日本株にとって重要な発表が三つ続きました。【1】4日、日米関税交渉の合意内容を記載した大統領令にトランプ大統領が署名。
トランプ大統領が日米関税合意に基づく大統領令に署名
先週(営業日9月1~5日)の日経平均株価は1週間で300円上昇して4万3,018円となりました。9月4日にトランプ大統領が日米関税交渉の合意内容に基づく大統領令に署名したことを好感して、9月5日の日経平均が前日比438円上昇しました。
日米関税合意に基づき2週間くらいで自動車関税の税率が27.5%から15%に低下する見通しとなったことを好感して、自動車株などが買われました。
<日経平均週足:2024年1月4日~2025年9月5日>

合意内容には、のちのちトラブルが起こりそうな内容が含まれています。対米5,500億ドル投資の進め方が、あまりに米国優位な点が懸念されます。この問題は後日、詳しくコメントします。
とりあえず、株式市場は日米合意が覚書および大統領令によって明確になったことを好感した形です。
<日米関税交渉合意、大統領令に記載された内容>

8月の米雇用統計も弱い
9月5日に発表された8月の米雇用統計で、非農業部門雇用者数が前月比2.2万人しか増えませんでした。8月に発表された7月の雇用統計が弱く、米雇用が冷え込んできているとの見方が広がっていましたが、8月も弱かったことで、米国の雇用悪化が決定的となりました。
これで9月16~17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げをするのはほぼ確実とみられるようになりました。
ただし、ここから利下げが加速するか見極める上では、米国のインフレ率が再び高騰しないか、見極める必要があります。
<日米総合インフレ率(CPI総合指数の前年比上昇率)推移:2020年1月~2025年7月>

それでは、先週発表になった8月の雇用統計を振り返ります。一番注目の高い、非農業部門の雇用者増加数(前月比)が弱かったことで、雇用悪化が決定的となりました。
<米雇用統計・非農業部門の雇用者増加数(前月比):2021年1月~2025年8月>

非農業部門の雇用者数が、前月比で20万人以上(赤いラインの上)伸びていれば米景気は好調と見なされます。2025年に入ってから前月比の伸びが20万人に届かない状況が続いています。8月は前月比わずか2.2万人の増加でした。6月(改定値)は前月比で1.3万人のマイナスでした。トランプ関税の影響で雇用が冷え込んできていることが明らかです。
雇用が弱くなってきていることが最初に分かったのは、先月8月1日です。この時、5月6月の改定値が大幅下方修正となった上に、7月の伸びが弱かったため、「雇用は弱い」という見方が一気に広がりました。
ご参考まで、8月1日の7月雇用統計発表前のデータ(5月6月は速報値)をご覧ください。
<参考:8月1日の7月雇用統計が出る前の6月までの速報値を示したグラフ:米国の非農業部門の雇用者増加数(前月比)>

速報値では5月も6月も雇用者が前月比で14万人以上増加しており、20万人には届かなくても、「意外としっかりしている」と見られていました。
ところが、8月1日発表の7月の雇用統計で、5月6月が大幅下方修正され7月も弱かったことがネガティブ・サプライズとなりました。この統計を所管していた当時の労働統計局長、マッケンターファー氏をトランプ大統領が怒って解雇するという騒ぎまで起きました。統計が政治的意図をもって操作されたとトランプ大統領は主張していました。
ところが、9月5日発表の8月雇用統計も弱かったことで、統計が操作されたわけではなく、雇用が弱くなっていることが決定的となりました。
8月の完全失業率は0.1ポイント上昇して4.3%となりました。雇用の伸びが低い割に、失業率の上昇が遅いのは、移民の取り締まり強化で、移民による労働力増加が縮小しているためとみられています。
<米雇用統計・完全失業率:2021年1月~2025年8月>

石破首相辞任の影響
石破茂首相が正式に辞任を表明したことにより、石破政権が9~10月に終了することが確定しました。後任の首相が誰に決まるか全く分かりません。
支持率の低い首相が退任を表明する時、通常は新しい首相への期待で株式市場は盛り上がります。ただし、今回は難しい情勢です。首相が代わっても、内外の重要課題が山積している中、少数与党となっている自民党がどれだけ強いリーダーシップを発揮できるか、分かりません。新総裁へすんなり期待する流れは出にくいかもしれません。
1年前後で首相交代が続く時代は、政治が強いリーダーシップを発揮できません。そうなると、株式市場にもネガティブな政権となることが多いと言えます。
<歴代内閣と在任期間:2001年以降>

石破政権以降も短命政権が続くのか、あるいは強いリーダーシップを発揮する長期政権が生まれるのか、これから始まる新首相の決定プロセスと施政方針に注目が集まります。
日本株の投資判断
日本株の投資判断ですが、これまでにも述べてきたことと変わりません。日本株は割安で長期的な上昇余地が大きいと判断しています。
ただし、目先は不透明材料が多く、上値が重くなる可能性もあります。
【1】 日米関税合意はトラブルなく進むか? 対米投資で問題起こらないか?
【2】 米景気はハードランディングではなく、ソフトランディング可能か?
【3】 ポスト石破政権は強いリーダーシップを発揮できるか?
さまざまな不透明要因がある中、日経平均は、これからも急落・急騰を繰り返しながら、上昇していくと考えています。時間分散しながら、割安な日本株を買い増ししていくことが、長期的な資産形成に寄与すると考えています。
最後にお知らせです。朝8時に掲載される「3分でわかる!今日の投資戦略」の土曜日版が始まりました。土曜日は、私(窪田真之)が執筆しています。土曜日版もぜひお読みいただけるとうれしいです。
朝8時にトウシルにリリースされるレポートを、私は、土曜日・日曜日・月曜日・火曜日に執筆しています。よろしくお願いいたします。
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(窪田 真之)