想定される選挙結果のシナリオの中で参院選で与党が50議席割れした場合のみ、日本株に変化が生じる可能性があります。争点は物価高対策で、与党勝利なら小売、野党優勢なら食品スーパーやPOSレジ関連銘柄に注目です。

財源問題から財務健全なグロース株も選択肢です。ただし、過去の傾向からあまり神経質になる必要はないでしょう。


参議院選挙が日本株に影響する可能性はある?注目すべき銘柄は?...の画像はこちら >>

「変化」を意識する唯一のシナリオは「与党の獲得議席50割れ」

 参議院の定数は248議席ですが、そのうち半数の124議席が改選定数となります。自民、公明の両党で、過半数となる「63議席以上」を取れたら大勝利(東京都議選での大敗ぶりを思えば、かなりのサプライズ?)。


 今回、石破茂首相が目標としているのは非改選と合わせた過半数維持となる「50~62議席」で、これが勝敗ラインの目安となります。「49議席以下」の場合、与党は敗北ですので、野党の影響力が強まると認識されます。


 では、それがマーケットにどの程度の影響をもたらすのか?「そこが分からん(-_-;)」なわけですが…おそらく、市場関係者はこういう解釈でお茶を濁しそうです。


 前編で述べた「選挙は買い」を参院選にも当てはめ(実際はそんなトラックレコードを残していないのに…)、(1)自民、公明の両党で「63議席以上」なら政権安定でポジティブなため株高要因、(2)「50~62議席」なら石破首相が続投、今とさほど変化がないためニュートラル、(3)「49議席以下」なら野党の影響力が高まり政治も不安定となるため、ネガティブで株安要因。


 雰囲気でこういう分類をする市場関係者が多そうですが、これ、どう思いますか?


 少なくとも、過去の参院選が日本株にとっての株高イベントではなかったこと、日本株が政治を無視した価格形成を続けていることを踏まえて、もう一度考え直してみましょう。


 今回、東京都議選こそ大敗したものの、国政とは違う力学が働くともいわれています。小泉進次郎氏のコメ政策がプラスという声もあるし、参院選前にタイミングを合わせ米国との関税交渉が進展するといった強烈な追い風が吹く可能性もあります。


 結果、(1)や(2)の与党勝利という結果になったとしましょう。これ、本当にポジティブでしょうか。

少なくとも、政策面での「変化」などが生じるわけではないため、この結果自体が株価にポジティブインパクトを発生させるでしょうか。


 かといって、株価にネガティブなわけでもないため、今まで通りの米国株や為替を気にする日々が続くのみ…。(1)や(2)は無風イベントとも想定されます。


 そう考えると、「変化」が生じそうなのは(3)の「49議席以下」だった場合だけ。野党が影響力を高め、与党内では「ポスト石破」に向けた動きが広がる…。このシナリオの時に、相場がどう動くのか? このシナリオを考える上で重要なのは、今回の参院選の争点です。


今回の参議院選挙の争点は、「物価高対策」一点集中モード。シナリオ別の有望セクターや銘柄は?

 もちろん有権者それぞれにとって、重視する政策は異なります。ただ、今回の争点はダントツで「物価高対策」。5月中旬の一部調査によれば、有権者が重視する政策のトップが「景気・物価高対策」とした比率が回答者の67%。子育て支援(同34%)の2倍近い関心が、今回の参院選では物価高対策に向けられています。これは、2022年の参院選と全く同じ構図です。


 争点は物価高対策一択で、焦点はどういった物価高対策を打ち出すか? そこで急速に盛り上がっているのが、最大野党の立憲民主党も選挙公約に掲げた「消費税減税」。以前から国民民主党やれいわ新選組などは主張し続けているため、野党は「消費税減税」で一致する格好となっています。


 一方の与党は、自民党内でも消費税減税派もいたようですが、結局は公約に盛り込まず、生活応援のための「給付」と主張する一律2万円(住民税非課税世帯や子どもは4万円)のバラマキを公約としました。物価高対策を争点とする選挙戦は「給付(≠バラマキ?)」VS「消費税減税」となります。


(1)~(3)のシナリオごとにマーケット反応を考え、有望セクターや銘柄を想定していきましょう。まずは、(1)の与党圧勝パターンから。


(1)与党が「63議席以上」の場合 政局 石破政権が力強める 物価高対策 一律2~4万円給付 経済効果 即効力アリ GDP押し上げ力 小 株価ドル円長期金利

 与党勝利で、石破政権は盤石化し、消費税減税を主張する野党の発言力も弱体化。当然ですが、一律2~4万円の給付は、即効力は高いとみられます。


 ただ、支給額は今回少ないですよね。国民一律で思い出されるのが、2020年4月に決まった新型コロナ対策の特別定額給付金。あの時が一律10万円でしたので、5分の1。すぐに使い終わって、国内総生産(GDP)押し上げ効果も小規模にとどまる中、「選挙対策でバラまいただけ」なんて国民から不平不満が出てくる展開でしょうか?


