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著者の土信田 雅之が解説しています。

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「 米国景気は堅調?それとも変調?~短期目線の相場で見落としがちなポイントに注意~ 」


 連休明けで迎えた今週の国内株式市場は、日経平均株価が26日(水)の取引で節目の3万8,000円水準を下回る場面を見せるなど、やや不安定な展開となっています。もっとも、翌27日(木)の取引では値を戻しており、株価水準的には相場はまだ崩れていないものの、足元の値動きが荒っぽくなっているのは少し気になるところです。


 こうした株価の不安定さは日本株だけでなく、米国株でも見られています。


景況感への不安で株価が伸び悩む米国株市場

 実際に、米主要株価指数(ダウ工業株30種平均・S&P500種指数・ナスダック総合指数)のそれぞれの状況を日足チャートで確認すると、26日(水)の取引終了時点でいずれも50日移動平均線を下抜ける状況となっており、相場の意識が下方向へと傾きつつあるような印象になっています(下の図1~図3)。


<図1>米NYダウ(日足)の動き(2025年2月26日時点)
米国景気は堅調?それとも変調?~短期目線の相場で見落としがちなポイントに注意~(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

<図2>米S&P500(日足)の動き(2025年2月26日時点)
米国景気は堅調?それとも変調?~短期目線の相場で見落としがちなポイントに注意~(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

<図3>米ナスダック総合指数(日足)の動き(2025年2月26日時点)
米国景気は堅調?それとも変調?~短期目線の相場で見落としがちなポイントに注意~(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

 米国の株価3指数のうち、ナスダック総合指数が明確に50日移動平均線を下放れし、図3にもあるように、いわゆる「三角保ち合い」も下抜けてしまった一方、NYダウとS&P500は50日移動平均線を下回りながらも、攻防戦を繰り広げているように見えます。


 主要テック株の寄与度が大きいナスダック総合指数の下げが目立つ格好となっていますが、テック株以外の銘柄の存在も大きいNYダウとS&P500については、ディフェンシブ株などに買いが入り、指数を支えている面があると思われます。


<図4>世界主要株価指数のパフォーマンス比較(2024年末を100)(2025年2月26日時点)
米国景気は堅調?それとも変調?~短期目線の相場で見落としがちなポイントに注意~(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDIIおよびBloombergデータを基に作成

 また、昨年末を100とした他の株価指数との比較でも、米国株は先週末あたりからパフォーマンスが落ちてきていることが分かりますが、26日(水)時点でのナスダック総合指数は、上海総合指数よりも下に位置する状況となっています。


急浮上してきた米国景気への不安

 こうした米株市場の株価推移の背景にあるのは、米国で公表される経済指標が最近になって弱い結果となるものが増え始め、米国の景況感に対する不安が高まっていることが挙げられます。


 特に、この兆候が見え始めたのが、先週末の2月21日(金)からで、この日は米2月PMI(購買担当者景気指数)をはじめ、ミシガン大学が調査している米2月消費者態度指数や、米1月の中古住宅販売などの経済指標が公表されたのですが、いずれも前月分や市場予想を下回る結果となりました。


 さらに、今週に入っても、25日(火)公表の米2月CB消費者信頼感指数や、26日(水)公表の米1月新築住宅販売も景況感の後退を匂わせる結果となっており、これらの経済指標を受けた米国の債券市場では、10年債利回りが大きく低下する動きを見せています(下の図5)。


<図5>米10年債利回り(日足)の推移(2025年2月26日時点)
米国景気は堅調?それとも変調?~短期目線の相場で見落としがちなポイントに注意~(土信田雅之)
出所:楽天証券WEBサイト(REFINITIV)

 これまでの相場の構図としては、「(経済指標の)悪いニュースは、(株式市場にとって)良いニュース」という格好で、米国の経済指標の悪化が、FRB(米連邦準備制度理事会)による金融政策の利下げ期待を高めて米金利を低下させ、結果的に株価を支える傾向がありました。


 しかし、ここにきて、景況感悪化への不安が素直に株価を押し下げる場面が増えてきています。


景況感と金融政策の「相場サイクル」に変調?

