老後の資産づくりに役立つ制度、iDeCoが大きく変わります。制度改正後は、今以上に活用の選択肢が広がるでしょう。

iDeCoをうまく使いこなすためには、メリットとデメリットの理解から。今回は、必ず押さえておきたいiDeCoの基本をまとめました。


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著者の山崎 俊輔が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 iDeCoの超基本!仕組みと三つのメリット・デメリット。所得控除で減税は◎、60歳まで中途解約不可 」


iDeCo2.0の時代がやってくる!

 iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)に新しい波が訪れようとしています。


 iDeCoは、老後の資産形成を推進する制度として2002年1月にスタート。はじめは加入対象者が限られていましたが、規制緩和を経て多くの人が利用できる制度になりました。足元の加入者数は350万人を超えています(2025年1月時点)。


 こうした変化を「iDeCo1.0」だったとすれば、まさに「iDeCo2.0」ともいうべき波がやってこようとしています。iDeCoの大幅な規制緩和が実現するのです。


 前岸田内閣の掲げた資産所得倍増プラン、第2の柱であったiDeCo改革が、2025年度税制改正大綱で改革の実施が認められ、法改正を待つ状態となっています。

第1の柱は、皆さんもご存知のNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)制度改革でした。


 今回の規制緩和、今までのiDeCoを知っていた人からすれば、驚きの内容となっており、また活用のスタイルを大きく変える可能性も秘めています。


 法改正はまだもう少し時間がかかりそうですから、今回はまず、iDeCoの基本について確認してみましょう。


iDeCoの基本は「老後のための虎の子資金づくり」

 iDeCoの元の名称は「個人型確定拠出年金」といいます。Individual-type Defined Contribution Pension Planの頭文字を取って「iDeCo」というのですが、「年金」というのがNISAと異なるポイントです。


 iDeCoの基本的な考えは「老後のための資産形成支援制度」ということです。私たちが公的年金をベースに、より豊かな老後を送りたいと考えるとき、公的年金制度を老後の基礎的な収入源として位置づけるとしても、豊かな生活、ゆとりある生活を実現するためには自助努力による資産形成が欠かせません。これを実現するための政策がiDeCoというわけです。


「年金」と名前についているのはそうした資産形成に役立てるための仕組みであるからです。よく「60歳まで受け取れないデメリット」とiDeCoを評しますが、これはiDeCoが老後の収入源となることをねらいとしているためです。むしろ「老後のための虎の子資金づくり」と考えてみてください。


 確定拠出年金制度には、会社が退職金・企業年金制度の一部(会社によっては全部)として実施する企業型の確定拠出年金制度と、個人が任意に加入するiDeCo(だから「個人型」という)があります。


 税制上の仕組みはほぼ同等ですが、企業型の確定拠出年金は会社が実施の可否を決定、主たる掛金も会社が出してくれることに大きな違いがあります。


 それではiDeCoの仕組みをもう少し詳しく見てみましょう。


iDeCo三つの大きなメリット

 iDeCoには大きく三つのメリットがあります。


今納めている所得税・住民税の軽減

 現役時代は、高い年収に対して所得税・住民税、厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料(40歳以降)と引かれます。こうした負担は社会維持のコストとしてやむを得ないものですが、「もうちょっと少なく」と思うのが本音です。


 iDeCoの掛金については自分の老後に備える取り組みを評価して、所得税や住民税の課税を計算する基礎から除外してよいことになっています。これを所得控除といいますが、自分の老後に備える人は所得税・住民税を軽くしていい、と言っているわけです。iDeCoのお金は将来自分がもらうわけですから、これは確実にお得なことです。


 会社員において所得控除のメリットがある制度は住宅ローン減税とiDeCoの掛金くらいしかありません。NISAにもない所得控除、有効に使いたい大きなメリットといえます。


NISAと同様の運用益非課税

 よく知られているとおり、NISAの魅力は運用益が非課税になることです。原則として収益の20.315%が課税されますから(復興特別所得税含む)、これが課税されないことは大きなメリットです。iDeCoも同様に(というか2002年の制度スタート時から!)、運用益非課税となっています。NISAとiDeCo、合わせて上手に活用したい仕組みです。


