<指数パフォーマンス比較~バリュー株orグロース株どっち優勢?~>

7月の中小型株ハイライト「『関税合意』で存在感薄れる」
悪材料、不安材料は複数ありながら、終わってみると7月も中小型株の主要指数は全て上昇。最大のハイライトシーンは、日米相互関税が合意し日経平均株価(以下:日経平均)が爆上げした7月23日でした。そのインパクトが強烈過ぎて、総じていえば中小型株の印象は薄い7月相場だったともいえそうです。
7月は月初から地合いが暗転。6月末にかけて日経平均がショートカバーを加速させながら4万円の大台を回復したため、月が替わっていったん利益確定売りを広げる雰囲気を強めました。日米関税交渉や参院選への不透明感、そしてプライム市場では年に1度の「上場投資信託(ETF)分配金ねん出売り(推定1.5兆円売り)」なる需給面のマイナスイベントが気掛かり要因に。
ただ、その間もプライム市場では外国人の買い越しが続きます(結局、現物と先物合算では7月第4週まで15週連続買い越しを継続中)。また、米国でS&P500種指数やナスダック総合指数が史上最高値を更新する好地合いで、ドル/円相場も7月に入って一貫して円安基調に。外部環境の良さが不安材料を打ち消し、日経平均も大崩れを回避します。
とはいえ、値動きは緩慢だったため、月前半は東証グロース市場250指数の堅調ぶりが逆に目を引きました。

20日の参院選では、自公が過半数割れで敗北しました。ただ、「自公過半数割れ」をコンセンサスとしていたこともあって、過半数割れは「想定内」として大過なくイベント通過。
ドラマが待っていたのは参院選後の23日でした。8月1日の新関税期限を待たず、急転直下で7月23日に日米相互関税15%で合意。タイミングのサプライズに加え、同日に一部メディアが「石破首相、8月末までに退陣表明へ」と報道(その後、石破茂総裁は続投の意向に変化しましたが)。
自動車関税も15%に引き下げられることになり、圧巻だったのは直後の自動車株の上昇率でした。時価総額最大のトヨタの14%高や、北米販売比率の高いマツダはストップ高(18%高)。また、関税合意で日本銀行が利上げしやすくなるとの思惑でメガバンクなど銀行株の上昇も目立ちました。自動車、銀行の二大バリュー株業種の上昇で、物色もバリュー株優位にモードチェンジ。
23日の買いの主役も外国人とみられ、ここでのプライム市場急騰により、東証グロース市場250指数に対して出遅れていた日経平均株価は一撃でキャッチアップ。
7月23日、プライム市場の売買代金は7.1兆円の超大商いを記録。これは、昨年「暴落→急反発」した2024年8月5日~7日以来のことです。それだけ、関税ネガティブ筆頭業種である自動車株のウエートを低くしていた機関投資家、空売りしていたヘッジファンドが多かったということでしょう。「関税合意」で強烈な買い戻し含め、すさまじいエネルギーがかかることになりました。
プライムの売買代金が激増した一方、関税ネガティブ銘柄が根本的に少ないスタンダードやグロース上場銘柄は話題の蚊帳の外。東証グロース市場でいえば、7月の1日当たり売買代金は2,199億円と6月(同2,578億円)に比べて15%減少しました。
スタンダード、グロース上場の流動性上位
※8月1日時点の売買代金25日移動平均上位
コード 銘柄名 売買代金
25日MA
(億円) 7月騰落率 3350 メタプラネット 390 ▲30% 5595 QPS研究所 176 ▲10% 3905 データセクション 126 114% 7014 名村造船所 111 ▲1% 4593 ヘリオス 77 43% 4592 サンバイオ 75 ▲4% 2586 フルッタフルッタ 66 57% 4889 レナサイエンス 65 69% 2158 FRONTEO 62 63% 141A トライアルHD 59 3% ※メタプラネット・名村造船所はスタンダード上場
スタンダード、グロース上場の中小型株の7月の流動性上位では、ダントツの メタプラネット(3350) が大幅下落に。
その中で、3位の データセクション(3905) や9位の FRONTEO(2158) などAI/AIデータセンター関連の急騰と売買急増が目を引きました。米トランプ政権がAI普及のための13兆円超の設備計画を発表したこと、AI半導体の対中輸出許可、TSMCの好決算発表などを手掛かり材料としました。
新NISAで中小型株!今月の銘柄アイデアは…「決算見極め無縁の好需給株」
日米関税の合意直後、一時4万2,000円台に爆上げした日経平均。変動速度の速さ、商いの多さの両面で、まさに昨年8月の暴落時の真逆バージョン。昨年8月はあまりの下げ方に買い手がパニックとなり、ろうばい売りが下げ幅を大きくしました。今回はその真逆といえるため、空売り(ショート)勢がパニックとなり、ロスカットの買い戻しを急いだことで付けた高値だったようにみえます。
日経平均4万円オーバー水準では、高値圏での純粋な買い手は不在といった感じがあります。最高値を更新してきた米国株の展開次第ではありますが、その米国株も、経済指標の悪化から「景気減速懸念」が再浮上。米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けて一度後退した利下げ観測が再燃し、為替の円安トレンドが反転する可能性があります。
ただ、8月8日にも自民党が両院議員総会を開催する見通しで、現時点では「石破首相は続投?退陣?」問題を不透明要因として残したまま。退陣の場合の後任候補は、おそらく石破総理よりマーケットフレンドリーのはず…この思惑から、退陣なら「株高/円安」で反応する公算が大きく、これは日本株再浮上のカタリストになります。
また、8月前半は国内企業の決算発表シーズン(発表社数のピークは8日、発表が多いのは14日まで)。先行発表したところで強烈な印象を残したのが、マーケットで人気の高い半導体株でした。ディスコ、スクリーンホールディングスと決算発表自体ネガティブな内容が続き、ようやくポジティブ決算だったアドバンテストも株価反応は「出尽くし」ということでネガティブ。
そして東京エレクトロンはいきなりの通期予想の下方修正で、翌日一時ストップ安になる異常事態に。半導体株総崩れは、個人の信用残が多いという理由からマイナスの波及効果を生みます。
個人投資家に人気の東証グロース上場銘柄などでいえば、信用買い残の多い銘柄に関しては、決算の好悪などを理由に急変動するのが決算シーズン。信用買い残や売買代金の大きい人気銘柄の決算後の値動きが、個人のセンチメントに与える影響も大きく、こちらは不透明要因となります。
ということもあって…決算手前は警戒ムード→通過でアク抜け、といった流れにもなりやすいのが決算発表シーズン。
そして、この8月の決算発表シーズンは、国内外の投資家が夏休みシーズンでもあり、商いが少なくなることでも知られています。いわゆる「夏枯れ」。夏枯れという表現から、8月はパフォーマンスが悪くなるイメージもありますよね(昨年の暴落も8月でしたし)。

