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著者の加藤 嘉一が解説しています。

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「 中国の景気は迷走。足を引っ張る「不動産不況」と再燃する「若年層失業率問題」 」


景気低迷の中、注目された7月の主要経済統計が発表

 中国国家統計局が8月15日、7月の主要経済統計結果を発表しました。本連載でも扱ってきたように、中国経済は依然として「迷走」しているというのが私の基本的な判断です。GDP(国内総生産)実質成長率が5.3%増から4.7%増と伸び率が鈍化したように、4~6月期の主要統計結果は1~3月期に比べて低迷、あるいは悪化しており、不安を残す結果となりました。


 そのような経緯もあり、今年全体の中国経済を占うという意味でも、下半期の初月である7月の数字に市場関係者の注目が集まっていました。以下、7月の主要経済指標の結果を6月と比較しながら整理してみます。


  7月 6月 工業生産 5.1% 5.3% 小売売上 2.7% 2.0% 固定資産投資 3.6%
(1~7月) 3.9%
(1~6月) 不動産開発投資 ▲10.2%
(1~7月) ▲10.1%
(1~6月) 貿易
(輸出/輸入) 6.5%
(6.5%/6.6%) 5.8%
(10.7%/▲0.6%) 失業率
(調査ベース、農村部除く) 5.2% 5.0% 16~24歳失業率
(大学生除く) 17.1% 13.2% 消費者物価指数 0.5% 0.2% 生産者物価指数 ▲0.8% ▲0.5% 中国国家統計局の発表を基に楽天証券経済研究所作成。前年同月(期)比。
▲はマイナス

 これらの数値を俯瞰(ふかん)する限り、景気動向は引き続き「迷走」しているというのが私の基本的な感触です。工業生産、固定資産投資、不動産開発投資、輸出、失業率などが6月に比べて鈍化しています。


 個人消費に関しては、中国政府が、家電や家具などの買い替えを推進するなどして消費拡大に向けての喚起策を取り、かつ夏休みの恩恵を受ける形で、伸び率が若干上昇していますが、この期間、中国政府が景気の伸び悩みをめぐる最大の原因の一つに掲げてきた需要不足が解消したとは到底言えないのが現状でしょう。


不動産不況の改善は見られず

 数年にわたって不況が続いてきた不動産市場に関しても、改善の兆しは見られません。


 1~7月の不動産開発投資は前年同期比10.2%減と、1~6月に比べてさらに悪化しています。

この期間、固定資産投資は3.6%増でしたが、不動産を除けば8.0%増ということで、不動産が投資業界全体の足を引っ張っている状況に改善は見られません。また、1~7月の民間投資は前年同期比で横ばいでしたが、不動産を除けば6.5%増とのことで、民間セクターのほうが不動産不況の影響を受けやすいという実態がこれらの数字に反映されています。


 1~7月の新築住宅販売面積は前年同期比21.1%減、販売額は25.9%減。また、中国政府が毎月発表している主要70都市における住宅価格の推移を見ると、7月、前年同月比で新築住宅の価格が上昇したのは上海市と西安市のみ(それぞれ約4%、3%の上昇)。中古住宅に至ってはゼロというのが現状です。


 本連載でも扱ってきたように、今年に入ってから、中央政府と地方政府が連携する形で不動産市場における支援策、緩和策が続々と打ち出されてきましたが、功を奏しているとは言えない状況です。私自身これまでも、それらの政策措置が効果を生み出し、結果につながるまでには一定の時間とプロセスを要する、従って、今年いっぱい、来年初頭くらいまでは様子を見てから、中国不動産市場の行方を判断したいと指摘してきましたが、先行きは依然として不安視されると言わざるを得ないでしょう。


 中国国家統計局の劉愛華報道官も8月15日に開いた記者会見において、「現在、多数の不動産指標は依然として下降しており、不動産市場全体は依然として調整期にある」と指摘。多数の指標が下落し、改善の兆しが見えないという「現状」がまだまだ続くという中央政府の見通しを物語っていると解釈できます。


再燃する「若年層失業率問題」

 7月の統計結果で最も目を引いたのが若年層の失業率です。6月の13.2%から17.1%に上昇しました。2023年12月に調査方法が変更されて以来、最も悪い結果となりました。


 もちろん、この結果は想定内であり、この時期、昨年比2%増の推定1,180万人の卒業生が労働市場に流れ込み、この卒業シーズンを理由に、7月の数値が悪化したというのが統計局による説明です。実際そうなのでしょう。


 一方、今月の中国出張でも実感しましたが、景気全体が低迷する中、就職できない若者があふれ返っているのが現状だと思います。私が北京で生活していた2003~2012年ごろは、就職できないのであれば起業すればいいではないか、という風潮が際立っていましたが、昨今においては、タンピン化、すなわち「寝そべり」現象がまん延しているように見受けられます。私の周りにも、大学や大学院を卒業した後も職に就けず、就こうともせず、実家で日々ゴロゴロしながらゲームをやり、マーケットがよくないから以前はやっていた株式投資もせず、といった若者が増えているように感じます。


 将来に希望を見いだせない若者が増えれば、単なる経済問題にとどまらず、社会不安や政治リスクにもつながっていく可能性があります。中国情勢、チャイナリスクを見極める上で、若年層の動向や行方は注目していく必要があると思います。


(加藤 嘉一)

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