中国「DeepSeek」台頭が上値を抑える形に、後半は米国の景気先行き懸念も強まる
直近1カ月(1月17日~2月21日)の日経平均株価(225種)は終値ベースで0.8%の上昇となりました。期間中の高値は1月24日の4万0,279円、安値は2月3日の3万8,401円となっています。
2024年10月以降の3万8,000~4万円レンジの株価推移が継続する形となっており、引き続き方向感が定まらない相場展開です。
1月中旬は買いが優勢の展開となりました。1月20日にトランプ米大統領の就任式が行われましたが、トランプ政権の関税政策が想定よりも緩やかなものになるとの見方が先行する格好になったようです。
また、 ソフトバンクグループ(9984 )などが米国で大規模なAIインフラ投資を行うと伝わったことも買い材料視されました。1月24日には日本銀行金融政策決定会合が開催され、0.25%の追加利上げが決定されましたが、事前に織り込みが進んでいたことから、ネガティブな反応は乏しい状況でした。
その後の相場が調整に転じたのは、中国AI企業が開発した生成AIモデル「DeepSeek」が、米テック企業の脅威になっていくと伝わったことが要因となります。米テクノロジー企業に先行き懸念からの売りが集まり、東京市場でも半導体株や電線株に売りが波及しました。
1月下旬から2月中旬にかけては、10-12月期の決算発表が本格化したことで、決算を手掛かりとした個別物色の流れが強まることになりました。こうした中においても、トランプ大統領の関税策に対する発言が折に触れて売買材料とされる状況も散見されました。
なお、2月中旬ごろからは、日本銀行の一段の追加利上げ観測、経済指標の相次ぐ悪化を受けた米国の景気先行き懸念台頭などが弱材料視されました。
この期間は決算発表が集中したことで、個別銘柄では決算を受けて明暗が分かれる形となっています。 ディー・エヌ・エー(2432) 、 エムスリー(2413) 、 バンダイナムコホールディングス(7832) 、 住友ファーマ(4506) 、 サンリオ(8136) 、 メルカリ(4385) などは決算が好感されて、それぞれ30%以上の株価上昇となりました。
KOKUSAI ELECTRIC(6525) は韓国サムスン製品のエヌビディアへの供給が材料視されました。サムスン向けに強みを持つ半導体製造装置メーカーとして注目されたようです。 フジ・メディア・ホールディングス(4676) の株価上昇も話題となりました。レオス・キャピタルワークスの大量保有などが思惑材料につながったとみられます。
半面、 不二製油グループ本社(2607) 、 日野自動車(7205) 、 ソシオネクスト(6526) 、 日清食品ホールディングス(2897) 、 電通グループ(4324) などは決算が嫌気されて10%以上の株価下落となりました。
武蔵精密工業(7220) は「DeepSeek」台頭によるネガティブな影響が意識されました。
米国景気の先行き懸念が急速に台頭、目先は米政権の関税政策の行方を注視
米国では足元で、1月のサービス業PMI(購買担当者指数)、ミシガン大学消費者信頼感指数、中古住宅販売件数などの経済指標が軒並み市場想定を上回る悪化となり、景気の先行き懸念が急速に台頭する状況となってきています。今後、各国への関税政策が本格的に発動されてきた場合、景気悪化が一層進むとの見方にもつながっていきそうです。
米国景気の悪化を映してドル/円相場も1ドル=150円を割り込む円高が進んできており、当面は米国の経済状況に対する関心が高まっていきそうです。
一方、当面の休止も想定されつつあったFRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ観測などは今後復活すると予想されます。その意味では、重要なインフレ指標であり、2月28日に発表予定であるコアPCE(個人支出)デフレーターなどは注目されるでしょう。
そのほか、注目されるイベントとしては、米エヌビディアの決算発表、トランプ米大統領の関税政策の行方などが挙げられます。エヌビディアの決算は、ここ最近の中では期待感が高まっておらず、想定以上の好決算を発表した際の株価インパクトは強まるとみられます。
