先週のジャクソンホール会議でのパウエル議長による利下げ示唆によってドル/円は円高に動きましたが、方針転換の慎重姿勢を維持したことで円高も慎重な動きになっています。9月は歴史的に為替相場が大きく乱れる可能性があり、米雇用統計やCPI、そしてFRBとFOMCの動向に注意が必要です。


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ジャクソンホール会議後のドル/円動向。年内の利下げは実現するか

 注目されていたジャクソンホール会議でのパウエル議長の講演によって、ドル/円は148円台半ばから146円台半ばへ2円超の円高に動きました。


 講演前から利下げ期待が高まりドル売りが進んでいましたが、講演日が近づくにつれて期待した利下げ観測も慎重になったことからドル買い戻しが進み、円安に動きました。その動きもあって、講演直後は円高に弾みがついた感じです。


 円高をもたらした22日のパウエル議長の講演の要点は、


  • 雇用の下振れリスクが高まっているとの認識を示し、「政策スタンスの調整が必要となる場合がある」「政策スタンスの変更を検討する際には、慎重に進めることができる」と述べ、利下げの可能性を示唆しました。
  • 一方で、インフレは上振れリスクがあるとして警戒感も表明し、金融政策は既定のコースはないとして、「データのみに基づいて決定を下す」との姿勢は維持しました。

 週明けは利食いやポジション調整から円安に動いていますが、パウエル議長が利下げの可能性を示唆したものの、政策決定はデータに基づく慎重姿勢を維持したことから市場はドル安(円高)一方向に慎重になっているようです。


 しかし、利下げシナリオの選択肢が示されたことから、ドル/円の上値は重たくなることが予想されます。一方で9月利下げについて昨年のように明言しなかったため、9月発表の8月分米雇用統計(9/5)、米消費者物価指数(CPI:9/11)によっては市場の見方や期待が変わる可能性もあるため注意したいと思います。


 米雇用統計が低調でCPIが抑制的な数字であれば、9月利下げ期待は再び高まることが予想されますが、市場ではかなり織り込まれているため、相場は大きく動かないかもしれません。予想より悪い場合は、0.25%利下げではなく0.50%の大幅利下げへの期待が高まるかもしれません。


 また、年内の利下げ回数も9月、10月、12月と年内3回への期待が高まり、ドル安が進むかもしれません。


 先行きの米政策金利の織り込み度を示す米国シカゴ先物取引所(CME)のフェドウオッチ(FedWatch)によると、現時点の9月利下げ確率(4.0~4.25%)は87%となっており、かなり市場に織り込まれています。そして12月は3.50~3.75%の利下げ確率が43%となっていることから、9月、10月、12月での利下げ期待が高まっていることを示しています。


 市場では9月利下げは織り込まれているため、市場の焦点は大幅利下げがあるかどうか、12月まで年内3回の利下げを行うかどうかに移り、それに対する期待と思惑で相場が動きそうです。


9月は為替相場が大きく乱れる?FRB人事とFOMCの行方

 日本銀行の植田和男総裁もジャクソンホールで「賃金には上昇圧力がかかり続けると見込まれる」と発言しました。利上げへの直接的な表現はなかったのですが、市場の利上げ姿勢を失望させる内容ではありませんでした。


 8月に発表された日本の経済指標では、15日発表の日本の4-6月期国内総生産(GDP)実質年率速報値が+1.0%と予想(+0.4%)以上の伸びとなるポジティブサプライズだったことや、22日の日本の7月CPIは前年比+3.1%と前月より低下したもののコアも含めほぼ予想通りでした。


 これらの結果は、日銀の経済・物価の見通し(2025年度実質GDP0.6%、CPI2.7%)に沿っていることから市場の利上げ期待は維持されているようです。


 しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待によってドルの上値は重たくなることが予想されますが、日銀が年内利上げを示唆するような発言に踏み込まない限り、円高の動きは抑制的になるかもしれません。ドル/円のさらなる円高には日銀の利上げ期待が一層高まる必要がありそうです。


 ドルの上値を重くしている背景は、FRBへの利下げ期待がありますが、さらにその期待を高めているのがFRB理事の人事の動きです。


 クグラー理事(バイデン前大統領の指名で就任)は任期途中の8月に退任を表明し、後任はトランプ大統領に近いミラン米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長が指名される予定です。また、住宅ローンの不正疑惑を理由にクック理事(民主党支持者、FRB理事の中で最長任期。

2038年1月末まで)の解任通知が発表されました。クック理事は提訴するとのことです。


 これらの理事の人事の動きが利下げ推進につながるとの見方から、ドルの上値を重くしていますが、一方で政治圧力によってFRBの独立性が懸念されている点には留意する必要があります。


 パウエル議長の講演直後、株は上昇しましたが、クック理事の解任通知が出ると、株安、債券安(金利高)、ドル安の動きが見られた点には注目したいと思います。FRBの政治介入色が強まるにつれて、FRBの独立性が脅かされ、FRBの政策への信頼が低下し、本格的にドルの信認低下につながるのではないかと懸念されます。


 9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、理事の過半数がハト派(利下げ推進派)になっているかもしれませんが、一方で政治介入色の強まったFRB体制を市場が嫌気しているかもしれません。相場の動きも激しい動きになることも予想されるため注意する必要がありそうです。


 9月は、個人的には為替相場が大きく乱れる「通貨大乱の月」と呼び、為替の世界では最も警戒する月と位置付けています。毎年起こるわけではないのですが、起こると大きく相場が荒れることを歴史が示しています。


1985年9月22日:プラザ合意
1992年9月16日:ポンド危機
2001年9月11日:米国同時多発テロ
2008年9月15日:リーマン・ショック


 これらの出来事をハッサクは全てマーケットの渦中で経験しています。金融・為替相場が大きく荒れるだけでなく、経済もその後数年間大きく影響を受けています。今年の9月も何も起こらなければよいと願っていますが、気を引き締めて9月相場に臨みたいと思います。


(ハッサク)

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