先週は米中貿易交渉開始に対する期待感など米国トランプ関税に対する楽観論が広がり、日米ともに株価が上昇。米国では好決算を発表した巨大IT企業、日本では好決算や増配を発表した内需株主体の企業が上昇のけん引役になりました。

今週は政策金利の据え置きが有力な米国FOMC(連邦公開市場委員会)やトランプ大統領の映画や医薬品に対する新たな関税発動に対する警戒感もあり、いったん上昇が小休止してもおかしくないでしょう。


FOMC後、トランプ氏の発言に警戒。今週はトヨタ・日本製鉄の...の画像はこちら >>

GW中の反発から一転、株式市場に暗雲

 先週、そして日本がゴールデンウイーク中の5月6日(火)までの株式市場は、米中貿易戦争緩和の兆し、米国巨大IT企業や日本企業の好決算、意外に良好だった米国景気・雇用指標を好感して、日米ともに株価が大きく反発上昇しました。


 しかし、日本時間5月1日(木)に開催された日米貿易交渉では、米国側が自動車、鉄鋼・アルミニウムに対する25%関税は交渉の対象外と通告。


 日本の赤澤亮正経済財政・再生相は「自動車など品目別関税の見直しがなければ合意できない」と述べており、交渉進展には暗雲も立ち込めています。


 5月3日(土)には、海外で生産され米国に輸出される自動車部品に対する25%関税が発動。


 日本から米国への自動車部品の2024年の輸出額は約1.2兆円と対米輸出全体の5.8%を占めているだけに、これは日本の自動車メーカーや部品メーカーにとって大打撃です。


 6日(火)夜にはトランプ大統領とカナダのカーニー首相の会談が行われましたが、会談に先立ちトランプ大統領はカナダ併合をあらためて示唆するとともに、カナダへの関税撤廃は「ない」と発言するなど、交渉は長期化しそうです。


 皮肉にも6日に発表された3月の米国の貿易赤字はトランプ関税前の駆け込み需要で過去最大の1,405億ドル(約20兆円)に達しました。


 トランプ大統領は5日(月)に外国映画に100%の関税を課し、今後2週間以内に医薬品への追加関税を発表するなど、いまだに関税を武器に他国を威嚇する姿勢を崩していません。


 4月初旬の相互関税導入で米国株、米国債、米国ドルが急落する「トリプル安」に見舞われたことに対する反省の意思はないようで、今後もトランプ関税が金融市場や米国経済に多大な影響を与え続けることは必至の状況です。


 今週7日(水)深夜には米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)が終了します。


 トランプ関税が米国内の物価高につながるリスクが高いため、追加利下げ見送りが濃厚ですが、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が今後の景気や物価についてどんな発言をするかに注目です。


 利下げが見送られれば、トランプ大統領が懲りずにパウエルFRB議長を激しく批判する可能性が極めて高く、その発言次第では米国株が再び乱高下するかもしれません。


 先週4月28日(月)から5月2日(金)の日経平均株価(225種)は2025年3月期決算発表で好業績や増配など株主還元策の強化を発表した企業を中心に幅広い銘柄が買われ、前週末比1,124円(3.2%)高の3万6,830円まで、3週連続で大幅に上昇しました。


 米国株も マイクロソフト(MSFT) やフェイスブックの親会社 メタ・プラットフォームズ(META) の好決算を受けてハイテク株中心に上昇。機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は前週末比2.92%上昇しました。


 S&P500は5月2日(金)まで9営業日連続の上昇で、これは2004年以来、実に20年ぶりとなる最長連騰記録。トランプ大統領が過激な相互関税を発表して、翌日から株価が暴落した4月2日の終値を上回りました。


 しかし、5月5日(月)以降はトランプ大統領の関税や貿易交渉に対する二転三転する発言、7日(水)のFOMCへの警戒感から6日(火)終値は前週末比1.46%反落しています。


 7日早朝の為替市場では1ドル=142円40銭台まで再度、円高ドル安が進行しています。


 ゴールデンウイーク明け7日(水)の日経平均は、週末比72円高の3万6,903円でスタート 。終値は前週末比51円安の3万6,779円と8営業日ぶりの反落で終了となりました。


先週:日本株は任天堂などゲーム株が上昇。米国の経済指標は強弱が入り乱れる結果に。

 先週はトランプ関税に対する楽観論が台頭したこともあり、日米ともに好決算を発表した企業の株価が上昇する比較的落ち着いた業績相場になりました。


 日本株では、6月5日(木)に発売開始予定の「Nintendo Switch 2」に対する期待感から 任天堂(7974) が前週末比8.4%高となるなど、ゲーム株の一部が属するその他製品セクターが週間の業種別上昇率1位に。


 海外の投資ファンドによる株式大量保有が明らかになった スクウェア・エニックス・ホールディングス(9684) が18.2%も急騰するなどゲーム株が上昇相場をけん引しました。


