トランプ米大統領が発表した相互関税は、市場の想定をはるかに超える高い税率で広範囲でした。発表を受け、世界不況の不安が高まり、世界中の株は暴落。

中でも、米国株の下落率が高いのはなぜでしょうか? 相互関税の五つのサプライズを解説します。


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著者の窪田 真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【速報】4/7 日経平均、令和ブラックマンデー割れ。世界株、暴落止まらず。積み立て、どうすれば? 」


相互関税・自動車関税ショックで米国株も日本株も急落

 4月2日(日本時間3日早朝)にトランプ氏が発表した「相互関税」は、想定を超える高い税率かつ広範囲で、世界中にショックを与えました。米国を含めて世界的な景気後退に陥る懸念が高まりました。


 これを嫌気して、先週(営業日3月31日~4月4日)の日経平均株価は1週間で3,339円(マイナス9.0%)安の3万3,780円となりました。米国ナスダック総合指数はマイナス10.0%、S&P500種指数はマイナス9.1%と大幅に下落しました。


主要国の株価指数:先週の下落率と年初来騰落率(先週の下落率の大きい順にランキング)
トランプ相互関税、五つのサプライズ。米国株の下落率が高いのはなぜ?(窪田真之)
出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 相互関税は、世界中の製造業に重大なダメージを与える内容でしたが、同時に米国にもダメージが大きいことが明らかです。「米国に富を取り戻す」というトランプ大統領の思惑とは逆に、米国へのダメージを危惧した売りで、米国株の下落が主要国の中でもっとも大きくなりました。


 ついで、日本株の下落率が高くなりました。

以下3点が影響したためです。


【1】円高。米国株の下落とともに、ドル安(円高)が進み、日本の企業業績にマイナス影響を及ぼすことが危惧されました。
【2】米国経済への依存度が高いこと、関税でダメージを受ける自動車産業など製造業のウエートが高いことが、懸念されました。
【3】グローバル投資家から見て、日本株は「世界景気敏感株」なので、世界景気に不安が高まったことを受けて、リスクヘッジのための日経平均先物売りが外国人投資家から入ったもようです。


日経平均週足:2024年1月4日~2025年4月4日
トランプ相互関税、五つのサプライズ。米国株の下落率が高いのはなぜ?(窪田真之)
出所:楽天証券MSIIより作成

トランプ相互関税、五つのサプライズ

 4月2日に相互関税が発表されることは早くから周知されていました。にもかかわらず、発表後の株価下落が大きくなったのは、発表された内容が、事前の予想よりもはるかに厳しい内容だったからです。


発動済み、発動予告中のトランプ関税
トランプ相互関税、五つのサプライズ。米国株の下落率が高いのはなぜ?(窪田真之)
出所:楽天証券経済研究所が作成

想定以上に厳しい相互関税
トランプ相互関税、五つのサプライズ。米国株の下落率が高いのはなぜ?(窪田真之)
出所:楽天証券経済研究所が作成

 五つのサプライズが、世界的な株の暴落につながりました。


1:非関税障壁を驚くほど高く見積もる:日本に相互関税24%

「相互関税」とは本来、「輸入関税の高い国に対して、相手国と同率の関税を適用する」という趣旨です。ところが、今回トランプ政権は、「非関税障壁」も関税と同じとみなして相互関税を決めました。


 今回発表された相互関税率で驚かれたのは、日本など輸入関税率の低い国に対しても高い税率の相互関税が決められたことです。


 米国側の主張は、「日本は非関税障壁が大きく、実質46%の関税を導入しているのと同じ」だから、「その約半分の24%の関税を適用する」というものです。日本だけでなく、世界中の国々に対して、非関税障壁を理由に、関税率だけでは説明できない高い相互関税を発表しました。


 非関税障壁は言い訳で、ホンネは「対米貿易黒字の大きい国に高い関税率を課す」ということが明らかです。

対米黒字が大きい国ほど相互関税率が高く、非関税障壁はその理由付けのために無理やり後付けされたものであることが、ほぼ明らかです。


 それを裏付けるのが、USTR(米国通商代表部)の説明です。米国国勢調査局によると、2024年の米国の対日貿易赤字額が約684億ドルで、日本からの輸入総額が約1,482億ドルです。【赤字額684億ドル】÷【日本からの輸入額1,482億ドル】=約46%で、これが、非関税障壁を含めた日本の実質関税率が46%だと主張する根拠となっているようです。


