26年続いた自民党と公明党の関係がついに終焉(しゅうえん)を迎えました。この結論によって、憲政史上初となる女性総理大臣誕生のシナリオが不透明となっています。
公明党が連立離脱、米中貿易摩擦が再燃
「高市トレード」で沸いていた株式市場が揺れています。「なんだかんだ言って別れられることはない」と楽観視されていた自由民主党(自民党)と公明党の蜜月関係、いわゆる「99年体制」が終わりを迎えました。
タイミングが悪いことに、トランプ米大統領が中国からの輸入品に対する100%の追加関税を表明したことから、米中貿易摩擦も再燃。内外から出た不透明要因によって、楽観ムードで「イケイケどんどん」だった投資家心理は一気に冷え込みました。
トランプ大統領に関しては、「TACO(最後、トランプはビビッてやめる)トレード」の一環とみられることから影響は一時的と考えますが、「高市政権」誕生に対する不透明感が強まったことから、10月21日以降に控える臨時国会での首相指名選挙まで、日経平均株価の上値は重くなるでしょう。
株価、為替、金利はどう動く?首相指名選挙、シナリオ別予想
首相指名選挙で考えられるシナリオは下記の4パターンと考えます。
(1)自民党単独政権
(2)自民党+国民民主党(国民民主)による連立政権
(3)自民党+日本維新の会(日本維新)による連立政権
(4)立憲民主党(立憲民主)と国民民主と日本維新の連立政権
各党が掲げる政策を基本に、それぞれの政権が株式市場や為替市場、金利市場(債券市場)に対してどう影響するか整理してみます。
政権予想と株式・為替市場への影響
予想シナリオ 株式市場 為替 市場の警戒度 (1)自民単独政権 内需、半導体・AI関連に買い 円高 小 (2)自民+国民民主による
連立政権 内需、半導体・AI、消費関連に買い 円高 ↓ (3)自民+日本維新による
連立政権 内需、半導体・AI、「大阪都構想」関連に買い 円高/円安
不透明 ↓ (4)立憲民主+国民民主+日本維新の連立政権 内需、小売り、食品、介護、医療、福祉関連に買い
IT、ハイテク、防衛、インフラ関連に売り 円高/円安
不透明 大
(1)自民党単独政権
与党単独であれば、これまでの自民党と公明党の連立政権時よりも、法案通過や予算編成がスムーズで、成長戦略や産業投資(半導体やAIなどに関連するインフラ)を速やかに実行しやすくなる可能性があります。
一方、高市早苗氏が掲げる積極財政によって景気対策や減税を積み重ねると財政赤字拡大懸念が強まり、長期金利上昇圧力につながる可能性はあります。
また、国債発行が増加することで、将来的な増税や歳出削減圧力を招く恐れもあります。そして、既得権を温存することによって、大枠では安定する半面、抜本改革(税制・社会保障の構造改革)が遅れ、成長・競争力の改善が限定的となる懸念もあります。
市場への影響
株式市場では、政策が成長・投資を強調すれば、設備投資・内需関連、半導体・AI関連などのセクターにプラスとなるでしょう。ただし「財政悪化懸念」が強まる場面では金融株は物色の対象外となる可能性があります。
為替市場では積極財政に伴う財政悪化懸念が意識されて、長期金利は上昇(債券価格は下落)。各国との金利差が縮小することによって円高が進むと考えます。
(2)自民+国民民主による連立政権
手取り増加を重視する国民民主の方針が加わることによって、消費回復期待が強まりやすくなるでしょう。自民党が掲げる成長投資による企業収益の拡大が見込めれば、景気敏感株にはプラスと考えます。
一方、家計還元を優先することで短期的には財政支出が拡大することから、(1)同様、財政赤字拡大懸念は強まると考えます。また、連立政権となることで、(1)よりは、両党の妥協によって構造改革が鈍化し政策が中途半端となるリスクもあります。
市場への影響
株式市場では(1)の展開に「内需・消費関連」も加わったセクターが物色されるでしょう。為替市場、金利市場に関しては、(1)と同様の展開を想定します。
(3)自民党+日本維新による連立政権
日本維新の強い規制緩和・税制改革志向が加わることで、成長戦略や生産性向上に向けた政策の積極化が想定されます。改革への期待感が高まることで、海外投資家を中心とした機関投資家の関心が高まる可能性もあります。
予想シナリオ 銘柄名 証券コード 株価(円)
(10月15日 終値) 特色 (1)自民単独政権 日本製鋼所 5631 9,630 防衛に原子力も展開する自民党関連銘柄 (1)自民単独政権 アストロスケールHD 186A 870 宇宙ゴミの除去を展開する自民党関連銘柄 (2)自民+国民民主による連立政権 栗本鉄工所 5602 1,833 上下水道の整備を展開する国民民主関連銘柄 (3)自民+日本維新による連立政権 櫻島埠頭 9353 1,916 大阪港で港湾事業を展開する日本維新関連銘柄 (4)立憲民主+国民民主+日本維新の連立政権 都築電気 8157 3,065 介護施設向けサービスを展開する立憲民主関連銘柄
一方、大胆な改革ほど社会の反発があり、国会での議論で混乱が生じ政治的な摩擦が強まる局面があるでしょう。また、連立政権となることで、(2)同様、両党の妥協によって規制緩和・税制改革が鈍化し政策が中途半端となるリスクもあります。