「DeepSeek」台頭による影響懸念は完全には払拭(ふっしょく)されていませんが、短期的には国内半導体関連株などの刺激材料とされる余地もあるでしょう。また、3月4日まで延期されているメキシコとカナダに対する追加関税の適用開始、3月12日に引き上げ予定のアルミ製品に対する関税策などの行方も注目されます。
仮に再延期などがアナウンスされれば、急速に警戒感が薄れていく可能性もあると考えられます。一時停戦合意への期待も高まったロシア・ウクライナ戦争の行方にも、引き続き関心は続くとみられます。戦争長期化が意識される場合、米国の関税政策と合わせて、欧州景気の先行き懸念は再度強まる公算が大きく、国内の欧州関連株には手控えの材料とされそうです。
10-12月期の決算発表が一巡したことで、目先はやや買い手掛かり材料が不足する状況となりそうです。こうした中、今回の決算発表で評価が高まった銘柄には、循環的な押し目買いの動きが強まるものとみられます。ちなみに、10-12月期に収益が改善したものを業種ベースで言うと、化学、機械、自動車、建設、電力、ゲームなどが挙げられます。
また、3月権利取りに向けて高配当利回り銘柄の優位性などは高まる方向でしょう。ほか、トランプ関税による悪影響が強いとみられるのは、自動車や医薬品セクターであり、これらはしばらく買い手控えのムードが続きそうです。ただ、関税策の輪郭が見えるに従い、株価のリバウンド余地は大きくなるとみておきたいところです。
M&A(企業の合併・再編)では、日産とホンダの統合破談が話題となりましたが、日産に関しては何らかの再編や支援が必要な状況にあると判断されます。
当面は好決算発表銘柄の循環物色に移行する公算
10-12月期の決算発表が一巡し、当面は好決算を発表した銘柄の循環物色の動きが強まる局面に入るとみられます。中でも、決算発表直後に株価が急伸しているような、決算インパクトが強まった銘柄の押し目買いなどが注目されると予想されます。
とりわけ、3月末にかけては、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)投資による高配当利回り銘柄への資金流入が強まる可能性も高く、決算インパクトがあり、高配当利回りでもある銘柄には、特に注目度が高まっていくでしょう。
決算インパクトが強まった銘柄として、決算発表翌日の株価上昇率が10%以上となった銘柄をピックアップし、4%以上の高配当利回りでスクリーニングをかけたものが下表の銘柄となります。なお、取引時間中に決算を発表している銘柄は、当日の株価上昇率が10%以上の銘柄としています。
(表)決算発表後に株価が急伸した高配当利回り銘柄 コード 銘柄名 配当
利回り
(%) 2月21日
終値
(円) 時価総額
(億円) 決算
発表日 株価騰落率
(%) 1719 安藤ハザマ 5.30 1,320.0 2,389 2月13日 10.4 1885 東亜建設工業 5.28 1,345.0 1,183 2月7日 17.8 1833 奥村組 5.02 4,300.0 1,662 2月12日 11.3 7172 ジャパンインベストメント
アドバイザー 4.79 1,815.0 1,107 2月7日 55.1 2124 ジェイエイシー
リクルートメント 4.06 789.0 1,306 2月12日 18.8 注:騰落率は決算発表翌日(場中発表銘柄は当日)から2営業日
注:JACリクルートメントとジャパンインベストメントアドバイザーは12月本決算、他は3月本決算
銘柄選定の要件
厳選・高配当銘柄(5銘柄)
1 安藤ハザマ(1719・東証プライム)
中堅ゼネコンの一角で、トンネルやダムなどの大型土木工事に実績が豊富です。2013年4月に安藤建設とハザマが経営統合して現体制になっています。中山競馬場観覧スタンドや黒部ダムなどの施工実績があり、現在はリニア工事で多くの実績を上げているとみられます。
2024年3月期個別受注高ベースでの海外比率は8%の水準です。2026年3月期までの中期計画では、総還元性向70%以上を目標としています。また、2026年3月期末までに、政策保有株式の割合を純資産の10%未満(2024年3月期19.2%)まで縮減計画です。
