今週のドル/円は、米中貿易協議の関税大幅引き下げ合意を好感したドル買いで、3円以上円安が進みました。しかしその勢いは続かず、木曜までに円安はリセットされて、先週末の終値とほぼ同水準に戻っています。
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著者の荒地 潤が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 「ドルは、買っておけば儲かる」という時代は終わった? ドル/円下落、一時144円台」 」
今日のレンジ予測
[本日のドル/円]↑上値メドは146.70円↓下値メドは145.05円トランプ関税:対中関税強化で中国製品が欧州へ大量流入するおそれ
ドル高:ベッセント財務長官「10%関税で、4%のドル高になる」
マガノミクス:世界的景気低迷を犠牲に米国の短期的経済成長をもたらす。
ドルロング:投機筋のドルロング 20億ドル増加。6年ぶり高水準
カナダ:カナダ銀行、2025年上半期に量的引き締め終了
前日の市況
5月15日(木曜)のドル/円相場の終値は145.66円。前日終値比1.11円の「円高」だった。

2025年97営業日目は146.56円からスタート。ドルの上値が重い流れが続いた。東京時間昼前に0.20円程度上げてつけた146.75円がこの日の高値となった。147円には届かず前日の高値(147.67円)からは離れた。
NY市場でこの日発表された米国の4月小売売上高は前月比0.1%増にとどまった。3月の1.7%増から大幅に低下して、米国の消費縮小が明らかになった。また、今週発表された消費者物価指数(CPI)に続いて、卸売物価指数(PPI)も前月比0.5%減と、インフレの低下傾向を示した。
指標結果を受けてドル売りが強まると。ドル/円は夜遅くに前日の安値(145.59円)を抜け145.41円まで下落した。24時間のレンジ幅は1.34円。

今週は、米国と中国が貿易協議で互いに115%という関税引下げに合意したことで投資心理が上向いたことで、ドル/円は148.65円まで円安に動いた。しかしこの円安は続かず、昨日までに上昇分のほぼ全てを吐き戻してしまった。
米国が円安の是正を求めるとの臆測がドル/円のブレーキになっているとの見方もある。加藤勝信財務相は、来週カナダで開かれるG7会合で、ベッセント財務長官と「引き続き為替について協議を進める」と発言しているように、次のドル/円のメインテーマは、関税から為替政策に移りそうだ。
週末から来週前半 ドル/円:サポートとレジスタンス
レジスタンス:
149.17円 04/03
148.65円 05/12
148.45円 05/13
147.67円 05/14
146.75円 05/15
サポート:
145.41円 05/15
144.82円 05/09
143.44円 05/08
142.38円 05/07
142.35円 05/06
2025年 主要指標

今日の為替ウォーキング Island In The Sun
今日の一言
川を半分渡ってしまったら、水の深さについて心配しはじめても、もう遅い
Island In The Sun
米国と中国の両政府は5月12日、貿易協議の結果、相互に課している現在の追加関税を115%引き下げることで合意した。また、一部の関税について90日間停止し、協議を続けるとしている。経済大国同士が100%を超える関税をかけ合う異例の事態は、ひとまず緩和される形になった。
これがトランプ大統領の深淵(しんえん)なる戦略なのか、それとも単に関税のマスタープランが欠如しているだけなのかは見方が分かれる。投資家は、トランプ大統領が、中国に対する関税を早々に撤回したことは、その他の国に対しても譲歩する意思があることを表明したことであり、意義ある結果だと考えている。
ただマーケットは、関税はブラフ(はったり)であることがはっきりしたので、これからはトランプ大統領の脅しにいちいち反応する必要はないと考え始めているようだ。
米国の関税引下げは予想よりも早かった。しかし三つの問題が残っている。まず、関税を発動しては取り消し、そして新しい関税の導入を予告するようなことが数日から数カ月周期で繰り返される状況では、投資家が米国の長期投資に戻ることはない。
多くの経済にとって米国との貿易は重要であることは間違いない。しかしどの国にとっても、それが経済活動の最重要課題というわけではないのだ。
そして米国民とっては、関税は税金であり、その税金の高さは米国の消費税増税としては過去最大級になる。中国に対する「デミニミス(非課税基準額)」免税は廃止されたままで、これまで免税となっていた800ドル以下の商品も、関税の対象となっている。このため、公式のCPIデータには反映されない部分でも、米国の消費者は物価上昇に直面することになる。
これらの問題は、米国が今年、リセッションになる可能性が高いことを示している。

今週の注目経済指標

Winners & Losers

(荒地 潤)