今週の米株市場は先週の楽観ムードから、怪しい雲行きも警戒されるムードになってきました。背景には、米国の関税政策によるインフレや信用格付けの引き下げ、国債入札の低調などを受けた米国の金利上昇があります。

今後もしばらく慌ただしい相場展開が続きそうです。


米国株市場、先行きに警戒感。目まぐるしいリスクの「オンとオフ...の画像はこちら >>

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 米国株市場は切り替えの早さに注意~目まぐるしく変わるリスクの「オンとオフ」~ 」


米株市場は怪しい雲行きになってきた?

 今週の米国株市場ですが、先週までの楽観ムードから一転し、少し雲行きが怪しくなってきた印象となっています。


 21日(水)の取引では、ダウ工業株30種平均が前日比で1.91%安となったほか、S&P500種指数が1.61%安、ナスダック総合指数が1.41%安と主要株価指数がそろって下落しました。


<図1>米主要株価指数のパフォーマンス比較(2024年末を100)(2025年5月21日時点)
米国株市場、先行きに警戒感。目まぐるしいリスクの「オンとオフ」(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDIIデータを基に作成

 上の図1は、 前回のレポート でも紹介しましたが、昨年末を100としたそれぞれの株価指数の値動きを比較したチャートです。


 先週前半までの急上昇が一服し、上値が重たいながらも昨年末比でプラス圏への浮上を意識する展開でしたが、足元で失速気味になっている様子がうかがえます。


株高を阻んだ米金利上昇

 こうした株式市場のムードの変化については、米債券市場の動きが影響しました。


 具体的なきっかけとなったのは、21日(水)に行われた米20年国債の入札でした。最高落札利回り(5.047%)が前回から上昇し、応札倍率も過去平均(2.46倍)をやや下回るなど、需要の低調さを示す結果となりました。


 入札の結果が公表されたのは、この日の昼過ぎ(現地時間)です。これにより、米債券市場で売りが優勢となり、10年債利回りなどが上昇しました。


<図2>米10年債利回り(日足)の動き
米国株市場、先行きに警戒感。目まぐるしいリスクの「オンとオフ」(土信田雅之)
出所:楽天証券WEBサイト(REFINITIV)を基に作成

 上の図2は米10年債利回りの日足チャートですが、足元の利回りが4.5%を超えるところまで上昇していることが読み取れます。


 また、債券市場だけでなく、株式市場でもNYダウとS&P500が下げ幅を拡大し、ナスダックもマイナスに転じるなど、相場のムードを一変させました。


<図3>米S&P500の1分足チャート(2025年5月21日)
米国株市場、先行きに警戒感。目まぐるしいリスクの「オンとオフ」(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

 S&P500の1分足チャートを見ても、入札結果を受けた昼過ぎに急落し始めた様子が確認できます。


 一般的に、金利の上昇は、企業の借入コストの増加やローン金利の上昇による消費への悪影響、債券に対する相対的な割高感など、株式市場にとってネガティブに働きやすくなります。先ほどの図1でも、金利や景気の影響を受けやすい中小型銘柄で構成されるラッセル2000の弱さが読みとれます。


 このほか、先週末16日(金)に米格付け会社のムーディーズが発表した米国の信用格付けの引き下げも大きく影響した可能性があります。


 引き下げ自体は事前に想定されていたほか、他の大手格付け会社が2011年8月と2023年8月に格下げを発表していたこともあり、今回の格下げ発表後の米国株市場の初期反応は比較的しっかりしていましたが、米国の財政に対する注目度を高めたことに変わりはなく、今回の超長期国債への入札結果に対しても敏感に反応させた面があると思われます。


米下院で審議中の減税法案について

 また、米国の財政と言えば、現在、米議会の下院で審議中の減税法案の行方も注目されています。この減税法案はトランプ米大統領の目玉政策でもありますが、主な内容は以下になります。


  • 2017年の税制改革で導入された個人所得税規定の延長・復活
  • 税控除額の引き上げ
  • 州・地方税控除(SALT)の拡大
  • 法人税引き下げ復活
  • エネルギー・クリーン自動車税制控除の修正・廃止
  •  このまま法案が下院や上院で採決されて成立すれば、財政への負担が高まる一方で、米国の景気を支えるという見方もあります。


     ただ、減税法案の内容を見ると、まもなく期限を迎える現行の減税策の延長がメインであるほか、米共和党の財政再建強硬派との協議や調整の結果、法案に大幅な修正が加わった場合には、景気刺激効果が限定的になってしまうことも考えられ、法案審議中のタイミングで発表された米国の格下げも少なからず影響を与えるかもしれません。


    当面は「リスクのオンとオフ」の切り替えの早さに注意

     さらに、トランプ政権の関税政策の影響による景気後退やインフレへの懸念もまだ払拭しきれていないことを踏まえると、足元の金利上昇は、景気拡大に伴う「良い」金利上昇ではなく、財政やインフレを警戒した悪い金利上昇である可能性があります。


     もちろん、米国は基軸通貨のドルを発行しているほか、米債券市場の規模が他国の債券市場と比べて巨大であることを踏まえると、「米国債を売っても、売却資金を吸収・運用するところ」は限られてしまいます。


     ビットコインなどの暗号資産や金などの価格が上昇する動きも一部で出ていますが、このまま一方通行で米国債が売られ、金利が上昇していくという可能性は低いと考えられます。


     また、米主要株価指数の日足チャートを見ても、まだ相場が崩れたわけではなく、今のところ、積極的に下値を探りに行く状況になっていません。


    「不安を抱えながらも楽観的な見方」で上昇してきた米国株市場ですが、足元でネガティブな材料が増えてきたことによって勢いがそがれた格好です。週末に予定されている日米関税交渉が進展したり、来週のエヌビディア決算の内容次第では再び買いが勢いを取り戻すこともあり得ます。


     いずれにしても、先行きの不透明感が強く、中期的なシナリオが描きにくい中では、楽観派と悲観派の綱引きが続き、リスクのオンとオフが素早く切り替わる展開がしばらく繰り返されることになりそうです。


    (土信田 雅之)

    編集部おすすめ