 株式非公開化の検討が報じられたトヨタグループの創業会社・ 豊田自動織機(6201) が25.8%も急騰するなど、自動車セクターも堅調でした。


 トランプ関税で不透明感が強い今期2026年3月期の業績予想が強気だった企業の株も買われました。


 オフィスなどの間仕切り最大手の 小松ウオール工業(7949) が4月28日(月)に2026年3月期の営業増益見通しと株主配当政策の変更で今期65円の大幅増配を発表。株価は2日連続ストップ高して、前週末比57.0%も急騰しました。


 今期2026年3月期の営業増益予想を発表した NEC(6701) も9.1%高、AIデータセンター向け需要増で今期の増収増益予想を発表した携帯基地局向け計測機器メーカーの アンリツ(6754) が11.6%高となるなど、トランプ関税の影響を受けにくい内需株や情報・通信関連企業のほうが強気の今期業績予想を出しやすく、買い安心感があるようです。


 反対に、米中貿易戦争で今期の大幅減益と前期比210円減配予想を発表した 商船三井(9104) が11.5%安となるなど、トランプ関税による貿易停滞が今後、業績悪化につながる海運株が業種別下落率ワーストに沈みました。


 また、5月1日(木)に開かれた日本銀行の金融政策決定会合では、2025年度の実質GDP(国内総生産)の成長率の見通しを2025年1月時点の1.1%増から0.5%増に大幅下方修正して、2025年内の追加利上げが困難という見方が台頭しました。


 そのため、金利横ばいが収益停滞につながる銀行セクターも上昇機運に乗れず、地方銀行大手の 京都フィナンシャルグループ(5844) が5.3%安となるなど低調でした。


 一方、米国では4月30日(水)発表の2025年1-3月期の実質GDPの速報値が前期比年率換算で0.3%の減少とマイナス成長に陥ったことが判明。


 GDP成長率にとってはマイナスの影響がある、トランプ関税前の駆け込み輸入が影響したようです。


 同日発表の給与計算代行会社ADP(オートマチック・データ・プロセッシング)社の4月民間雇用統計も予想を大幅に下回る6.2万人増と9カ月ぶりの低い伸びとなりました。


 しかし、2日(金)の4月雇用統計は非農業部門の新規雇用者数が前月比17.7万人増と予想を上回り、5日(月)のISM(全米供給管理協会)の4月非製造業景況指数も予想以上に上昇しました。


 トランプ大統領は2025年1-3月期の実質GDPのマイナス成長は前任者の「バイデン(前大統領)のせいだ」と責任転嫁し、トランプ関税による米国内への投資呼び込みで「少し時間はかかるが」米国経済はV字回復すると述べています。


今週:FOMC後のトランプ大統領の発言が最大の見せ場!?トヨタや日本製鉄の決算に注目!

 今週の日本株はトランプ関税に対する楽観論の後退で上昇が小休止しそうです。


 今週も2025年3月期の決算発表が予定され、5月8日(木)にはトランプ関税の直撃を受けている 日本郵船(9101) や トヨタ自動車(7203) 、ゲーム関連株として株価急騰中の任天堂(7974)、9日(金)には防衛関連の 三菱重工業(7011) 、米国向け鉄鋼に25%の品目別関税をかけられた 日本製鉄(5401) などが決算発表を予定しています。


 トランプ関税の悪影響が出やすい外需株が今期2026年3月期の業績見通しの悪化で売られやすく、トランプ関税の影響が少ない内需株が強気の業績見通しや増配、自社株買いといった株主還元の強化策発表で買われる展開が続きそうです。


 一方、米国では何といっても7日(水)深夜終了のFOMCに注目が集まっています。


 先週4月30日(水)発表の3月個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)は前年同月比2.3%の増加と前月2月の2.7%増から伸び率が鈍化したものの予想を上回りました。


 FRBが最重要視する、食品・エネルギーを除くコアPCEデフレーターは前月比変わらず、前年同月比でも2.6%上昇と前月2月から鈍化し、トランプ関税の影響はまだ出ていません。


 しかし、予想外に堅調だった4月の雇用統計などが示すようにFRBが利下げを急ぐほど米国経済が急激な減速局面に入ったわけでもありません。


 トランプ大統領が生み出す不確実性に対して、他ならぬトランプ大統領から強烈な利下げプレッシャーをかけられているパウエルFRB議長がFOMC後の記者会見でどんな発言をするか。


 当然、利下げを見送ればトランプ大統領が激しい攻撃を行うのは確実で、トランプ大統領vsパウエルFRB議長の対立激化が今週の最大の見せ場になりそうです。


 株式市場としては、トランプ関税による景気後退に先回りしてFRBが利下げすることが最も望ましいシナリオです。


 もし7日(水)のFOMCでパウエルFRB議長が少しでも利下げに寛容な姿勢を示せば株価が反発する可能性もあります。


 その反対に、トランプ関税による米国物価高への警戒感をあらためて表明するようなら、4月中旬以降、米国株も日本株も勢いよく反発上昇してきただけに、いったん調整局面を迎えてもおかしくないでしょう。


(トウシル編集チーム)

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