現役世代は基本的に収入が安定しており、支出をコントロールしながら資産を増やすことができる時期、いわゆる資産形成期です。投資を継続することは大事ですが、人生には投資よりも優先すべき事態があり、投資を中断してもいい人もいます。

どんな人たちなのか三つの状況から見てみましょう。


投資は余力のある時に。長い人生、積立を中断したほうがいい時も...の画像はこちら >>

現役世代は基本的に投資を中断しない方がいいが…

 資産形成における大敵は「中途解約」です。仮にNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を通じて毎月2万円の積立投資を5年頑張ったとします。120万円の元本とその運用益を乗せた資産があなたの口座にあるわけですが、そこまで長い時間をかけた積立と運用により得た資産残高も、軽い気持ちで解約し使ってしまうと、あっという間になくなってしまいます。


 数年後「残しておけばさらに数十%値上がりしていた…」「本当にお金が必要だったのは今だった…」と後悔しても、軽い気持ちで取り崩した資金はもはやありません。その後改めて積み立てた元本とその運用益があるのみです(これはこれで解約した後も積立を中断しないことが大事です)。


 老後資産形成のように遠い未来のための資産形成ほど、解約の誘惑にさらされる期間も長くなります。ここをどう頑張って解約をしないかが重要なポイントです。iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)が「制度がそもそも解約させてくれない」というのは中途解約をさせない一つのアプローチなのです。


 基本的には解約をせず積立投資を継続してほしいのですが、投資を中断してもいい人、投資資金を解約してもいい人、というシチュエーションも存在します。


 今回はあえて「投資を中断」してもいい三つの状況を整理してみたいと思います。


第1の状況:年収の大幅ダウン

 一つ目の「投資を中断」パターンは、年収が大幅ダウンするようなシチュエーションです。年収が下がったとき、日常生活費をそれと同率で下げるというのはなかなか困難です。


 しかし、企業の業績が芳しくないときなど、他社は賃上げしてもわが社は据え置き、ということが生じます。

こういったときは、今までと同様の積立投資を続けていくことは難しくなっていますから、積立額の減額もしくは停止を検討してみてください。


 積立投資については自分が停止の手続き(積立額をゼロにする)を行わなければ自動的に継続しますから、ログインして自ら手続きすることが大切です。


 年収ダウンが深刻な場合、投資を停止するとともに早急に転職を検討してみてもいいと思います。給与ダウンが業績悪化などを理由としており、給与の減額どころか遅配が生じているような状態は、早めに行動すべきでしょう。


 一般に、給与の遅配を一度でもしたら、その会社が立ち直るのは難しいと考えるべきです。投資のコラムというと転職は無関係のように思えますが、しっかり稼ぐことが投資の第一歩ですから、まずはキャリアのてこ入れに専念しましょう。


 投資再開は落ち着いてからでもいいのです。


第2の状況:支出の大幅増、特に学費負担

 支出が大幅に増加しているような時期、投資を控えることはあり得ます。例えば企業型の確定拠出年金におけるマッチング拠出(iDeCoと同等の積立を企業型の確定拠出年金内で行う仕組み)の社内説明会などでは、ライフプランに応じて積立の停止はあってよいと投資教育をしています。


 私たちのライフステージでもっとも多いシチュエーションは子どもの学費でしょう。住宅ローンについては「家賃負担や頭金の積立→住宅ローン返済負担」のように同水準で振り替わる側面があるので、ゼロから負担増のような変化はありません。


 一方で学費については子どもの進学などに応じて必要額がぐんと増えます。学費のことは考えていたけれど、思ったより塾や受験費用がかさんだ、進路の変更により学費が大幅に増えたといったことはしばしば起こり得ます。


 こういうときは、iDeCoやNISAでの積立投資をストップしてもいいでしょう。iDeCoについては中途解約の制限があることを意識した減額や積立停止を検討します。NISAについては資金の売却もにらみながら、積立の停止や減額を考えてみてください。


 子どもが卒業した後にまた資産形成余力が出てきたら、ぜひ資産形成を再開してください。


第3の状況:自身の健康悪化、医療費負担増

 自分自身あるいは家族の健康悪化なども「投資を中断」していい状況の一つです。


 健康でない時期に投資のリスクを抱えることが負担であるならば、無理をする必要はありません。もちろん投資について一定の経験を積んでいて「長期積立分散投資なら療養と並走できる」というならそれも選択肢ですが、メンタル的な負担として運用の価格変動がのしかかる場合はいったん投資を中断するべきです。


 この場合は、資産の売却も視野に入れていいと思います。あなたの人生の優先順位が明らかに変わっているわけですから、投資へリソースを振り向けることを回避しても問題はまったくありません。


 闘病の時期はどうしても医療費負担増になります。支出が増えているという意味では前述の第2の状況にもなっていますから、積立の中断、売却を考えてもいいでしょう。


 難しい判断ですが、自分自身の余命が迫っていることを実感した場合も、投資は手じまいしてください。私の父は、体が動くギリギリのタイミングで一時退院し、証券会社で解約手続きをしていましたが、結果としてはそれが最後の退院となりました。


 相続のことを考えてもその日の売却は正しい判断となりました。マーケット的にはいい売却タイミングではなかったのですが、優先順位はそこではありません。


 若いうちの発病の場合、どう判断するか難しいですが、投資を中断する選択はあっていいと思います。


まとめ:いずれも投資より優先順位が高い状況 無理をしないこと

 三つの状況を考えてみましたが、基本的な考え方としては


「投資を続けたら生活費が足らず、借りるくらいなら投資を止める」
「投資の負担が生活に影響を及ぼすなら、投資を止める」


と整理できます。


 家計の安定あっての投資ですし、生活に安心があっての投資です。リスクと付き合っていくことは確かに大切ですが、「投資を中断してもいい」ときが人生で何度か訪れることもあります。


 また、中断をもう少し詳しく分けると「毎月の積立投資の中断」と「投資資金の売却も含む中断」になりますがこれも


第1段階:積立の中断
第2段階:売却する中断


と考えてみましょう。


 中断を考えるのは厳しい判断ではありますが(特に下落時期)、ご自身の生活状況に応じて判断してみてください。


(山崎 俊輔)

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