実際どうか? 過去10年分ですが、日経平均と東証グロース市場250指数の8月の月間騰落率を棒グラフ化しています。
突出して急落している2015年8月はチャイナショックの年、2020年8月はコロナラリーの年。それを除くと、日経平均はさほど大きな変動をしていない月ともいえますし、東証グロース市場250指数はここ数年上がっているケースが多いともいえます。夏休みでサラリーマン投資家のデイトレ参戦が、個人主体の中小型株にはプラスになる都市伝説もありますが…(^^;
先月の日経平均主導の買い戻しラリーの反動と関係なく、円高反転が進んだ場合にも関係性が薄い意味で、8月も中小型株の地合いは極端に変化しないことを想定しています。ただ、決算手前は警戒ムードになりやすい点は意識しておきたいところ。
スタンダードやグロース上場の中小型株の人気銘柄と決算発表日でいえば、7日に 名村造船所(7014) 、8日に ブルーイノベーション(5597) 、 ispace(9348) 、12日に カバー(5253) 、 ヘリオス(4593) など。
そして、中小型株の集中日は13日で、 メタプラネット(3350) 、 ZenmuTech(338A) 、 レナサイエンス(4889) 、 トライアルホールディングス(141A) 、 情報戦略テクノロジー(155A) 、 Aiロボティクス(247A) 、 モンスターラボ(5255) など、ラストの14日は ジーエヌアイグループ(2160) 、 フルッタフルッタ(2586) が予定しています。
中小型株の堅調地合い自体は大きく変化しないことを前提としますが、半導体株の調整などで全体の信用評価損益率は悪化。その影響が信用買い残の重い銘柄にはマイナスになり得ます。今回は、信用買い残が軽く、そして決算リスクとも無縁(決算発表時期ではない)な中小型株の中から、好需給を維持している銘柄をピックアップしました。
決算リスクと無縁な需給良好の中小型株
【条件】(1)スタンダード、グロース上場
(2)3・6・9・12月決算銘柄以外
(3)年初来高値からの乖離率が5%未満
(4)信用買い残が25日移動平均出来高の200%未満
(5)時価総額が100億円以上
※8月1日時点、時価総額大きい順、タイミーはグロース銘柄 コード 銘柄名 年初来高値
乖離率 信用買い残
/25日MA売買高 215A タイミー ▲2.0% 68% 3222 ユナイテッド・スーパーマーケット・HD ▲0.7% 50% 7512 イオン北海道 0.0% 64% 2653 イオン九州 ▲0.7% 153% 7279 ハイレックスコーポレーション ▲1.4% 91% 9369 キユーソー流通システム ▲4.1% 98% 3399 丸千代山岡家 ▲3.9% 161% 4992 北興化学工業 ▲2.0% 68% 2305 スタジオアリス ▲0.4% 75% 2669 カネ美食品 ▲2.9% 170% 2830 アヲハタ 0.0% 59% 3421 稲葉製作所 ▲3.6% 50% 9979 大庄 ▲0.6% 149% 3547 串カツ田中HD ▲0.2% 148% 3562 No.1 ▲1.1% 136% 8904 AVANTIA 0.0% 194%
年初来高値圏に位置し、信用買い残の軽い銘柄は、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス、イオン北海道、イオン九州、丸千代山岡家、串カツ田中ホールディングスなど東証スタンダード上場の小売株が多いといえます。参院選の結果を受けた今後の消費振興策に期待するなら、その恩恵セクターである小売株に関心が向きそうです。
(岡村 友哉)