iDeCoの口座を開設したら、次は運用商品の選択になります。iDeCoは、元本確保型商品を含め、最大35本の選択肢から選びます。
iDeCoの運用商品の基本:選択肢は35本以内、元本確保型商品も選べる
iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の大きな特徴は、口座開設が完了すると必ず積み立てが始まる点です。NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)のように「とりあえず口座開設だけしておく」ということができず、iDeCoはあらかじめ指定した掛金額の引き落としが自動的にスタートします。
積み立て投資が始まるということは、当然どこかに投資をする必要があります。今回は、運用商品選びのポイントを紹介したいと思います。
まず、基本的なルールです。運用商品は何本選んでも構いませんし、1本に集中することも可能です。また、毎月の掛金についての指定割合と、全財産の残高における運用割合は異なっていても問題ありません(時価評価されるので、当然割合は同じにならない)。
運用商品のラインアップは金融機関によって異なります。商品本数の上限は35本とされており、この範囲で各社が工夫を凝らして商品ラインアップを構成しています(後述のターゲットデートファンドは、複数年のゴールが設定されていても同一の運用方針であれば1本とカウントする)。
また、定期預金や生命保険・損害保険商品などの、満期になると元本と利回りが返ってくる「元本確保型商品」があるのは、NISAにはないiDeCoの特徴です。現在、元本確保型商品の採用義務(かつては法律上の義務だった)はないものの、ほとんどのiDeCoにおいて元本確保型商品が採用されています。
掛金の税制優遇は欲しいが、運用のリスクは取りたくないという人、あるいはiDeCo内でリスクを抑えたい場合などに、元本確保型商品の活用が考えられます。
伝統的iDeCo商品選び:四つのアセットクラスを意識した組み合わせ
次に、運用商品選びです。基本的には分散投資を意識し、複数の運用商品を組み合わせていきます。伝統的には、「国内株」「外国株」「国内債券」「外国債券」の4種類の投資信託を組み合わせることが基本とされています。
公的年金の運用も、伝統的な4資産の組み合わせをベースにしています。しかも、国内株、国内債券、外国株、外国債券をそれぞれ25%ずつ持つというシンプルなポートフォリオですから、参考にしやすいでしょう。
このシンプルな割合は、検討に検討を重ねた結果であり、適当な割合ではありません。期待リターンが5.4%(成長型経済移行・継続のモデル。名目賃金上昇率を+1.9%上回る)、リスク(標準偏差)が10.34%となっています。
また、4資産の組み合わせ比率の最適化(アセット・アロケーション)を運用会社が行ってくれる「バランス型ファンド」も、iDeCoの伝統的な商品の一つです。
例えば、「国内株25%、外国株45%、国内債券15%、外国債券15%」のような基本構成割合を示したバランス型ファンドを購入すれば、提示されたブレンド比率で四つのアセットクラスに1本の投資信託で投資ができます。
その後、株価の変動などがあっても、その投資割合は投資信託側で維持してくれます。株価が値下がりした場合は買い増し、値上がりした場合は部分的な利益確定をする、といった作業はお任せできます。
一般的には、バランス型ファンドは資産構成割合が異なる3種類を用意します。「株式投資比率25%、50%、75%」あるいは「安定運用型、中間型、積極運用型」といった形で、商品名でリスクの違いを分かるようにしています。
バランス型ファンドを選ぶ場合は、株式投資割合が高い方を選ぶことをおすすめします。株式投資比率が25%程度(安定運用型のような名称)は、株価変動の影響が小さいため、ご自身の投資意向と値動きがマッチしない可能性があります。
ただし、古いタイプのバランス型ファンドについては、運用管理費用(信託報酬)が割高ということがあります。そのため、10年以上前から設定に変化がないiDeCoプランの場合は注意が必要です。
現代的iDeCo商品選び:三つのアプローチの活用
近年、分散投資のアプローチが変わってきています。ここでは、三つの現代的なiDeCoの商品選びについて考えてみます。
1.新しいアセットクラスへの対応
伝統的な4資産(国内株、外国株、国内債券、外国債券)「以外」の投資対象が、iDeCoの選択肢に加わっています。もしあなたが「不動産投資」あるいは「新興国株・新興国債券」などに興味があるなら、これらを分散投資に組み入れることを検討できます。
これに対応したバランス型ファンドもあります。例えば8資産型のファンドは、新興国株、新興国債券、国内不動産、外国不動産を投資対象に加えていますので、分散投資の幅は広がります。
