今回は、投資家注目の「PBR1倍割れ銘柄」に焦点を当てます。なぜ、PBR1倍割れ銘柄が今熱いのか? その背景を理解しつつ、あなたの投資眼を養うためのクイズに挑戦してみましょう。
今日のクイズ
今日は、株価純資産倍率(PBR:ピー・ビー・アール)が1倍を割れている銘柄(9月22日時点)を当てるクイズを5問出します。
【第1問】
以下2銘柄のPBRは、0.76倍と5.5倍です。PBR1倍割れ(0.76倍)はどちらでしょう?
【A】 任天堂(7974) :世界的ゲーム大手。「Nintendo Switch 2」販売好調。ソフト開発力に強み。
【B】 マルハニチロ(1333) :水産業最大手、漁業・養殖業、冷凍・加工食品を展開。
【第2問】
以下2銘柄のPBRは、0.54倍と19.8倍です。PBR1倍割れ(0.54倍)はどちらでしょう?
【C】 ホンダ(本田技研工業:7267) :自動車大手。北米でハイブリッド車が好調。二輪車では世界トップ。
【D】 アドバンテスト(6857) :半導体テスター大手。エヌビディア半導体向けテスターが好調。
【第3問】
以下2銘柄のPBRは、0.81倍と6.8倍です。
【E】 ファーストリテイリング(9983) :カジュアル衣料品店「ユニクロ」など世界展開。
【F】 日本郵船(9101) :海運業で世界大手。陸上輸送・航空サービスも展開。
【第4問】
以下2銘柄のPBRは、0.73倍と4.3倍です。PBR1倍割れ(0.73倍)はどちらでしょう?
【G】 王子ホールディングス(3861) :製紙業大手。国内約19万ヘクタール(ha)、海外約45万haの森林を保有し育成。
【H】 キーエンス(6861) :工場自動化(FA)システム・機器を世界展開。センサー活用。
【第5問】
以下2銘柄のPBRは、0.65倍と14.2倍です。PBR1倍割れ(0.65倍)はどちらでしょう?
【I】 INPEX(1605) :日本最大の原油ガス開発・生産企業。
【J】 ZOZO(3092) :衣料品通販サイト大手。「ZOZOTOWN」運営。
PBR1倍とは
ここからはPBRについて説明したいところですが、その前に、企業のバランスシート(資産残高を左側に、負債と資本の残高を右側に記載したシート)の基本についておさらいしましょう。
バランスシート(貸借対照表)

バランスシートを見ると、企業が事業に使う資産を得るための資金をどう調達したのかが分かります。上の例では、資産100億円を、負債(借金など)60億円+資本(株主の出資金など)40億円で調達したことが分かります。
この会社は、自己資本比率(資本÷総資産)が40%です。
それでは、続けて「PBR1倍」の意味を簡単な例で説明します。1億円出資して企業を設立、1億円借金し、合わせて2億円の資産を持つ企業を考えてください。その企業がいきなり株式市場に上場したとして、株式時価総額はいくらになるでしょう。まだ何もしていない会社ですから、通常は1億円です。これがPBR1倍の状態です。

純資産1億円でも、将来、利益をどんどん稼ぐという期待が高ければ、株式時価総額は3億円になることもあります。この状態が、PBR3倍です。反対に、赤字が続いて資本を食いつぶしていくと考えられれば、株式時価総額は5,000万円となることもあり得ます。その状態が、PBR0.5倍です。
なぜ今、PBR1倍割れが注目されるのか?
東京証券取引所の上場企業では、「PBR1倍割れ」銘柄が半数近くを占めています。財務内容が悪く、収益力に問題があってPBR1倍を割れている銘柄ばかりではありません。日本には、財務内容が良好で収益力も安定しているにもかかわらず、PBR1倍を割れている企業がたくさんあります。
自社株買いを増やして自己資本利益率(ROE)を高めるといった株価を上げる努力が足りないことが原因と考えられます。
これに対して、東京証券取引所は、PBRが1倍割れの企業に対して、「株主価値改善策の開示と実施」を要請しました。これを受けて、PBR1倍割れなどの割安株において、自社株買いを増やすなどの動きが出ています。
また近年、株価が安い企業に対して、「合意なき買収」を仕掛ける動きが増えてきたことも、企業経営者に株価を引き上げるインセンティブを高めています。
そうした背景もあり、日本株市場ではPBR1倍割れ銘柄の上昇が目立つようになっています。
正解
【第1問】PBR1倍割れは【B】マルハニチロ