2025年3月期第3四半期(4-12月期)営業利益は191億円で前年同期比93.5%増となっています。完成工事高の拡大によって、建築事業の収益が大幅に改善しています。
建築工事の採算性向上が要因となるようです。個別受注高も、従来計画の3,750億円から4,015億円、前期比14.3%増に上方修正しました。業績の上振れに伴って、年間配当金も従来計画の60円から70円に引き上げ、前期比10円の増配としています。
上半期営業利益進捗(しんちょく)率は42%の水準にとどまっていたことで、大幅な業績上方修正、それに伴う増配がストレートに好感される展開となりました。増配によって、建設業界における時価総額1,000億円以上の銘柄の中では、配当利回りは第2位の水準にもなっています。
2024年12月末時点では、受注残高は5,524億円で前年同期末比12.5%増の水準にあり、現状では2026年3月期の業績も好望視できる状況です。総還元性向70%以上目標が続くことで、高配当水準は継続の見込み、配当権利落ちの局面では押し目買いが妙味になるでしょう。
2 東亜建設工業(1885・東証プライム)
港湾工事を主力とした土木工事が売上の約5割を占める建設会社です。建設工事が約3割を、ODAを始めとした海外工事が約2割を占めています。港湾・海洋土木の分野では国内受注高2位のシェアを占め、冷凍冷蔵倉庫の建設については国内トップの実績があります。
海外は54カ国で施工実績があり、そのうち約6割がアジアで占められますが、近年はアフリカ地域での受注が増加しています。2024年度・2025年度の株主還元策としては、配当性向40%以上を目指すとしています。
2025年3月期第3四半期(4-12月期)営業利益は、164億円で前年同期比21.0%増となっています。国内建築工事や海外工事において、大型案件を中心に手持ち工事が順調に進捗しているもようです。国内土木工事における大型案件の損益も改善しています。
2025年3月期通期では、従来予想の146億円から192億円、前期比11.4%増まで大幅上方修正、国内土木や海外事業における利益率の改善を要因としています。年間配当金も従来計画の54円から71円に引き上げ、前期比では実質31円の大幅増配となります。
減益予想から一転、2ケタ増益予想までの上方修正に買いインパクトが強まりました。また、大幅な増配に伴う利回り水準の上昇も買い妙味を強めています。単独受注高も従来の2,730億円から3,010億円、前期比14.6%減にまで上方修正。2026年3月期業績の反動減懸念なども後退の方向とみられます。
廃食用油からバイオディーゼル燃料を製造・販売する共同事業の検討開始、浮体式洋上風力建設システム技術研究組合への参画など、事業拡大に向けた積極的な取り組みなども注目されるでしょう。
3 奥村組(1833・東証プライム)
奥村組は中堅ゼネコンの一角で、土木事業や建築事業を手掛けています。土木事業では、道路、鉄道、上・下水道などの社会インフラ整備、防災・減災に資する国土強靭(きょうじん)化やインフラ長寿命化に関連する事業に取り組んでいます。建築事業では倉庫・流通施設や工場・発電所などが主力で、防災関連技術や省エネルギー技術などの採用を推進しています。
また、再生可能エネルギー発電事業や不動産賃貸など投資開発事業なども手掛けています。2025年2月に三菱商事グループ企業と、大阪市の同社所有地における商業施設・物流施設開発事業に関する事業協定書を締結しました。
2025年3月期第3四半期(4-12月期)営業利益は56億円で前年同期比43.3%減となりました。特定の国内土木大型工事において、施工方法の変更や工程の見直しなどが発生し、粗利益が減少しました。また、投資開発事業においても、子会社の石狩バイオエナジーの商業運転停止が響きました。
一方、2025年3月期通期では従来予想の74億円から76億円、前期比44.6%減に上方修正しています。これは、土木事業での追加工事獲得などが背景のようで、年間配当金も従来計画の200円から216円に引き上げています。