ただし、多くの8資産型のファンドは12.5%ずつの均等割なので、「日本や米国の株には思ったより投資されていない」「株式投資比率と不動産投資比率が同じ」というようなイメージギャップが生じることがあります。必要に応じて、他の投資信託と組み合わせて調節すると良いでしょう。
2.オールカントリー系ファンドの活用
もう一つのトレンドは「オールカントリー系」投資信託の人気です。これも近年の分散投資アプローチとしては見逃せません。
今までは「日本株」と「外国株(先進国のみ)」の投資信託を二つ購入することで全世界の株式に投資するアプローチが一般的でした。しかし、オールカントリー系の投資信託は、これを1本で可能にしました。ウエートは低いながらも新興国株も含まれます。
全世界の株式時価総額を国別のシェアで配分する格好なので、日本への投資割合は思ったより少なくなること(おおむね10%くらい)をどう判断するかは検討課題です。もし、もう少し投資を増やしたい場合は、別途日本株ファンドで買い増すか、NISAで個別株投資などをして全体で調整する方法があります。
また、世界中に分散しているとはいえ、米国に6割が集中するという偏りもあります。もちろん、それを許容するという判断もありますし、調整する方法もあります。
3.ターゲットデートファンドの活用
そのほか、ターゲットデート(ターゲットイヤー)型の投資信託も、新しい運用の選択肢です。
こちらは指定したゴール年度(2040年、2050年)に向けて、資産配分(アセット・アロケーション)を変化させていく投資信託です。若い時期はリスクを取り、老齢期にはリスクを抑えるようなポートフォリオの見直しを自動化させるものです。
本来なら、年に1度は運用状況を確認し、5年に1度くらいは運用割合の方針そのものを見直すべきですが、個人投資家にとってそうした微修正は容易ではありません。ターゲットデートファンドは、そうした手間を軽減できるメリットがあります。
米国の401(k)プランでは1人当たりの平均残高が10万ドル超ともいわれますが、多くの加入者はターゲットデートファンドを活用しています。自分で定期的に運用方針の修正を行う必要がないためです。日本でも採用例が増えており(採用していないiDeCoプランも多い)、検討の妙味が高まっています。
まずは「数本」か「4本以上」か方針を決めよう
iDeCoの商品選びの基本はこんなところですが、「1~2本に絞る」か「4本以上保有するか」を自分なりにイメージしてから、具体的な商品選びを決定していくと良いでしょう。
1~2本に絞る場合:
- オールカントリー系ファンドに全額集中投資する
- バランス型ファンドやターゲットデートファンドを全額購入する
- 投資信託1本と、元本確保型商品1本の組み合わせでリスクをコントロールする
上記のようなイメージがあれば、商品選びは比較的簡単に行えます。
「全てのアセットクラスごとに1本投資信託を選び、構成割合を最適なものとする」のは理想的です。しかし、この場合は少なくとも4本以上の投資信託を保有し、その割合決定に合理性を担保していく必要があります。実はこの比率決定は簡単ではありません。
運営管理機関によっては、資産配分シミュレーター(商品選択と保有割合のサジェスト機能)を用意していることがあるので、参考として使ってみると良いでしょう。ただし、最後の決断は自身が行った、ということはお忘れなく。
「iDeCo以外」も意識してみよう。方針はできるだけシンプルに
商品選びにおいては「iDeCo以外」も意識してみると良いでしょう。例えば、手元でも定期預金の積み立てをしていたり、NISAをやっている人は、iDeCoを含めた全財産で資産配分を考えることが効率的です。
期待リターンの高い商品ほど、運用収益が非課税となる口座で保有するべきです。そのため、iDeCoで元本確保型商品を買うくらいなら、投資信託の比率を厚めにして、手元で定期預金をしたほうが良いでしょう。
例えば年利0.2%の定期預金が全額非課税であるよりは、年4%以上を期待リターンと考える投資信託をiDeCo内で保有し、非課税で投資したほうが明らかにお得です。4.0%の収益を利益確定し、実質3.2%になるのはおもしろくありません(本則では復興特別所得税を加えて20.315%が運用収益に課税)。これはNISA口座活用の重要性にも通じます。
全体として定期預金も保有し、バランスを取りたい場合は、手元で定期預金を組み、iDeCoは全額投資信託にする、といった調整を考えてみると良いでしょう。
資産全体でポートフォリオを意識し、リスク資産や安全資産の置き所(ロケーション)を最適化することを、資産配分の最適化(アセット・アロケーション)をもじって「アセット・ロケーション」と呼ぶこともあります。興味がある人は最適化の工夫に税制優遇口座を生かしてみてください。
(山崎 俊輔)