高市政権への期待からドル/円は円安が進行し、日経平均も5万円を突破しました。しかし、11月は米FOMCや日銀会合の思惑交錯、日米当局の円安けん制により、高市政権への期待から現実への局面に入ります。

利上げ観測や景気動向、政府・日銀の駆け引きがドル/円の行方を左右します。


日本の政治要因で円安に!ドル/円は高市政権への「期待」から「...の画像はこちら >>

高市政権の「期待」から「現実」へ。11月ドル/円の行方

 10月のドル/円は、日本の政局によって円売りが強まり、日米金融会合で日米とも追加の政策変更に慎重姿勢となったことからドル高・円安となりました。10月の動きを振り返ると、予想外のことが3点ありました。


  • 首班指名選挙の1回目の投票で高市早苗氏が過半数を取ったことが示すように、予想以上に同氏への政策期待が大きかったことです。日経平均株価が5万円を突破し、株上昇によって円安も進みました。日本の政局要因による円安は予想以上に根強い動きとなっています。
     
  • 10月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での0.25%利下げは予想通りでしたが、パウエル議長が記者会見で述べたのは予想外の内容でした。
    パウエル議長は、次回12月会合での対応を巡り、意見の相違がかなりあった(there were strongly differing views about how to proceed in December)と述べ、「12月の利下げは規定路線(foregone conclusion)には程遠い。あらかじめ決まった道筋はない」と述べ、12月利下げを見送る可能性を示唆しました。12月の利下げについて、「strongly」という強い言葉を使って意見が分かれていることを市場に伝え、「既定路線ではない」と市場の12月利下げ期待を一蹴したのは予想外のことでした。
     
  • 日本銀行の会合では予想通り据え置きとなりましたが、据え置き反対が前回と同じ二人だけで増えなかったことや記者会見で植田和男総裁から12月会合で利上げを示唆するような発言が特段見られなかったことは意外でした。
  •  以上のような予想外のことや意外なことによって、10月は147円台から154円台の円安となりましたが、11月は、これらの出来事を確認する月となりそうです。10月のような一本調子の円安ではなく、思惑が交錯し、上下に振らされる展開が予想されます。


     高市政権の政策については、期待だけでなく、11月は現実を確認する月となりそうです。10月は高市氏の財政拡張路線と金融緩和継続要請から一本調子の円安となりましたが、財政拡張路線も党内調整や国会論戦で現実路線となれば、高市首相も修正を迫られ、市場の期待が後退し、10月の円売りの逆の動きがみられる可能性があるため注意する必要があります。


     逆に、少数与党のため野党との交渉で財政拡張路線を受け入れたがためにトリプル安(債券安、株安、円安)になるシナリオも想定されます。その場合、株高が円安をもたらした一因でもあるため、株安は円高にもつながる可能性がある点にも留意する必要があります。


    日米の円安けん制:「ベッセント・シーリング」と介入警戒

     155円超の為替水準については、日米から為替けん制が強まることが予想されます。市場も為替介入を含めて警戒するため、円安が抑制される可能性があります。


     現在の為替水準についてベッセント財務長官は、日銀の金融政策についてやんわりと批判している形(利上げ催促)で円安をけん制しています。11月も繰り返し発信してくることが予想され、市場は「ベッセント・シーリング」の水準をこれまで以上に意識していくことになりそうです。


    「ベッセント・シーリング」とは、2月と8月にベッセント米財務長官と植田日銀総裁が電話会談して、円安への懸念を共有した水準のことです。2月初めは155円近辺で、8月初めは150円を超えた直後の会談だったようです。10月27日の日米財務相会談は153円前後で開催されたことから、150~155円は警戒するゾーンであることが確認された形となりました。


     また、片山さつき財務相も円安けん制を発言し始めています。高市首相は就任早々、閣僚に対して指示書を出しました。


     片山財務相の指示書には為替政策(為替相場の安定に向けた政策)に触れていないとのことですが、片山財務相は10月31日、足元の円安について、「一方的な、急激な動きがみられる」とした上で「為替市場の過度な変動や無秩序な動きについて高い緊張感を持って見極めている」と述べました。


     11月4日にも「円安水準が続く為替相場に高い緊張感を持って見極めている」と円安をけん制し、市場の介入警戒感を強めました。ドル/円は154円台から153円台前半へ円高となりました。


     高市政権が示す物価高対策の阻害要因になる円安に対して市場はその本気度を試すことになりそうです。国会でも円安対応についてかなりの論戦になることが予想されます。


    思惑交錯の11月。利上げ観測と景気動向の行方

     11月は、日米金融会合は開催されないため、12月の会合で日米とも慎重姿勢が変わるかどうかの思惑が交錯する月になりそうです。


     パウエル議長は、12月会合での対応を巡り、意見の相違がかなりあったと述べ、12月の利下げは「規定路線ではない」と述べました。市場ではこの発言を受けて、来年1~3月も利下げはないとの見方も浮上してきています。


     ただ、米連邦準備制度理事会(FRB)内の意見が分かれているのは米政府機関閉鎖によって雇用などのデータ発表が遅れていることも一因との見方もあり、遅延データが公表されるとFRB内の見方も変わる可能性があります。


     現時点での12月利下げはかなり後退していますが、延期となった経済データの公表によっては突然期待が浮上してくることも予想されるため注意する必要があります。


     植田総裁は12月会合で利上げを示唆するような発言を特に示しませんでしたが、次の利上げへの布石は打っています。


     植田総裁は記者会見で、次回12月会合までに材料が集まる可能性があるかと問われると、「春闘の初動のモメンタム(勢い)がどのような感じになるのか、もう少し情報を集めたい」と述べ、「最終の春闘の妥結の姿を知るまで待ちたいということではない」と指摘しました。市場ではまだ12月利上げ期待が残っています。


     先行き不透明な米景気や政府からの緩和継続圧力があるため、1月利上げの見方も多いようですが、この発言からは3月を待たずに利上げへの準備をしていることが感じ取れるため、市場の利上げ期待は続くことが予想されます。今後、12月会合までの講演などで高田創・田村直樹両審議委員に続いて利上げ派が増えるかどうかに注目したいと思います。


     一方で、日本の景気動向にも注意したいと思います。11月17日発表予定の日本の7-9月期国内総生産(GDP)は、トランプ関税の影響による輸出の落ち込みや物価上昇による個人消費が鈍くなり、4-6月期+2.2%からマイナス転の予想となっています。


     予想通りマイナス成長であれば、政府からも緩和継続圧力が強まって12月利上げは困難になるとの市場の思惑によって、円売りが強まる可能性があるシナリオには留意したいと思います。


     市場は高市首相と植田総裁がいつ会談するのかを注視しています。高市首相の日銀に対する緩和継続の強い要請も徐々に修正し始めているのではないかとの見方もあるため、政府からの圧力がどの程度強いのか市場はこの会談に注目しています。


    (ハッサク)

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