2:東南アジア諸国に対して、輸出禁止に近い高関税

 ベトナム46%、タイ36%など、東南アジア諸国に極めて高い関税率がかけられたことが目を引きました。中国からの輸出だけでなく、アジアからの輸出を全面的にふさぐ手段に出ました。


 中国から、ベトナム・タイなど東南アジアに生産・輸出拠点を移しつつあった、中国企業に加え、米国・日本・韓国企業などが重大なダメージを受けます。


3:米国企業・米国経済へダメージが大きくなる

 米国企業が重大なダメージを受ける懸念が強まり、米国株が急落しました。ベトナムなど東南アジアに生産拠点を置く、米国企業にダメージを及ぼします。衣料品ナイキやギャップが売られました。


 また、中国やインドにiPhone生産を委託しているアップルも、売られました。これまで、アップル製品はトランプ関税の例外となってきましたが、今回、例外なく関税が適用されることで、重大なダメージを受ける可能性があります。


 3月末に発表された自動車関税も、米国にダメージをもたらします。自動車関税のダメージは、トヨタ自動車よりも米国のGM(ゼネラル・モーターズ)に大きくなると考えています。


 グローバル企業にいっさい逃げ場のない高関税の発動で、米国で生活必需品の価格が一斉に上昇して、米国消費が落ち込む懸念が強まりました。


4:中国が即座に報復関税

 世界各国は今回、関税報復合戦エスカレートを懸念して、報復関税を準備しているものの、すぐに発動はしていません。中国は、すぐに報復関税を決めました。米国からの全輸入品に10日から34%の報復関税を課します。米国が中国に追加する34%と同率です。米中の分断は一段と深まると思われます。


5:メキシコが相対優位に

 カナダ・メキシコには3月に25%関税が発動されているので、今回、相互関税の対象からは外れています。USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の適合品は、今のところ関税免除されています。


 USMCA適合品は、先行き、米国外の生産部分だけに関税がかかる予定です。その計算式が確定すれば、25%関税は撤回され、代わりに12%の相互関税が適用される予定となっています。


 予定通りに進むならば、メキシコは相対優位となります。アジアからの輸出が封じ込められれば、その分メキシコ生産に依存せざるを得なくなる可能性もあります。


 メキシコのシェインバウム大統領は、「トランプ大統領と尊敬の関係を築き上げることができた」と歓迎の意思を表明しました。ただし、カナダは、自動車関税に対して米国からの自動車輸入に25%の関税を課す報復を発表しています。


トランプ関税、修正なければ世界不況へ

 トランプ関税が、このまま修正されることなく、恒久化されるならば、関税戦争がエスカレートして世界不況に陥る可能性が高いと考えます。


 ただし、楽観的見通しかもしれませんが、私は、4~6月のうちに、トランプ関税は修正せざるを得なくなると予想しています。トランプ支持者にも重大なダメージが及び、支持者から反発が強まると考えるからです。すでに、全米で反トランプ・デモが起こり始めています。


<トランプ関税が大統領支持者にもダメージ>
トランプ相互関税、五つのサプライズ。米国株の下落率が高いのはなぜ?(窪田真之)
出所:筆者作成

 トランプ大統領は繰り返し、政策は変わらないと発言しています。今さら「間違った政策だったので撤回する」とは絶対に言えません。言えるとしたら、「世界各国から米国に有利な条件をたくさん引き出したので、関税は撤回する」くらいしかありません。


 各国との交渉がどういう形で進むか、今後の進捗(しんちょく)を注意深くウオッチしていく必要があります。


日本株「買い場」の判断変わらず

 短期的なショック安は続く見込みです。ただし、長期的な投資判断は変わりません。日本株は、割安で、長期的な上昇余地は大きいと考えています。日経平均が2028年までに5万円まで上昇する予想は、まったく変わりません。


 時間分散しながら、日本株を買い増ししていくことが長期的な資産形成に寄与すると考えています。


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2025年4月3日: 日本に相互関税24%。自動車関税の影響:楽観論と悲観論(窪田真之)


(窪田 真之)

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