 ちなみに、2020年4月の特別定額給付金の際、使い道に関する一部調査では、全体の7割が「生活費」と答えたようです。

今回も、生活費の足し程度で消えそうです。ポジティブセクターは小売で、外食というより日用品関連に恩恵がありそうです。


 大型株では、総合スーパーの イオン(8267) 、ディスカウントストアの パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(7532) 、ドラッグストアの スギホールディングス(7649) 、 ツルハホールディングス(3391) 、ホームセンターの DCMホールディングス(3050) 、300円ショップの パルグループホールディングス(2726) などが挙げられそうです。


 これは、与党が勝敗ラインをクリアする(2)のパターンでも全く同じ。


(2)与党が「50~62議席」の場合 政局 与野党の勢力図変わらず 物価高対策 一律2~4万円給付 経済効果 即効力アリ GDP押し上げ力 小 株価ドル円長期金利

 与野党の関係が今と変わらず、何も変わらないわけで日本株も今までの延長線上。50議席以上を獲得するなら、それより上の議席数の多い・少ないが株価に影響は与えないように思われます。


 消費税減税では財源問題が浮上しますが、一律現金給付であれば必要な予算は「3兆円台半ば」と試算されています。それで済むなら財政の極端な悪化懸念が後退、日本の長期金利は低下すると想定されます。


(3)与党が「49議席以下」の場合 政局 野党の力が強まる 物価高対策 給付&食料品の消費税ゼロ 経済効果 即効力と持続力アリ GDP押し上げ力 大 株価 ??? ドル円長期金利

 問題は(3)のパターン。野党の発言の持つ影響力が高まることになり、政局が不安定化します。それが短期的に株価にネガティブになるかもしれません。


 一方で、野党が主張する消費税減税との組み合わせで、即効力と持続力を組み合わせる強い物価高対策が実現するかもしれません

筆者の周りの市場関係者は「消費税減税は株価にポジティブ」と大半が言っています。選挙結果が短期的にネガティブとなっても、長期的には株高要因になる可能性があり、このパターンの判断は相当難しそう…。


 食料品の消費税ゼロが実現するなら、食料品のみの価格引き下げ効果とはいえ、生活コストの低減で家計の可処分所得を増やす効果が期待できます。これが消費全体を持ち上げ、GDPを強く押し上げる可能性を生むことから「株価にポジティブ」といわれるゆえんです。


 給付金と食料品に限定された消費税減税により、小売の中でも食料品を扱う食品スーパー株が恩恵最大。食品スーパーは多く上場していますが、例えば株価純資産倍率(PBR)1倍割れ銘柄では ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(3222) 、 アルビス(7475) 、 リテールパートナーズ(8167) 、 オークワ(8217) 、 イズミ(8273) 、 フジ(8278) などが挙げられます。


 また、消費税率が変更となれば、変更に伴う需要が生まれる業態もあります。2019年10月の消費税率引き上げ時に軽減税率制度が導入されました。当時と同様、対応レジへの変更需要が想定されます。POSレジ関連で 東芝テック(6588) 、 スマレジ(4431) 、業務用ソフトの ピー・シー・エー(9629) 、 ミロク情報サービス(9928) などがメリット銘柄といえそうです。


 一律現金給付であれば必要な予算は「3兆円台半ば」とされますが、食料品の消費税率ゼロもセットとした場合は「年間5兆円」が必要。財源については、野党各党でバラバラですが、ある機関投資家向けレポートで、国債の追加発行とそれに伴う日本国債の格下げリスクを海外投資家が嫌う可能性があるとの記載も見かけました。


 日本国債売り(=長期金利上昇)が進んだ場合、株式市場は財務健全な銘柄を好むと考えられます。


 大型株(金融株除く)で代表的なキャッシュリッチ企業といえば、 任天堂(7974) 、 バンダイナムコホールディングス(7832) 、 ネクソン(3659) 、 コナミグループ(9766) 、 LINEヤフー(4689) や、 ファナック(6954) 、 キーエンス(6861) 、 光通信(9435) などが挙げられます。


「質への逃避」で株式市場にお金が流れる局面では、割安株ではなく、こうしたクオリティグロース株が優位となります。


 今回の参院選、繰り返しになりますが…過去の参院選が日本株にとっての株高イベントではなかったこと、日本株が政治を無視した価格形成を続けていることを踏まえると、あまり神経質にならないことが大事だと思います。


 市場が求めるのは「変化」。その変化が生じるのは(3)のパターンのみで、その場合には物色対象となりそうな銘柄アイデアも多くなりそうです。とりあえず…投票に行きましょう!


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(岡村 友哉)

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