<指数パフォーマンス比較~バリュー株orグロース株どっち優勢?~>


東証グロースの上場維持基準厳格化へ。株主還元策による急騰急落に注意
25年3月 中小型主要指数の月間騰落率

3月の中小型株ハイライト「配当落ち考慮してもバリュー株の勝ち」

 3月は年度末で、3月決算企業の配当権利が付く月でもあります。「配当再投資の先物買い」と呼ばれる1兆円超の買いが確実に入る特殊な需給イベントもある月。


 昨年まで4年連続で日経平均株価(以下:日経平均)は月間プラス、そして前月の2月に日経平均は月間で2,416円も下げていたこともあり…期待されて迎えた3月相場でしたが、結果は月間1,537円下げ。

これで3カ月連続マイナス、年初来の下落率もついに10%を超えてしまいました。


 地合い悪化の要因は、2月とまるっきり同じ「円高」と「トランプ関税リスク」。円高、半導体株急落の流れで月が始まった上、トランプ政権の関税リスクで自動車株など輸出関連株が売られました。


 米時間で26日にトランプ米大統領が輸入自動車への25%の追加関税を発表したことで、27日の配当権利付最終売買日から崩れ始めたのが特徴。配当の権利落ちも相まって、日経平均でいえば月末終値が年初来の安値引けという残念な幕切れに。


 そんな中で輝いたのが、トランプ関税と関係の薄い内需株で、その中でも銀行株でした。日本銀行の追加利上げ観測に伴う日本の10年金利に先高期待があります。金利上昇ポジティブ業種であることで、メガバンクが半導体株など大型グロース株を売った資金の受け皿になりました。


 また、PBR(株価純資産倍率)1倍を割り込んでいる地方銀行株に株主還元の強化策が出たり、地銀同士の再編に関するニュースが散見されたり…。


東証グロースの上場維持基準厳格化へ。株主還元策による急騰急落に注意
TOPIXバリュー指数とTOPIXグロース指数(月足、2010年~)

 ちなみに、銀行株の値上がりと、高配当株の堅調な動きでTOPIX(東証株価指数)バリュー指数とTOPIXグロース指数の歴史的な逆転現象も起こりました。


 3月18日にTOPIXバリュー指数がTOPIXグロース指数を上回ったのですが、これは2011年4月11日以来、約14年ぶりのこと。原動力となった銀行株はプライム市場だけで68銘柄もあります。

とくに上昇が目立った地銀株については、TOPIXスモールバリューに属する銘柄も多く、中小型株においてもバリュー株優位に導きました。


 なお、高配当株も少なく、自社株買いもさほど多くなく、金利上昇はネガティブ…そんなグロース株も、円高やトランプ関税リスクとの関係が薄いという優位性で資金が流れる動きは見られました。


 ただ、円高と米株の調整が想定以上に進んだ結果、日本国民挙げて盲目的に買っているeMAXIS SlimのS&P500種指数や全世界株式(オルカン)が値崩れ。「国民同時損失拡大」といった状況になり、投資に対するセンチメント低下が、個人投資家頼みの新興市場にはボディブローのように効きました。


東証グロースの上場維持基準厳格化へ。株主還元策による急騰急落に注意
IPOインデックス(加重平均、日足、年初来)

 この3月の月後半は、IPO(新規公開株)数が比較的多め。3月18~31日の期間に、東証プライム上場のJX金属など12社が上場でした。そのうち、東証グロース上場は9銘柄。この9銘柄全ての初値が公開価格を上回りました。初値騰落率の平均は67%で、 ZenmuTech(338A) など3社の初値が公開価格の2倍以上と初値買い意欲は旺盛!


 でしたが…その後がボロボロで、4月3日終値時点で初値を上回っているのは トヨコー(341A) だけ。 ビジュアル・プロセッシング・ジャパン(334A) は初値の半値以下になる惨状です。


 直近IPO株のセカンダリー(初値形成後)の値動きを示すIPOインデックスという指数がありますが、上記チャートの通りですこぶる低調。東証グロース指数の3月の下落率は小幅ですが、指数に含まれていません。

短期間の間に関与する参加者数の多い直近IPOの地合いがひどく、これが個人投資家のセンチメントを冷やした面もありそうです。


今月の銘柄アイデアは…「退場回避の応急措置」ただし取引は慎重に

 新年度の4月ですが、昨年の4月急落の残像が残っている投資家は多そう。昨年の4月の日経平均の月間騰落率はマイナス4.9%で、昨年の最大下落月でした。東証グロース市場250指数にいたっては、同マイナス13.3%でこちらも最大下落月。


 そして今年も、トランプ米政権による「相互関税」の詳細が東京時間の4月3日早朝に公表され、想定以上の規模だったこともあって3日の日経平均は一時1,600円超の下げ幅を記録しています。2年連続の受難な新年度相場…。


 昨年の8月に大暴落を経験していることもあり、「急落したタイミングでは今度こそ下で拾ってリバウンドをとってやる!」そう息巻く個人投資家も多そうです。ただ、押し目買いを入れる原資は当時ほど潤沢ではないようにも見えます。例えば、3月末時点の二市場の信用買い残は、金額ベースで4兆5,791億円と昨年来の高水準を維持しています。


 どういったポジションが信用買い残として滞留しているのか? これを調べると、ソフトバンクグループやアドバンテストなどの半導体株、そして三菱UFJフィナンシャル・グループなど銀行株が上位です。3月下旬までは、半導体株の含み損が大きかったものを、銀行株の含み益で一部相殺されていました。