自動引き落としによる資産形成

 もうひとつメリットとして挙げておきたいことは、自動引き落としによる資産形成手段であることです。NISAにもつみたて投資枠がありますが、iDeCoは任意のタイミングで好きな金額を入金できません(成長投資枠に相当する仕組みはない)。


 その代わり、自動的にコツコツと入金、長期投資を行う仕組みとなっています。

最初は誰でもゼロ円からのスタートです。少額から資産形成をスタートし無理なく長期積立分散投資を行う仕組みがiDeCoでは前提となっているのです。


iDeCo三つのデメリット

 iDeCoにはメリットばかりではなく、使いにくい部分、デメリット的な要素もあります。ただし、仕組みを理解し活用すればむしろメリットにも転じる部分もありますので、よく理解しておきましょう。


中途解約は原則不可

「年金」として制度がつくられたこと、また所得控除という強力な税制優遇が設けられていることのトレードオフとして、60歳までの中途解約は原則できない仕組みとなっています。


 そのため、短期的な資金ニーズ(30~50代で必要になる子の学費準備や住宅購入資金など)にiDeCoを活用することはできません。


 ただし、自己破産時などにも取り崩しができないので、確実に老後に資産を繰り越せるという、強力な資産保全の性格もあります。


NISAほど大きな年間投資枠ではない

 NISAが誰でも年間360万円まで投資し運用益非課税のメリットを得られることと比べ、iDeCoの枠はそれほど大きくありません。今回予定されている法改正により枠の大幅拡大がありますが、月6.2万円(企業年金のない会社員の場合)ということは、NISAのつみたて投資枠(月10.0万円)にも及びません。


 一方で老後資産形成に毎月10万円を積み立てる人は多くないでしょう。取り崩しの制限も考えると無理のない範囲で継続することが大切であり、枠がNISAほど大きくないのはそのためです。


 なお、NISAでは投資元本1,800万円までしか入金できませんが、iDeCoでは累積した資産額の上限はありませんので、こちらはむしろメリットかもしれません。


口座管理手数料の存在

 今まで金融機関のサービスを利用していて手数料を負担することはあまりありませんでした。時間外の銀行のATM手数料や他行への振込手数料がかかることはあっても、これは回避可能な費用です。


 ところが、iDeCoにおいては運営主体である国民年金基金連合会と、資産の保全を担う信託銀行が口座管理手数料の存在を徴収することが大きな特徴となっています。

運営管理機関も手数料を取るケースがありますが、楽天証券などはこれを無料としています。


 そう聞くと「マイナスのデメリット」という印象がありますが、掛金の所得控除により税負担軽減が生じますから、全体では口座管理手数料以上のメリットを得ることになります。


 ちょっと分かりにくい仕組みですが、口座管理手数料が年2,052円(月171円)を引かれたとしても、年24万円(月2万円)の掛金を積み立て、20%相当の税負担軽減が生じたとすれば年4万8,000円の節税となっていますから、トータルでは4万5,948円は得をしている、ということです。
(※税負担軽減の状況は年収などの条件により異なります)


 掛金を積み立てている人はあまり損得を心配しなくても大丈夫です。


メリットとデメリット、しっかり理解し上手に使いこなそう

 今回はiDeCoの基本的な仕組みとメリット・デメリットを確認してみました。「iDeCoは少し分かりにくい……」と感じたかもしれません。


 次回以降説明しますが、毎月の積み立ての限度額も働き方によって異なっていたりします。これも年金制度として設計されるがゆえなのですが、制度が複雑なのでちょっと敬遠してしまいがちです。


 NISAが「NISA口座を通じて投資をするなら運用収益は非課税でOKです」「誰でも年間投資額、累積投資上限額は同じ」というシンプルな仕組みであるのと比べると、分かりにくいところがあるかもしれませんが、老後資産形成の選択肢として考えたとき、私はNISAに負けない魅力があると考えています。


「iDeCo2.0」の時代に備えて、今からiDeCo活用の方法を一緒に考えていきましょう。


(山崎 俊輔)

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