日銀が今年1月に政策金利を0.5%に引き上げたのは17年ぶりの出来事でした。そして12月19日の金融政策決定会合で0.75%に引き上げが決定しました。

これは30年ぶりの水準となりますが、それでもインフレを考慮するとまだ利上げ余地があると考えられています。私たちの生活や資産運用においてどのような影響があるか考える必要があります。


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お悩み

金利が上がると聞いて、これからの生活はどうしたらいい?

高橋 美咲さん(仮名)・パート勤務・40歳女性(既婚、主は会社員、子どもは2人)


 大学卒業後は会社員として働いていた高橋さんは、同じ会社で働いていた同僚と結婚し、出産を機に退職して専業主婦として家事と子育てにいそしんでいました。


 子どもが2人とも小学生になった時に近所で、昼間はパートで働きつつ、引き続き家事と育児の毎日です。ご主人も土日には手伝ってくれますが、平日は仕事が遅い時も多いので忙しい日々を過ごしていました。


 ただ将来のことを考えると、きちんとライフプランを考える必要があるし、貯金や資産形成も大切だということは夫婦の共通認識でした。少しずつですが、やった方がいいかなと思うことを実践していく中で、日本銀行が利上げをするということが話題になっていることに気づきました。


 金利についての知識はあまりなく、住宅ローンを組む時に調べたぐらいでしたが、その時に変動金利で契約していたので、利上げによって負担が増えそうだなということは漠然と理解していました。


 一度気になると日々の生活費や投資への影響も気になって、自分で詳しく調べてみることにしました。


 高橋さんが金利の上昇に今から備えておくべきことは、どんなことがあるのでしょうか?


金利上昇による変化を想定して自分への影響を考えるべき

 お客さまと接していると、長い間低金利が続いていた日本では「金利がある」ことに対する、市場や資産に関わる影響への理解は、まだ高くはないと感じています。ただインフレへの対策を希望される声が多くなり、物価上昇への懸念は広がっているようです。


 日銀の金融政策は「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」を理念の下に行われています。そのため、物価の上昇に合わせて金利が上昇してきたことは自然なことですが、久々の利上げが行われているため「一体どこまで金利が上昇するのか?」と悩んでいるのはプロも個人も同じでしょう。


 現時点では日銀が2%物価目標を達成したとすると、中立金利(景気を刺激も冷やしもしない中立的な金利水準)は1.0~2.5%と想定されています。

利上げは1.0%程度まで行われるという想定はこの範囲の下限に当たりますので、場合によっては一段と利上げが継続される可能性も示唆されています。


 結果的にどこまで利上げが行われるかは分かりませんが、今後は引き続き利上げが行われることを想定しておくべき状況です。そこで今回は、金利が上昇する前に備えておきたいことをお伝えしたいと思います。


金利が上昇する前に備えておきたいことその1:投資している資産配分を整える

 言わずもがな資産運用において金利は非常に重要な要因です。中央銀行が金融政策として判断を下すのですから当たり前のことですが、株式や債券など代表的な投資先だけではなく資産運用全般においてこれ以上ないほど重要だと言えるでしょう。


 また利上げによって、一般的には株価が下落傾向になるといわれていますが、金融機関の貸出金利が上がり、企業の事業活動が停滞して収益性や成長性が落ちるためと考えられています。


 債券は金利の上昇によって価格は下落するでしょうが、満期まで保有するなら最終的には償還価格(原則額面100%)で返ってきます。ただ資金が入り用になって途中売却する場合は、残存期間(満期までの期間)が長い債券ほど大きく価格が下落している可能性もあります。


 投資資産が原則通りに動くとは限りませんが、こうした状況を想定して可能なら資産配分を調整しておくと良いでしょう。


 資産形成で株式インデックス投資100%の人なら相場環境を気にせず機械的に投資をしても良いと思いますが、相場が大きく変動することが気になるなら投資金額が大きくなり過ぎているのか、リスク(投資資産の価格変動率)を取り過ぎている可能性もあります。その場合には金額を減らすか、資産分散を検討した方が良さそうです。 


その2:為替レートへの影響を理解しておく

 利上げによって金利が上昇すると、影響があるのは為替レートも同じです。異なる通貨間の交換レートを表す為替レートは、2カ国間の金利差や名目金利から物価上昇率(インフレ率)を引いた実質金利の影響を大きく受けています。


 物価上昇率に動きがなく、2カ国間の金利差が縮まればどうなるでしょうか? お金は金利が低い国から高い方へ流れているのが基本なので、日本の金利が上昇すればそれは円高要因となります。


 ただし利上げしようとしている状況では、基本的には過度なインフレを抑制し、経済の過熱を抑えて物価と経済の安定を目的としているはずです。つまりインフレが収まらないようなら多少利上げしたとしても単純に円高になるとは限りません。


 私たちは投資でも日々の生活でも為替の影響を免れることはできません。大切なことは金利上昇によって為替も影響を受け、そのため自分の資産や支出にどのような変化が起きるかを理解しておくことです。投資においては、投資先の資産や投資目的によってバランスを考慮しておくと良いでしょう。


その3:住宅ローンなど利息負担が増えても問題ないかチェック

 金利が上昇することによって負担が増えるといわれているのは、変動金利で借り入れをしている場合です。現役世代は住宅ローンなどの負債が多いといわれています。また不動産投資でローンを多く組んでいる人にも大きな影響を与えます。


 影響の大きさは、ローン金額と返済年数によって変わりますが、1%の変化が場合によっては数百万やそれ以上の支払い負担が増える可能性もあります。そのため、変動金利を選ぶ場合には、金利上昇局面での借り換え・繰り上げ返済の準備、身の丈に合った借入額に抑える「借りすぎリスク」への注意が重要となります。


 ただこれまでは金利が大きく上昇することを想定されていない状況が長く続いていたため、あまり考慮せずに変動金利でローンを契約している人も多いでしょう。多少の金利上昇では影響は軽微かもしれませんが、長期間の借り入れの場合には返済総額のチェックをしておくことは必須でしょう。


 私が一番気をつけてほしいローン契約の注意点は、たとえローンを解約したいと思っても返済額が残っていれば負債が残ってしまうという点です。

証券投資なら解約して損失となってもそれ以上の負担はありませんが、ローンは残債が残っている限りは返済を継続する必要があります。だからこそ安易に借り過ぎないように注意が必要なのです。


大切なことは将来を予測して慌てずに備えること

 利上げや利下げは一度行われるとしばらくはその方向性で検討されていく傾向にあります。これは重要な金融政策である金利の上げ下げを頻繁にするようでは市場からの信頼性が失われるだけでなく、金融政策自体への不信感を招きかねないという点も考慮されているでしょう。


 基本的に利上げがしばらく行われるようならどこまで利上げが進むのか、またどの程度で維持していくのか、その後に方向転換で利下げに向かうのかなど順序を踏みつつ判断されています。
市場金利は日々変動していますが、政策金利は日銀決定会合によって判断され、スケジュールも公開されていますので、金利変動に慌てる必要はありません。


 ただし備えておくことは大切です。今のうちに自分の資産や生活への影響を考えてみましょう。


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(西崎努)

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