また、日本維新は、減税と支出効率化を駆使して、財政の持続可能性を維持しつつ経済成長を追求するという姿勢を示しており自民党とは異なるスタンスです。こうした面も政治的な摩擦が強まる要因として挙げられます。
市場への影響
株式市場では、(1)の成長分野は同じですが、規制緩和への期待感も加わることで幅広いセクターへの物色が向かいそうです。また、日本維新は、大阪を東京と並ぶ経済中心と位置づけ、災害時には首都中枢機能を代替できるようにする「副首都構想」を掲げていることから、大阪に関連した銘柄も期待感が先行しそうです。
為替市場および金利市場は、日本維新の政策が強まれば財政健全化を材料視した金利の低下(国債価格の上昇)となりそうですが、ほかのシナリオと比較しますと財政政策の違いが大きいですので、非常に想定しにくいとと考えます。
(4)立憲民主+国民民主+日本維新(野党連立政権)
数で勝る立憲民主党がキャスティングボードを握るのであれば、低所得層支援や生活保護、子育て支援など国民生活を重視した政策が想定されます。消費税引き下げなども実施される公算が大きいですので、内需下支えが期待され、個人消費の安定に寄与する可能性はあります。
一方、国民への分配重視により歳出拡大を招き、財政悪化懸念が強まる可能性はあります。また、成長投資を優先する改革が後回しになることで、設備投資や構造改革、企業税制改革の投資が手控えられる可能性はあります。
市場への影響
株式市場では、内需・生活関連(小売、食料品、介護、医療・福祉)は追い風となるかもしれませんが、時価総額が大きい主力の成長投資関連(IT、ハイテク、防衛関連、インフラなど)は失望売りが強まるでしょう。
また、財政拡大懸念が強まれば金利市場は上昇(国債価格は下落)となり円も売られやすくなりそうですが、主力株下落に伴う円高進行も懸念されます。方向感のつかみにくい状況は、(4)が最も強まると考えます。
当然ながら、どの政権でも日本銀行がどのような金融政策を示すかによりますが、「高市トレード」の概念と距離が近いのは、(1)、(2)、(3)、(4)と順番通りです。つまり市場が最も警戒するのは(4)のシナリオでしょう。
(4)になった場合は政権交代ですので、そもそもの政策を見極める必要があります。機関投資家は日本株のポジションを一度ニュートラルにして、様子見姿勢を強めると考えます。
首相選挙シナリオ別:注目銘柄5選
こうした状況下、各シナリオでの注目銘柄をご紹介します。10月14日時点で最も可能性が高い(1)のケースだけ2銘柄として、(2)、(3)、(4)は1銘柄ずつご紹介したいと思います。
(1) 日本製鋼所<5631>
火力や原子力向け鋳鍛鋼の世界大手で防衛関連銘柄の一角として注目します。陸上自衛隊の運用する19式装輪自走りゅう弾砲、海上自衛隊の護衛艦に搭載される62口径5インチ砲のほか、ミサイル発射装置などの防衛機器を製造しています。
また、防衛関連事業のほか、原子力発電所用の圧力容器部品などの鍛鋼部材を製造していることから原子力発電関連としても知名度は高いです。自民党(高市氏)関連銘柄の代表的な銘柄といえます。
(1) アストロスケールHD<186A>
宇宙ごみ(スペースデブリ)の除去や衛星運用支援を展開しています。人工衛星の打ち上げ増加に伴うデブリ問題は深刻化しており、同社はこの「宇宙の持続可能性」に特化したビジネスモデルを確立しています。高市氏が宇宙事業に積極的な姿勢を示していることから、同社も「高市トレード」の思惑で買われました。時価総額が小さい中小型株の高市関連銘柄として注目します。
(2) 栗本鉄工所<5602>
国民民主が生活インフラの整備に注力することを示していますので、国民民主関連銘柄の一つとして注目します。同社は上水道用の鉄管や液体を制御する各種バルブなどの社会インフラ事業と、自動車部品製造用の鍛造プレス機事業などを展開しています。
社会インフラ事業では、鋳鉄管やバルブ、強化プラスチック複合管などの水パイプライン製品を製造しているほか、グループ会社のクリモトパイプエンジニアリングが水道事業における管路の維持管理計画や、経年管の管体調査、管寿命の診断などを行っています。日本全国の上下水道の老朽化における対応は急務であることから注目します。
(3) 櫻島埠頭<9353>
大阪港を拠点に港湾運送事業や倉庫業などを展開していることから、日本維新関連銘柄の一角として注目します。東証スタンダード上場で時価総額が非常に小さく流動性も乏しい点は注意点ですが、大阪万博関連として株価は堅調に推移し、9月25日に年初来高値を更新しました。
日本維新の副都心構想などへの業績寄与は読みにくいですが、時価総額が小さい銘柄のため思惑先行の展開に期待です。
(4) 都築電気<8157>
介護施設向けのサービスを展開していることから、立憲民主党関連銘柄の一角として注目します。非接触バイタルセンサーを使って入居者の心拍数や呼吸状態、体動を常に検知し、健康管理やケア品質の向上、深刻化する介護士の人手不足解消をサポートしています。
介護関連は関心が高まりにくいテーマかもしれませんが、国民生活の底上げなどを重視する連立政権となれば関心は向かうと考えます。
(田代 昌之)