 その「頼みの綱」の銀行株が、4月に入って大幅調整。

トランプ米政権の「相互関税」発表を受けた直後、4月3日の東京市場では、銀行業指数が7%超と値下がり率トップになるほどでした(通商政策による市場の不安定さを受け、日銀の追加利上げ時期が後ズレするとの見立てで日本の金利が低下したため)。


 半導体株は相変わらずダメ、そこに銀行株もダメになり、日経平均が下がって日経平均ブル型ETF(上場投資信託)もダメ。一発逆転狙いで入った直近IPOもダメ…。


 下げのピッチが早過ぎて「ロスカットできないまま塩漬けにしている投資家も多そう」との声も聞かれ、個人の逆張り勢の力も弱っている可能性も。そうなると、円高、トランプ関税リスクと距離が遠いから資金が流れるというより、巻き添えになると見ておいた方が良さそう。


 今は、トランプ関税リスクの強弱が焦点ですので、関税率の引き下げなど強硬姿勢が緩むような動きに勝る材料はありません(動静を見守るしかできませんが)。


 さて、そんな4月ですが、月が替わって早々、一部メディアで中小型グロース株に関する気になる話が報じられていました。この4月より、東証グロース市場の上場から10年経過する企業において「時価総額40億円以上」の基準に満たない企業は(1年内に上場維持基準に適合しなかった場合)上場廃止となる新ルールが動き出しました。


 しかし、さらに厳格なルールを東証が検討していると…。報道によると、新基準では「上場から5年経過しても時価総額が100億円に満たなければ上場廃止」という方向だそうです。


 4月3日終値時点で、東証グロース上場で時価総額が100億円に満たない企業を数えてみました。全体の上場銘柄数は612銘柄で、時価総額100億円未満は431銘柄(全体の70%)。

ちなみに、現状の上場10年経過における基準である時価総額40億円未満も233銘柄(全体の38%)存在します。新基準が適用されると、東証グロース市場が「もぬけの殻」になってしまいそう…。


 時価総額100億円案が浮上したのも、機関投資家の投資対象となり得る最低水準が目安となったもの。ここまで厳しくはならないとみられますが、それでもプライム市場でPBR1倍割れ企業に対応を迫った東証改革の「グロース版」に、企業サイドも対応する必要がありそうです。


 昨年来、時価総額を手っ取り早く高める方法として、株主優待で高額のQUOカードなどをばらまく企業が散見されていました。それでいえば先月3月26日引け後、こんな方法で株価が爆上げした銘柄があります。グロース上場の イオレ(2334) です。


東証グロースの上場維持基準厳格化へ。株主還元策による急騰急落に注意
イオレ(2334、東証グロース)

 3月26日終値(541円)時点の時価総額は14億円台だったイオレですが、引け後に発表した「新たな事業の開始に関するお知らせ」で爆上げしました。ストップ高4連発を挟み、たった5営業日で瞬間最大3.3倍に(その後急落)。何がこれほど?ですが、新事業として(1)暗号資産金融事業、(2)AIデータセンター事業の2事業を始めますと「宣言したことだけ」が理由でした。


 ちなみに、新事業を開始する理由の中に、「当社の属するグロース市場においては、高い成長可能性が求められており、2028年3月期には上場後10年が経過し上場維持基準を満たす必要があります。」と記載されています。


 QUOカードなど個人投資家の喜ぶ株主優待を始めること、イオレのような「やる気」を示すこと…いずれにしても、市場からの退場(上場企業の看板のはく奪)を迫られることで、自社の株価を意識し、何かアクションを起こすことは株主にとって悪いことではありません。


 あとは、経営陣がどう動くか?にかかっているため、アウトサイダーが予測できることはありません。あくまで、尻に火が付きそうなのはどういった銘柄か?の一覧を今回開示します。


東証グロース上場維持に向け対策余地アリ!な19銘柄
【条件】(1)時価総額100億円未満
(2)予想PER20倍未満、(3)無配
(4)株主優待を実施していない
(5)上場から5年以上経過
※時価総額大きい順 コード 銘柄名 時価総額
(億円) 予想PER
(倍) 6176 ブランジスタ 87 11.2 3653 モルフォ 61 18.2 6563 みらいワークス 43 9.7 4570 免疫生物研究所 42 19.5 3930 はてな 41 19.2 4429 リックソフト 38 13.4 4487 スペースマーケット 33 16.1 7069 サイバー・バズ 30 9.9 9271 和心 28 11.3 3929 ソーシャルワイヤー 27 15.7 5704 JMC 26 16.9 6558 クックビズ 22 19.6 3907 シリコンスタジオ 21 16.7 7041 CRGHD 17 6.6 4444 インフォネット 16 13.1 3908 コラボス 15 9.1 6085 アーキテクツ・スタジオ・ジャパン 15 14.4 3913 GreenBee 13 17.1 3803 イメージ情報開発 9 12.1

 スクリーニング条件は、東証グロース市場に上場する銘柄の中でも、(1)時価総額が100億円未満、(2)予想PER(株価収益率)20倍未満、(3)無配、(4)株主優待を実施していない、(5)上場から5年以上経過の5条件を満たす企業。全部で19銘柄抽出されました(4月3日終値時点)。


 さすがに今の時価総額が20億円未満となると基準クリアは難しそうですが、基準に近い企業が「何かやろう!」と動く可能性は高いとも思われます。


 選択肢に株主還元強化は考えられるため、現時点で無配の企業や株主優待を実施していない企業の方がサプライズをつくりやすいといえそう。中でも、予想PERが20倍未満の割高ともいえない銘柄を参考までに覚えておくと良いでしょう!


(岡村 友哉)

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