8月7日(木曜)のドル/円相場の終値は、前日比0.24円「円高」の147.13円。1日のレンジ幅は1.02円だった。


ドル/円続落147円台の画像はこちら >>

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の荒地 潤が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 ドル/円続落147円台。 FRB9月利下げの可能性は? 」


今日のレンジ予測

[本日のドル/円]上値メドは147.80下値メドは146.50円

トランプ関税:米国の税関当局は、準備期間の短さやDOGEによる人員不足で、関税を執行する能力を持っていない
金準備:中国が金保有積み増し。現保有量2,300億ドル、外貨準備の7.1%
FRB:クーグラー理事「金利は引き締め状態を継続する必要がある」
FRB:シカゴ連銀総裁「インフレが2021年の時のように『制御不能』になるリスクがある」
米中関係:対話チャンネルは、ほぼ完全に遮断


前日の市況

 8月7日(木曜)のドル/円相場の終値は、前日比0.24円「円高」の147.13円。1日のレンジ幅は1.02円だった。ドルが全般的に売られる中で、ドル/円は強い円高バイアスはなく、146.50円から148.00円のレンジ取引が続いている。


 投資家は円を買うことに慎重な様子。日本に対するトランプ追加関税は15%に下がったと喜んでいたら、「従来の関税+相互関税率(15%)」だったことが判明した。日米合意の成果を盾に続投を狙う石破政権の支持が急落する恐れがある。そして日本銀行にとっては利上げを引き延ばす理由が見つかったことになる。


ドル/円続落147円台
出所:MarketSpeed FXより、楽天証券作成

 2025年157営業日目は147.39円からスタート。東京時間昼ごろに147.71円まで円安に動いたが、前日の高値(147.88円)に届かないまま円高に方向を変えた。

夕方には147.00円を割り146.69円まで下落したが、その後はレンジ相場となった。


 複数の米連邦準備制度理事会(FRB)のメンバーから9月利下げを支持する発言がでていることが、ドルの上値を重くしている。利下げ確率はかなり高くなっているが、まだ確定したわけではない。


 FRBは1年前の9月会合で、雇用市場の悪化を理由に0.5%の「大幅」利下げをした。しかし、これは早計だったと厳しく批判されている。早すぎた利下げがインフレ延命の原因の一つになったからだ。FRB内部にも利下げ慎重な意見を持つメンバーがいる。


 また、どのような理由にしても、利下げはトランプ大統領の命令に従ったとみられることは、中期的なドルに対する信頼をおとしめることになる。


レジスタンス:
151.21円    03/28
150.92円    08/01
148.09円    08/04
147.88円    08/06
147.71円    08/07


サポート:
146.69円    08/07
146.60円    08/05
145.85円    07/25
145.75円    07/10
144.22円    07/07


2025年 主要指標 終値

ドル/円続落147円台
出所:楽天証券作成

今日の為替ウォーキング Oh、Sherrie

今日の一言

人は過去の出来事に腹を立てるのではない。過去の出来事に囚われている自分に腹を立てているのだ


Oh、Sherrie

フォワードとバック、どっちにする?

 中央銀行の政策スタンスが、その国の経済の方向を探る上で非常に重要であることは言うまでもない。欧州中央銀行(ECB)は最近のレポートにおいて、利上げが、従来考えられていた以上に企業の長期投資に影響していると指摘している。


 FRBは現在、利下げを巡って二つ政策アプローチの間で揺れ動いている。


 伝統的にFRBは、金融政策を決定するにあたって、「フォワード・ルッキング(Forward Looking、先読み)」型アプローチをとってきた。

これは、過去の経済データを基に将来の経済状況を予測して、政策を事前に調整する方法である。例えば、インフレ率や失業率、経済成長率などが今後どう変化するかを予測し、それに基づいて金利の引き上げや引き下げを判断するのだ。


 そして、将来の政策方針を「フォワード・ガイダンス(Forward Guidance、政策ガイダンス)」という形で前もって発信することで、FRBは市場の期待を形成したり、経済に影響を与えたりするなど、柔軟かつ機動的な政策を行うことを可能にした。


 このアプローチは、中央銀行の先読みが正しいことが大前提になっている。中央銀行が経済の「予知能力」を持っているという神話は、新型コロナウイルス流行で経済の不確実性がこれまでになく高まる中でもろくも崩れ去ってしまった。


 新型コロナウイルス流行後に猛烈なインフレが米国を襲ったとき、FRBは、「インフレは一過性で終わる」というフォワード・ルッキングの過信によって、利上げを1年近くもためらい続けた。その間米国のインフレは暴走を続け、最終的にFRBは急峻かつ大幅な利上げという高い代償を払うはめになった。


ドル/円続落147円台
出所:楽天証券作成

 この政策ミスを反省したFRBは政策運営を「データ依存(Data Dependent)」型アプローチへ切り替えた。フォワード・ガイダンスという予言も廃止された。


 「データ依存(Data Dependent)」とは、経済が実際に悪化してから対応する方法で、「フォワード・ルッキング」が先回り的アプローチだとするならば、いわば事後的なアプローチといえる。「データ依存」型アプローチでは、利下げや利上げは、明確なデータがそろうまで見送られることが多い。中央銀行の主観が入り込む余地は狭まる半面、経済が悪化した後に対応することになるので、迅速性には欠ける。


 7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合では、6月雇用統計などのデータが堅調だったため、「データ依存」型アプローチによって、利下げは見送りの判断になった。しかし、7月雇用統計で明らかになった減速には対応が間に合わなかった。もし「フォワード・ルッキング」型アプローチを使っていれば、利下げを決断していたかもしれない。


 FOMCで「利下げ」か「据え置き」かで、参加者の見解が分かれた背景には、政治的雑音はともかくとして、「フォワード・ルッキング」と「データ依存型」のアプローチの違いが主な理由だと推察される。


(荒地 潤)

編集部おすすめ