インフラファンドの株価は2024年以降、国債利回りの上昇を嫌気してPBR1倍を大きく割り込む水準まで下落し、利益分配金利回りは7%台の銘柄も出てきています。利益超過分配金削減による企業成長力強化を具体化させつつある、カナディアン・ソーラー、エネクス、ジャパン・インフラファンドの3銘柄を、「買い」推奨いたします。
PBRが1倍割れとなる一方で利益分配金利回りは7%台のファンドも存在
現在、国内で上場しているインフラファンド(太陽光発電や風力発電などのインフラ施設に投資するファンド)は3銘柄あり、これら3銘柄の発電設備のほとんどは太陽光発電設備です。
最大のインフラファンドである カナディアン・ソーラー・インフラ投資法人(9284) (株価8万4,200円:8月1日終値)の時価総額は362億円、2位の エネクス・インフラ投資法人(9286) (株価4万9,250円:8月1日終値)の時価総額は264億円、3位の ジャパン・インフラファンド投資法人(9287) (株価4万7,250円:8月1日終値)の時価総額は208億円となっています。
これら3銘柄の株価純資産倍率(PBR)は1倍を下回り、利益分配金利回りは6~7%台と高水準です。
<インフラファンド3銘柄の株価関連主要指標>

<インフラファンド3銘柄の利回り関連主要指標>

2024年の株価下落がPBR低下と利益分配金利回り上昇につながった
現在は1倍を割り込んでいるPBRですが、2023年末時点では1倍を上回っている状況でした。
2024年に入って、主として(1)国債利回りの上昇によって高利回り投資対象としての魅力が相対的に低下する懸念が高まったこと、(2)2024年6月に太陽光パネルのリサイクルを義務化することが検討されている旨の報道が出たこと、などを要因として株価が下落し、現在の低PBR、高利回りの状況へとつながりました。
また、(3)国内の不動産投資信託(J-REIT)とは異なって、導管性(法人課税と配当課税等との二重課税を回避するための仕組み)を認めて配当を税務上の損金に算入できる期間が設備取得後20年に限定されているという点も、株価下落の一因となった可能性があります。
<インフラファンド3銘柄の出力容量とPBR推移>

<インフラファンド3銘柄と2年国債の利回り推移>

これら三つのインフラファンドについて、次の点から「買い」と判断します。
「買い」と判断する三つの理由
前述のインフラファンド3銘柄を「買い」と判断する理由は、以下の三つです。
【1】国債利回り上昇に対して株価が下がり過ぎている
【2】利益超過分配金の削減によって、公募増資によらない新規アセット取得や廃棄・リサイクル費用積み立てなどの対応力が増している
【3】20年の導管性認定期限についての廃止議論が進んでいる
それぞれの理由について詳しく説明します。
【1】国債利回り上昇に対して株価が下がり過ぎている
2023年から足元までで国債の2年債利回りは0.7%上昇したのに対し、インフラファンド3銘柄の利益分配金利回りは株価下落の結果、2.4~3.6%と極端に上昇しています。
<インフラファンド3銘柄と2年国債の利回り変化>

仮に三つのインフラファンドの利回り上昇が2023年対比で0.7%を上回る1%上昇だったとして株価を逆算して推計すると下表の通りとなります。現在の株価水準を大きく上回る数値となり、直近の株価が売られ過ぎの状態にあると思われます。
<2023年からの利回り変化が+1%の場合の株価推計値>

【2】利益超過分配金の削減によって、公募増資によらない新規アセット取得や廃棄・リサイクル費用積み立てなどの対応力が増している
インフラファンドは利益分配金以外に、実質的に自己資本の払い戻しに当たる利益超過分配金の支払いも行ってきました。これは、J-REITに比して減価償却期間が20年と短いインフラファンドは計上される利益に比してキャッシュが厚くなる傾向にあり、そのキャッシュを投資家に還元する趣旨で行われてきたものです。
しかし、分配を行わずに蓄積して公募増資によらない新規アセット取得を行えば、インフラファンドに期待して資金を託している株主の利益により資するわけですし、議論されているリサイクル義務化といった業界環境変化に対する対応力も増します。
こういった観点の議論が盛んになる中、複数のインフラファンドが利益超過分配金の将来的な削減・廃止の方針を表明しており、実際に2025年の利益超過分配金利回りについて、インフラファンド3銘柄は大きく減る見通しを示しています。
<インフラファンド3銘柄の利益超過分配金利回り>

【3】20年の導管性認定期限についての廃止議論が進んでいる
以下は若干専門的な話になりますので、ご興味のある方のみ目を通していただければと思います。
配当を税務上の損金として算入できる導管性認定については、不動産投資信託(REIT)が無期限で認められるのに対し、インフラファンドは20年限定という制約があり、インフラファンドへの投資を検討する投資家の懸念点となってきました。
インフラファンド市場開設から10年目を迎える中、東京証券取引所は2025年3月に「 今後のインフラファンド市場の在り方研究会 」の報告書を公表しました。報告書において導管性認定の期限撤廃を含めた改革案が提示されており、今後の制度改定につながる可能性があります。
(西 勇太郎)