 景況感と金融政策から見た相場サイクルとしては、景気や企業業績が好調な「(1)業績相場」が過熱すると、それに伴うインフレを抑制するため、金融政策当局が利上げなどの引き締めを行う「(2)逆金融相場」へと移行し、引き締め効果によって、景気や企業業績が抑圧される「(3)逆業績相場」を経て、インフレの落ち着きが見込まれる段階で、引き締めを緩和する「(4)金融相場」へと移り、再び「(1)業績相場」に戻るというのが一般的な流れです(下の図6)。


<図6>相場のサイクル
米国景気は堅調?それとも変調?~短期目線の相場で見落としがちなポイントに注意~(土信田雅之)
出所:筆者作成

 米国株市場では、2022年3月に利上げを開始し、2023年7月までに政策金利を0.25%から5.50%まで引き上げる「逆金融相場」となっていましたが、以降はその金利水準を維持する中で、インフレ鈍化傾向が続き、かつ、目立って景気が落ち込むことのない「ソフトランディング(軟着陸)」見込みが強まったことで、「逆業績相場」を無難に通過し、そして2024年9月に利下げを開始する「金融相場」へと移行したという見方が金融市場で優勢でした。


 そのため、本来であれば、足元で景況感の悪化を示す経済指標が増えたことは、利下げペースが加速し、金利低下に伴う株高の見通しにつながるわけですが、実際にはそうなっていません。


 その理由として考えられるのが、かなりの不確実性を抱えている米トランプ政権の存在です。


 足元で活発化している関税の動きが流動的で、その影響が読みにくくなっていること、そして、これから実施しようとしている減税政策の財政負担の大きさなどが懸念されていることを踏まえると、インフレの再燃や金利が高止まりしてしまうシナリオを捨てきれず、仮にこのまま景況感が悪化しても、米FRBが適切に利下げをできないことも考えられます。


 その場合、上の図6にもあるように、「逆業績相場」の織り込み直しや、場合によっては「逆金融相場」へとサイクルが逆回転する可能性もあり、現在の状況は思ったよりも厄介かもしれません。


実際のところ、米国の景気は悪くなっているのか?

 もちろん、足元で目立っている米経済指標の悪化が一時的なものであれば問題ないですし、株式市場が景況感の悪化を意識してしまったのは、前月からの落ち込みが大きい経済指標が多かったことも要因として考えられます。


 従って、ここからは景況感の行方をじっくりと見極めていきたいところですが、不確実性の高い現在の相場環境では、織り込める先行きの時間軸がどうしても短くなってしまい、株式市場は目先の材料に一喜一憂しつつ、株価の上下の振れ幅が大きい場面が増えることが予想されます。


 短期目線になりがちなムードの中で、「実際のところ、米国は景気後退入りしそうなのか?」を冷静に見て行く必要があります。


 そこで、市場で注目されやすい景気後退入りの判断ポイントについても確認していきます。


<図7>米国債の長短金利差の推移
米国景気は堅調?それとも変調?~短期目線の相場で見落としがちなポイントに注意~(土信田雅之)
出所:FRED(セントルイス連銀の経済データベース)

 まずは、期間の異なる米国債の利回りの差から見て行きます。


 一般的に、債券の利回りは、期間の短いものよりも長いものの方が高くなりますが、時によっては、この関係が逆転することがあります。上の図7で、マイナス圏に位置している状況が該当するのですが、この状況を「逆イールド」と呼びます。


 図7にもあるように、この逆イールドが解消されたタイミングで景気後退入りすることが多く、現在は、10年債と2年債、10年債と3日月債の両方で逆イールドが解消しており、この視点で見た場合には景気後退入りに注意する必要があります。


<図8>米失業率の「サーム・ルール」
米国景気は堅調?それとも変調?~短期目線の相場で見落としがちなポイントに注意~(土信田雅之)
出所:FRED(セントルイス連銀の経済データベース)

 続いては、米国の失業率を基に判断する「サーム・ルール」と呼ばれるものです。


 サーム・ルールとは、元FRBエコノミストのクラウディア・サーム氏が提唱した、景気後退を判断する方法で、具体的には、「失業率の3カ月平均」と「直近1年間の失業率の最低値」との差が0.5p以上開くと、景気後退と判断します。


 昨年の7月にルールの条件を満たし、景気後退入りが心配されましたが、現在は解消している状況が続いています。


<図9>米ISM非製造業景況指数の推移
米国景気は堅調?それとも変調?~短期目線の相場で見落としがちなポイントに注意~(土信田雅之)
出所:Bloomberg

 そして、最後はISM(米サプライマネジメント協会)非製造業景況指数です。


 上の図9で過去を振り返ると、この指数が急低下し、50を下回るタイミングで景気後退入りすることが多いのですが、2022年12月や、2024年の4月と6月に50を下回る場面がありながらも、踏みとどまる状況が続いており、景気後退入りを回避していることが分かります。


 以上のように、三つの判断ポイントを紹介しました。トータルで捉えると、少し怪しげではありますが、現時点では、まだ景気後退入りを判断するには早いと思われます。ただ、今後これらに動きが見られると、市場は急激に景気後退を織り込みに行く可能性があるため、注意深く見守っていく必要がありそうです。


(土信田 雅之)

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