資判断はどうでしょうか。


「売って、結局また買う」?「今ごろようやく買う」?

 ここで紹介されているのは全体での売買動向ですから、個人がみな同じように動いたというわけではありません。個人ベースではいろんな動きが考えられます。


 しかし、以下のようなケースで投資行動があったとしたら、これは賢いといえるでしょうか。


ケース 2020年10~12月 2021年1~3月 1 売り 動かず 2 動かず 買い 3 売り 買い

ケース1:2020年10~12月「売り」→2021年1~3月「動かず」

 結果として振り返れば、株価が上がり始めたことをみて売った(おそらく利益確定)ことはいいが、その後、さらなる上昇で得られたはずの利益を取り逃したともいえます。


 また、この後、何も行動しなければ利益確定した分(DCでは預金などの元本確保型商品にしておく)については、上昇は期待できないままとなります。


ケース2:2020年10~12月「動かず」→2021年1~3月「買い」

 こちらのパターンの多くは、投資していなかった分(元本確保型商品を保有していた分)があった人が新規投資を行ったという流れです。


 DC全体では投資信託と預貯金などの割合がほぼ5:5となっていますから、まだまだ多くの人が投資余地を残しています。


 しかし、日経平均株価が数十年ぶりの高値だからと軽い気持ちで投資割合を高めたのなら、ちょっと心配です。5~10%下がるくらいはよくあることですが、そのとき長期投資を見据えて持ち続けることができるでしょうか。


ケース3:2020年10~12月「売り」→2021年1~3月「買い」

 もっとも不毛な投資行動はこれかもしれません。


 2020年末ごろ、これは高値、利益確定とばかりに売ったものの、その後の株価のさらなる上昇を見て、また買い直しているパターンになります。これなら何もせずに保有しつづければ、その間の上昇分も手元に納めることができたわけです。


 DC専用ファンドは信託財産留保額を取らないことも多く運用益は非課税ですから、それらのコストは中立的とはいえ、売買に動いた分、やはりムダなこととなっています。


 実際にはこれ以外にも、いろんな売買パターンがありえます。いずれにせよ、積極的に投資行動を見せたDC加入者が、うまくない結果に陥ったパターンがありそうです。


DCの投資スタンスは基本、様子見でいい

 今までのDC加入者は、“いい意味での「ほったらかし投資」“をしていました。これは無関心による部分も少なからずあったのかもしれません。


 しかし、利用する人が増え、徐々に投資に対する関心も高まっている今、そうした無関心が故の「ほったらかし」に頼るのは難しくなっています。


 投資教育に関わる人の考え方や技量にも影響するところがありますが、ここから先は少しずつ意識を変えて“分かった上での「ほったらかし投資」“にステップアップが必要なのでしょう。


「安く買って、高く売る」というのは簡単ですが、その「高いところ」を見間違えて売ったのが、2020年10~12月の売買動向だといえますし、「安い」どころか大幅に値上がりしてる流れで買ってしまっているのが、2021年1~3月の売買動向です。


 しかし、それぞれの瞬間では、自分の行った投資判断が間違っているとは思いません。それが投資判断の難しいところです。


 DCは定期的な拠出のみで積み立てし、まとまった額の任意拠出はできません。投資信託ですから売買タイミングも選べません。投資対象もベーシックなインデックスファンドが中心で、銘柄選びを行う余地もほとんどありません。


 またゴールは60歳以上と、遠くに固定されています。基本的には上下動を繰り返す市場と長期・積み立て・分散投資を続けていき、ひんぱんな売買を行わない方が、労少なくしてベターな運用結果にたどりつくと思われます。


 今回、短期的には判断を失敗した人はその教訓を生かし、これからは中長期的な回復や上昇を待ちたいものです。DCは基本的に、あわてて動かないほうがいいのです。


(山崎 俊輔)

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