高騰が続く都市部の不動産市況は上場企業の不動産「含み益」を歴史的水準に押し上げています。ところが、巨額の含み益がある不動産・電鉄などの企業群には、株価が買収価値と比べて割安な銘柄が多数あります。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田 真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 不動産ブーム再来?安田倉庫・住友不動産・・・実質PBR0.8倍以下の最高益「含み資産株」12銘柄 」
不動産価格上昇、上場企業の含み益の増大続く
アベノミクスが始まった2013年以降、景気回復と異次元金融緩和の効果で、不動産需給が引き締まり、コロナショック前の2019年まで不動産ブームが続きました。
2020年にコロナショックが起こり、在宅勤務が広く普及すると、都市部のオフィス需給は軟化し、一時不動産不況の様相を呈しました。ところが、2023年以降、コロナからの経済再開が進むと、不動産市況は持ち直し、活況を呈しています。
都市部のタワーマンションは高人気で、東京23区の新築マンション販売価格は2024年12月時点で、平均1億822万円と、1億円を超えています。
そうしたブームを反映して、上場企業が所有する賃貸不動産の含み益【注】は拡大し続けています。
【注】含み益
時価と取得原価の差額。100億円で買った不動産が120億円まで値上がりしたとき、帳簿上100億円で計上している不動産に、20億円の含み益が存在することになる。
<賃貸不動産の含み益上位4社の含み益推移:2013年3月期末~2025年3月期末>
このように上場不動産株の含み益は年々拡大し続けていますが、不動産株は2013年に高値をつけて以降、2022年まで上値が重いままでした。
<日経平均株価と東証不動産株価指数の動き比較:2013年1月~2025年9月>
不動産業は市況産業です。
1973年は列島改造論のブームの中で不動産市況が高騰しましたが、オイルショックが起こると崩落しました。1990年の不動産バブルはその後1990年代に崩壊しました。2007年の不動産ミニバブルは2008年のリーマンショックで崩壊しました。
このように、不動産市況が大きく変動することから、投資家は学習効果で、ブームでも不動産株への投資には慎重になる傾向があります。
ただし、2023年から不動産株の上昇ピッチが高まっています。都心部の不動産市況の上昇が加速し、保有不動産の含み益の拡大によって、買収価値(含み益を考慮した純資産価値)と比較して極めて低い評価の銘柄が増えていることから、見直し買いが出ています。
2024年に日本の金利上昇を嫌気して不動産株はいったん下がりましたが、2025年に入ってから、好調な不動産市況と割安な株価を評価して、不動産株の上昇が加速しています。海外のアクティビストファンド(経営に対して意見を言う投資ファンド)が増えて、不動産の含み益活用提案を出すようになったことも、株価上昇に寄与しています。
解散価値といわれるPBR1倍を大きく割り込む銘柄が増えている
不動産セクターには、業績が堅調で、巨額の含み益を有しているにもかかわらず、株価が上がらないため、株価が、解散価値といわれる株価純資産倍率(PBR)1倍を割れる銘柄が多数あります。
賃貸不動産に大きな含み益があるのは、不動産会社ばかりではありません。電鉄・倉庫など、さまざまな業種に「含み資産株」があります。
直近の決算期末で、賃貸不動産の含み益が2,000億円を超えている27社は以下の通りです。
<賃貸不動産に含み益2,000億円以上を有する27社>
このような含み資産株には、今期、純利益で最高益が見込まれるのに、含み益を考慮した実質PBRが0.8倍を割れる銘柄もあります。以下12銘柄です。
<実質PBRが0.8倍以下、今期純利益で最高益を見込む12銘柄:実質PBRが低い順に配置>
このように株価が割安で、業績好調の銘柄を買っていって良いと、私は考えています。
<参考1>実質PBRとは
実質PBRを説明する前に、まず、PBRを説明します。PBRとは、株価が、純資産(自己資本)と比較して、どの程度、割安であるかを測る指標です。
まず、PBRを説明する以下の図をご覧ください。1億円出資し、1億円借金し、合わせて2億円の資産を持って、ビジネスを始める企業を例にとって説明しています。その企業のバランスシートのイメージ図を示しています。
設立直後ですが、いきなり株式市場に上場できるとします。さて、株式時価総額はいくらになるでしょうか。普通に考えると、1億円になります。まだ何もしていない企業ですから、株式時価総額は、純資産価値と同額の1億円となると、考えられます。
この状態をPBR1倍といいます。株式時価総額÷純資産=1で計算します。次に、PBR1.4
倍、PBR0.8倍の意味を説明します。
純資産1億円でも、将来、利益をどんどん稼ぐ期待が高ければ、株式時価総額は1.4億円になることもあります。この状態が、PBR1.4倍です。一方、将来、赤字が続くと考えられる株は、株式時価総額は1億円を割り込み、8,000万円となることもあり得ます。その状態が、PBR0.8倍です。
さて、次に、実質PBRを説明します。純資産に、保有する含み益の7割を加えたものを、実質純資産と呼びます。含み益の7割を加えた実質純資産を、純資産とみなして計算したPBRが、実質PBRです。
三菱地所を例にとって説明しましょう。三菱地所には、2025年3月末時点で、5兆456億円の含み益が存在します。
もし賃貸不動産を全て時価で売却すると、5兆456億円の売却益が得られますが、売却益には税金がかかります。税率を30%と仮定すると、税引き後で、含み益の70%に当たる3兆5,319億円が残り、自己資本に加えられます。実質PBRは、自己資本に含み益の70%を加えて計算したPBRです。
<参考2>なぜ、2006年以降、ハゲタカファンドは日本から撤退したか
2005年ごろ、割安な含み資産株をハゲタカファンド(買収ファンド)が買い占めて大暴れしたことがあります。巨額の含み益を有するにもかかわらず利益水準が低く、PBRが実質1倍を大きく割れ、株価が安くなっている企業がターゲットとなりました。一定量の株を買い集めた上で、企業に「含み益のある資産を売却して配当金を大幅に増やすこと」などを強く要求しました。
ただし、短期的な利益を狙って株主権を乱用するハゲタカファンドには社会的批判が集まりました。敵対的買収への嫌悪感が広がり、2006~2007年には上場企業に買収防衛策の導入ブームが起こりました。そこで、ハゲタカファンドは去り、敵対的買収ブームは鎮静化しました。
今、株主権を盾に企業に株主還元を強要するハゲタカファンドは少なくなりました。企業と対話しながら、企業価値を高めていくことを目指すファンドが増えています。ハゲタカファンドが去ったことを受けて、買収防衛策を解除する企業が増えました。
ただし、最近「同意なき買収」が復活しつつあります。東京証券取引所(東証)がPBR1倍割れ銘柄に株主価値の改善策の開示と実施を求めていることもあり、低PBR株に注目が集まりつつあります。
最後に、決算書の読み方、株式投資のファンダメンタルズ分析を学びたい方に、以下、私の著書をご紹介します。
「 2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ ファンダメンタルズ編 」
(窪田 真之)

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