マルハニチロは日本の水産業最大手です。水産業はかつて衰退していくイメージを持たれていたことから、株式市場で株価は低く評価される傾向があります。ただし、マルハニチロは、従来の水産業者とは異なります。成長が見込まれる養殖業に取り組むことに加え、冷凍・加工食品でも安定収益を稼ぎます。
前期(2025年3月期)は、営業利益と純利益が過去最高となりました。
任天堂は、ゲームでソニーグループとともに世界の双璧です。今期発売したNintendo Switch 2が好調です。成長株とみなされていることから、株価収益率(PER:ピーイーアール)・PBRなどで見た株価バリュエーションは高くなっています。
【第2問】PBR1倍割れは【C】ホンダ

ホンダは、トランプ関税で今期営業利益に7,500億円のマイナス影響があると予想しています。それに加え、長期的に世界でガソリン車からEV(電気自動車)へのシフトが進むと考えられていることから、ガソリン車が主体のトヨタ・ホンダなど日本の自動車大手は、株式市場で低く評価されています。
それにしてもPBR0.54倍は売られ過ぎと判断しています。ホンダは米国での現地生産比率が7割で、トランプ関税にも長期的に対応していけると考えています。
アドバンテストは、エヌビディアのAI半導体向けのテスターで高いシェアを持ち、エヌビディア・AI関連株として株価が高騰しています。成長株と見なされているため、PBRなどの株価指標で見てやや割高に評価されています。
【第3問】PBR1倍割れは【F】日本郵船

海運業は、好況と不況の波の大きい産業として知られてきました。日本郵船など日本の海運大手は、好況時は大きな利益を稼ぐものの、海運不況になると巨額の赤字を出す傾向がありました。
ただし、私は、海運業は世界的に再編が進み今後は海運不況でもかつてほど厳しい業績にはならないと予想しています。国際物流を担うコンテナ船需要はこれからも拡大が続くと予想しています。また、近い将来、液化天然ガス(LNG)の利用が世界的に急増し、その輸送需要(LNGタンカー)も成長すると見ています。
日本郵船は、今後は財務的にも収益的にも安定的に推移すると予想しています。その割に株価が低いので、私は「買い」と判断しています。
ファーストリテイリングは、日本発のアパレル大手として、国際的に高い競争力を有します。これからも、安定的に最高益を更新していくと予想しています。ただし、成長株として株式市場で高く評価されているので、株価はPER・PBRなどでやや割高な評価となっています。
【第4問】PBR1倍割れは【G】王子HD

日本国内の紙消費はピークから半減しました。厳しい環境が続いたことから、日本の製紙産業各社は、株式市場でPER・PBRで低い評価となる傾向があります。
ただし、王子HDは近年、構造改革により収益回復が進んでいます。
その後、減益となっていますが、将来的に最高益を更新していく力があると見ています。私の投資判断は「買い」です。国内で約19万ha、海外約45万haの森林を保有し育成していることも高く評価しています。
キーエンスは、センサーを活用したFAシステム開発で成長を続けてきました。世界中のあらゆる産業の生産現場の省力化・高品質化に寄与するオーダーメードの提案では世界でトップクラスの実力を有します。成長株として評価されているので、PER・PBRで高い株価となっています。
【第5問】PBR1倍割れは【I】INPEX

INPEXは、日本最大の原油ガス開発・生産企業です。中東・アジア・オセアニアなどで開発した資源権益を保有します。利益への貢献が大きいのがオーストラリアの海底ガス田(イクシス)です。LNGに転換して日本に販売しています。今後、インドネシアの海底ガス田(アバディ)の生産に向けた投資が増えますが、将来的にアバディも有望なガス田です。
化石燃料ビジネスがメインでESG投資から忌避されることから、株価はPER・PBRなどで低く評価される傾向があります。ただし、LNGを中心に、売上利益の成長が見込まれることから、株価はいずれ見直されて上昇すると予想しています。私のINPEXに対する投資判断は「買い」です。
ZOZOは、衣料品の通販サイト「ZOZOTOWN」を運営して成長してきました。試着などが必要で通販は難しいと言われてきた衣料品を、普通に通販で販売できるように販売サイトを設計してきたことから、利益を大きく成長させてきました。今後は徐々に競争が激しくなると想定されます。これまで高成長株だったことから、PER・PBRなどで高く評価されています。
テクニカル・ファンダメンタルズ分析を詳しく勉強したい方へ
最後に、株式投資を書籍でしっかり勉強したい方に、私の著書を紹介します。ダイヤモンド社より、株価チャートの読み方をトレーニングする「株トレ」(黄色の本)と、決算書の見方などを学ぶ「株トレ ファンダメンタルズ編」(水色の本)が出版されています。どちらも一問一答形式で株式投資の基礎を学ぶ内容です。
「 2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ 」
「 2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ ファンダメンタルズ編 」

(窪田 真之)