高市新政権への期待感からドル/円は円安が進行、日経平均も5万円を突破しました。しかし日本の物価上昇を懸念する政府、米国からのけん制で155円や160円を目指すシナリオは難しいかもしれません。

特にベッセント米財務長官の主張やトランプ大統領の円安批判に警戒が必要です。


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高市政権の期待感で円安進行。日米当局のけん制に警戒

 ドル/円は、21日の首班指名選挙で、1回目の投票で高市早苗氏が過半数を獲得し首相に指名されたことから円売りが強まり、その後も高市政権による拡張的な財政政策への期待感からじりじりと円安が進みました。24日には、高市首相が衆院本会議で所信表明演説を行い、財政拡張に積極的な発言があったことから153円台に乗せました。


 その後、9日遅れて24日に発表された米9月消費者物価指数(CPI)が前年比+3.0%と予想を下回ると、152円台前半へ円高になりましたが、米10月サービス業購買担当者指数(PMI)(55.2)が予想を上回るとドルは買い戻されました。


 27日には、米中貿易対立の緩和期待や高い内閣支持率を背景とする「高市トレード」再燃によって日経平均株価は5万円を突破し、また、日本銀行の10月会合における利上げ見送り報道も加わり、ドル/円は再び153円台前半への円安となりました。


 ドル/円は、高市新政権への財政拡張路線を期待した株価上昇を背景に円売り地合いが続いています。


 しかし、10月10日にドル/円が153円台前半の円安になった時の日経平均は4万8,000円台でしたが、今回、日経平均が5万円を突破する上昇となったものの、ドル/円は10日の153円台前半を超える円安とはなっていません。


 ドル/円は、高市氏の政策期待(財政拡張路線、利上げに否定的、円安容認)を自民党総裁選に選出された後にかなり織り込んだことから、首相指名を受けた後の反応は限定的だったのかもしれません。


 一方、株価は財政拡大への期待が高まったことに加えて、米国の利下げ期待や各国に対する平均実効関税率は緩やかな上昇との見方から米株が最高値を更新し、それに伴って日本株も勢いがつき、5万円を突破したのかもしれません。


 ドル/円の円安抑制は、日米の金融政策の動向と日米当局からの円安けん制が警戒された可能性があります。


 実際に、27日に開催された日米財務相会談について、米財務省は「ベッセント財務長官が、健全な金融政策の策定とコミュニケーションがインフレ期待の安定維持と為替レートの過剰な変動を防ぐ上で重要な役割を果たすことを強調した」との声明を公表しました。

ドル/円は、円安をけん制する内容と受け止められ、一時151円台後半まで円高に行きました。


 しかし、片山さつき財務相が、「(日銀による利上げを)促すというようなことではなかったのではないかと思う」との認識を示したことで、152円台まで戻しましたが、ベッセント財務長官の発言は従来の主張と同じです。


「日銀はビハインド・ザ・カーブ(後手に回っている)に陥っている」、そのことが円安をもたらしているとの主張は変わらないことから、今後も、繰り返し日銀の利上げを要請し、円安をけん制してくる可能性があります。そして市場参加者は「ベッセント・シーリング」の水準をこれまで以上に意識していくことになりそうです。


「ベッセント・シーリング」とは、2月と8月にベッセント米財務長官と植田和男日銀総裁が電話会談をして、円安への懸念を共有した水準のことです。2月初めは155円近辺で会談が行われ、8月初めは150円を超えた後の会談だったようです。会談後のドル/円は3月初めには146円台の円高に行き、8月の会談後は10月になるまで150円を超えることはありませんでした。


 27日の日米財務相会談は153円前後で開催されたことから、150~155円は警戒するゾーンであることが今回も確認されました。


 ベッセント財務長官は、日米関税合意に関して、トランプ米大統領が不満を感じた場合は見直すと言及しており、ドル/円が150円を超えた水準で推移すると関税引き上げ効果が減退することから、トランプ大統領が突然円安批判をしてくることはシナリオとして留意する必要がありそうです。


 日米首脳会談ではトランプ大統領は強固な日米同盟を強調し、30日の米中首脳会談を控えて日米同盟の結束を前面に押し出した会談や演説でしたが、米中首脳会談が無事に終われば、トランプ大統領は帰りのエアフォースワン(米大統領専用機)の機内で記者団に対して円安批判を展開してくるシナリオにも留意しておく必要があるかもしれません。


 また、高市新政権にとっても、これ以上円安が進むと主要政策である物価高対策に影響することを懸念し、しつこく円安をけん制してくることが予想されます。


ドル/円の今後の焦点は日米金融政策と株価動向

 10月の日米金融会合の結果は市場にほぼ織り込まれています。

28~29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では0.25%の利下げ、29~30日の日銀金融政策決定会合では利上げ見送りが市場の大勢となっています。市場予想通りになった場合には、ほぼ織り込まれていることから大きな動きにはならないかもしれません。


 しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)の12月利下げ期待も高まっているとはいえ、年内の追加利下げを示唆した場合には、ドル安に反応することが予想されます。


 また、パウエル議長は今後数カ月以内にバランスシートの縮小を停止し、量的引き締め(QT)を終了する可能性があると発言していましたが、早ければ月内にも終了させると示唆する可能性があると市場はみています。終了時期の前倒しはドル安に反応することが予想されるため、この点にも注目です。


 一方、日銀の利上げも年明けではなく、年内12月の利上げを示唆、あるいは今回の利上げ見送りの反対票が増えた場合には(前回は2人が反対)、円高に反応する可能性があります。もちろん、FRBも日銀も先行きの政策変更について慎重姿勢を示した場合には、FRBが今回利下げをしても円安に動くことも予想されるため注意が必要です。


 円安の背景として、日米株の上昇があります。FRBの利下げ期待が強まり、株価を押し上げたのですが、年内利下げについて慎重姿勢が強まると株が反落する可能性があり、株上昇に伴った円安は逆の動き、円高になる可能性がある点には留意する必要があります。


 同じように日銀の利上げ慎重姿勢がタカ派寄りになると、日本株が反落し、円高になる可能性にも留意する必要があります。また、国会が始まると、責任ある積極財政も現実路線となり、株式市場の期待がしぼみ、株は反落する可能性もあります。


 ドル/円は150円を超えた水準で推移していますが、このように今後の米利下げ局面、日銀の変わらない利上げ姿勢と米国からの利上げ要請、日本の物価上昇を懸念する政府からのけん制、米国からのけん制(トランプ大統領のドル安志向)を考えると、先行き155円や160円を目指すシナリオはなかなか想定しづらいかもしれません。


(ハッサク)

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