お金と上手に向き合い、経済的に良好な状態にある「ファイナンシャル・ウェルビーイング」を実現していくため、何かあった時への備えについてご説明します。


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ファイナンシャル・ウェルビーイングとは?

 ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、経済的に良好な状態、具体的には「当面の支払いを着実に行うことができ、将来のお金について安心しており、人生を楽しむためにお金の面で幅広い選択ができる状態」(米国消費者金融保護局)とされています。


 ファイナンシャル・ウェルビーイングという考え方については、これまで以下の記事でご説明してきました。


  • 幸せな人生のため、お金と上手に向き合う「ファイナンシャル・ウェルビーイング」とは?
  • 資産が多くても幸せとは限らない?「ファイナンシャル・ウェルビーイング」を実現している人の特徴
  • 経済的に良好な状態とは?「ファイナンシャル・ウェルビーイング」を実現する四つのポイント

 今回はファイナンシャル・ウェルビーイングを実現していくために、「現在」と「将来」、「安心感」と「選択の自由度」という、次のような2×2のマトリクスで考えていく実践的な方法についてご説明します。


もしもの時に迷わない、家計リスクの備え方 ―スマホ故障から大黒柱の死亡まで
出所:「Financial well-being: The goal of financial education」(Consumer Financial Protection Bureau /消費者金融保護局, January 2015)を基に、筆者訳。赤字は筆者追記

 今回はこの四つのポイントのうち、右上の「ショック対応」について、つまり、何かあった時、不測の事態へ備える方法についてご説明します。


人生ではある日突然、金銭的なショックが発生することがある

 平穏無事な生活を送っていたとしても、人生では、ある日突然、金銭的なショック、つまり経済的な負担が発生することも考えられます。金額の大小はありますが、例えば、次のような例があります。


  • スマートフォンを落として損傷、修理が必要になった
  • インフルエンザにかかり、仕事を1週間休まなければならなくなった
  • スポーツをしていたら骨折してしまい、全治3カ月の治療が必要になった
  • 地震により、家具や家電が破損してしまった
  • 病気になり治療に専念するため、会社を1年間休まなければならなくなった
  • 自転車に乗っていて、人にけがをさせてしまった
  • 火災により、自宅が燃えてしまった
  • 交通事故で、一家の大黒柱が死亡してしまった

 モノが壊れたり、紛失したりすることもあれば、自分や他人などヒトが傷つくなどして経済的な負担が発生することもあります。


 スマホの修理のように比較的少額で済むこともあれば、一家の大黒柱の死亡のように、突如として遺族の生活が脅かされるようなこともあります。このように、人生にはある日突然に経済的な負担が発生する可能性があるのです。


 こういったリスクに対して何も備えていないと、いざ発生してしまった際には経済的な負担が直接ふりかかってくることになります。


 一方、こういったリスクに対して適切な備えができていれば、何か発生したとしても大丈夫、何とかなるという安心感を持って日々生活していくことができますので、漠然とした不安の少ない、ウェルビーイングな生活を送ることができるのではないでしょうか。


ヒトのリスクへの対策は国、職場、自分の順番で

 不安が軽減されたウェルビーイングな生活を送るためには、こういったリスクへ適切に備えておくことが必要ですが、あらゆるリスクについて全て自分で備えておくのは無理があります。


 そこで、重要となってくるのが次の図のように公的な保障、職場の保障、自助(自分)といった順番で確認しながら、備えていく考え方です。


ヒトのリスクへの対策は公的な保障、職場の保障、自分の順番で
もしもの時に迷わない、家計リスクの備え方 ―スマホ故障から大黒柱の死亡まで
ヒトのリスクへの対策 優先度

 ここでは一家の大黒柱の突然の死亡というリスクについて、具体的に考えてみましょう。ある日突然、家計を支えていた生計維持者(ここでは会社員と仮定)が死亡してしまうと、配偶者や子などの遺族は経済的に困ってしまうでしょう。こういった事態になった場合、どのようなサポート、支援が得られるのでしょうか。


 日本は国民皆年金ですから、まず公的な保障として公的年金保険から遺族年金が給付されます。公的年金は老後に受け取るものというイメージが強いかもしれませんが、正式には公的年金「保険」と呼ばれるように、


  • 高齢となって所得が得られなくなった際の老齢給付
  • 障害となって働けなくなった際の障害給付
  • 生計維持者が死亡した際の遺族給付

という三つの給付があります。会社員の場合、遺族年金として遺族厚生年金、遺族基礎年金(子がいる場合)が支給されます。


 会社員の場合はさらにお勤め先独自の給付がある場合もあります。死亡退職金、死亡弔慰金、遺児育英年金などが職場から支給されることもあります。


 生計維持者亡き後、遺された遺族は、公的な保障や職場からの給付を受けつつ、遺族自身の収入に加えて、手元にある貯蓄などの金融資産を活用しながら生活していくことになります。


 中には、両親や親戚、友人などから経済的な支援が受けられるという方もいるかもしれません。世界一幸福な国として注目されたこともあるブータンでは、いざとなったら支援してくれる人が50人ぐらいいるから金融資産を多く持っておく必要性は低い、などという話もあります。いずれにしても、いざとなったら頼れる人がいるかどうかも日頃から確認しておくことが大切です。


 もちろん手元の金融資産や遺族の今後の勤労収入だけでは何かあった際の生活が心もとないという人もいるでしょう。そういった場合には、万が一のリスクに備えて民間の生命保険(収入保障保険など)に加入しておくことが大切です。


 ただし、ここで大切なことは民間の保険でどのくらいの保障を購入すべきかを検討するには、土台となる公的な保障や職場の保障を適切に把握しておくことです。


 これらの保障内容が把握できていなければ、どのくらい民間の保険に加入すればよいのか分かりません。死亡保険金1,000万円で十分なのか、3,000万円あっても足りないのか、子の人数や年齢など家族構成によっても大きく変わります。


モノのリスクについては自分で備えていくことが基本

 このようにヒトのリスクについては公的な保障や職場の保障がありますが、自動車やマイホームなど、個人財産となるモノについては公的な保障や職場の保障がほとんどないため、基本的に自分で備えていくことになります。


 例えば、マイホームが自然災害により全壊した場合は被災者生活再建支援制度から最大300万円の支援金を受給できるなどの可能性があり、他にもお住まいの自治体によっては何らかの支援金が受け取れる可能性はあります。しかし、公的な保障はそれほど充実しているわけではないため、基本的には民間の火災保険や地震保険などに加入して備えていくことになります。


ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現していくために

 今月、来月の支払いがきちんと行えるかといった明確に分かっている支払いに対応できるかという支出管理に加えて、ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現していくためには、まだ明確になっていない、潜在的なリスク、ショックに対してもきちんと備えられているという安心感を持っていることが重要です。


 スマホの故障や盗難といった比較的少額のものから、大黒柱の突然の死亡やマイホームの全壊など、非常に大きい経済的な負担までさまざまなリスクがありますが、金額的に大きなリスクについては公的な保障、職場の保障、自助という優先順位で、日頃からきちんと確認し把握しておくことで、漠然としたリスクに対する不安が軽減されるはずです。


 経済的に良好な状態であるファイナンシャル・ウェルビーイングを実現していくために、ショック対応についても、しっかりと把握しながら管理していくようにしていただければと思います。


【関連リンク】
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