2025年3月期上半期(4-9月期)営業利益は前年同期比87.7%減となり、その後は株価の低迷状態が継続していたことから、小幅ながらも通期予想を上方修正したことで、買い安心感が強まる状況になったもようです。単独業績の堅調推移を背景とした増配アナウンスにも意外感が強まったと推測されます。
さらに、発行済み株式数の2.71%に当たる100万株、50億円を上限とした自社株買いの実施も発表し、当面の需給の下支え要因として期待されているようです。不採算案件一巡による2026年3月期業績回復が見込める中、株主還元策に対する意識の強さが評価材料となりました。
4 ジャパンインベストメントアドバイザー(7172・東証プライム)
航空機や船舶、海上輸送コンテナを用いて日本型オペレーティング・リース事業ファンドを組成し、国内の中堅・中小企業に販売している企業です。これまでの案件組成額では85%程度が航空機とみられており、現在では航空機以外のリース資産30%を目指し多様化を推進。
環境エネルギー事業、不動産事業、PE投資事業なども手掛けています。2024年にはM&A展開などによって、クラウドファンディング事業、投資運用・投資助言事業、不動産バリューアップ事業などにも次々進出しています。
2024年12月期営業利益は121億円で前期比2.2倍の水準となりました。第3四半期決算発表時に上方修正した水準での着地となっています。主力のオペレーティング・リース事業が、商品出資金販売および案件組成とも順調に進捗し業績をけん引しました。
一方、2025年12月期は181億円で同49.6%増と連続大幅増益見通しとしています。オペレーティング・リース事業の出資金販売額は1,500億円、前期比32.6%増、不動産小口化商品販売額は240億円、同10倍超を計画しているようです。年間配当金は前期比60円増の87円を計画しています。
好決算に加えて、配当方針の変更による大幅な増配発表がポジティブなサプライズにつながりました。また、株主資本コストを意識した株主還元の一端として、配当性向の目安をこれまでの20%から50%以上に見直し、配当利回り水準が一気に上昇する形となっています。
ちなみに、会社側の中期3カ年計画によると、2026年12月期純利益は250億円を計画(2025年12月期見通しは105億円)しているため、配当水準は一段と引き上がることにもなります。
5 ジェイエイシーリクルートメント(2124・東証プライム)
人材紹介を中核とする人材サービス会社です。海外進出関連業務などインターナショナル領域で活躍する管理職人材、エグゼクティブ、スペシャリスト人材などの領域に特化したサービスを提供しています。また、外国人経営者や人事担当者からのバイリンガル人材の採用ニーズにも対応しています。
海外関連業務に携わるグローバル人材、外資系企業のサービス領域では、業界内でも圧倒的なシェアを有しているようです。年収2,000万円以上の成約ベース件数が足元では大きく伸びています。
2024年12月期営業利益は90億円で前期比10.7%増となっています。海外事業が減損の影響で赤字となりましたが、国内人材紹介事業はIT・通信業界も増収に転じるなど、主力業界が総じて高成長となっています。年間配当金は前期比3.5円増の26円としています。
2025年12月期営業利益は100億円で同10.0%増の見通しです。コンサルタント数の増員で売上は順調に拡大見通し、とくに金融セクター、地方拠点、サステナビリティ関連での成長を見込んでいるようです。年間配当金は前期比6円増の32円を計画しています。
また、2024年12月期業績の上振れ着地、2025年12月期の想定以上の大幅増配などを評価する動きが強まりました。決算発表まで株価推移が低調であったことから、見直し余地が大きかった印象です。
国内企業は全般、雇用のミスマッチを抱えながらの人材不足という状況にあり、同社が扱う人材サービスは「質」の面で大きな活躍余地があると考えられます。人件費や採用費が上昇傾向にあることも、事業面でプラスの影響が大きいと判断できます。収益成長性が高い企業でありながらも高配当利回りという状況には、割安感の強さも感じられます。
(佐藤 勝己)