日経平均は軟調な展開が続いています。市場の関心が米国の経済指標や日銀会合に向く中、裏では中国経済に対する「不安の火種」もくすぶっています。

習近平国家主席が統計の水増しや過当競争を禁止したほか、市場では資金繰りの悪化による金融商品のトラブルも発生。中国経済の減速が、2026年のリスク要因の候補となる可能性がありそうです。


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「回復基調はまだ?」、直近の中国経済の状況

 2025年も残すところあとわずかとなりました。今週の株式市場は、日経平均株価が節目の5万円台を下回るなど、これまでのところ軟調な推移が目立っています。


 相場の関心は、米FOMC後に公表される米経済指標の動向や、週末19日(金)に控える日銀金融政策決定会合の結果と、その後の植田日銀総裁の記者会見での発言内容などに向かっていますが、その裏で、中国経済に対する「不安の火種」もくすぶっています。


 これまでも中国経済の減速は指摘されてきましたが、そんな中、今週15日(月)に中国国家統計局が各種経済指標を公表しました。


<図1>2025年12月15日公表の主な中国経済指標の状況
減速する中国経済、2026年株式相場への影響は(土信田雅之)
出所:中国国家統計局および、各種報道を元に作成

 上の図1を見ても分かるように、11月分の鉱工業生産や小売売上高、1月から11月分の固定資産投資がいずれも市場予想を下回ったほか、不動産開発投資も前年比で11%を超えるマイナスとなるなど、中国経済の不調を示す結果となりました。


 とりわけ、小売売上高については、11月は中国のネット通販セール「独身の日(W11)」期間を含んでおり、本来であれば盛り上がるはずの消費が冴えなかったことで、中国の景気回復が一筋縄ではいかない状況をあらためて意識させたと言えます。


<図2>上海総合指数(日足)の動き(2025年12月17日時点)
減速する中国経済、2026年株式相場への影響は(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDⅡ

<図3>香港ハンセン指数(日足)の動き(2025年12月17日時点)
減速する中国経済、2026年株式相場への影響は(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDⅡ

 この結果を受けた、中国株市場は下落で反応しましたが、あらためて上海総合指数や香港ハンセン指数の日足チャートを見ると、株価が25日と50日移動平均線を下回り、この2本の移動平均線が株価の「抵抗」として機能していることや、5日移動平均線を含めると、3本の移動平均線が下向きの「パーフェクト・オーダー(株価の安い順に5日・25日・50日が並ぶ格好)」となっており、11月半ばあたりから、短期的な下落基調を強めている様子がうかがえます。


気になる習近平主席の「2つの発言」

 しかし、単なる数字の悪化以上に警戒すべきなのは、「政治的な姿勢の変化」の方かもしれません。12月10日~11日に開催された、翌年の経済運営方針を決める最重要会議「中央経済工作会議」において、習近平国家主席が発したとされる2つの指示が注目されています。


■「成長率を水増しするな」


 ひとつめの指示は、「成長率の水増し禁止」です。人民日報などの報道(2025年12月14日付)によれば、中央経済工作会議において、習近平氏が地方幹部に対し、見せかけのGDP目標達成のために行われる「虚偽の工事着工」や「統計データの改ざん」を厳しく批判し、実態に基づいた報告を強く求めたとされています。


■ 「内巻(ネイジュアン)をするな」


 そして、ふたつめの指示は「内巻(ネイジュアン)と呼ばれる、不毛な過当競争の禁止」です。

例えば、EVや太陽光パネルなど、多くの分野で中国企業同士が利益度外視の値下げ合戦を行い、共倒れ寸前になっている状況が目立ち始めています。


 こうした現状に対し、消耗戦をやめて業界再編を進めるよう命じました。


「内巻」というキーワード自体は、2024年7月に行われた「中国共産党中央政局会議」あたりから頻繁に登場するようになりましたが、習近平氏は企業家との座談会や地方視察などの場でも、質の高い発展を阻害する要因として、安易な価格競争(内巻)からの脱却を繰り返し述べており、改めて強調された格好です。


 この2つの発言から読み取れるのは、中国のトップ自らが「数字の化粧」を禁じたことで、今後公表される経済指標が「不都合な真実(リアルな低い数字)」を示す状況が次々と表に出てくる可能性があること、また、過当競争の抑制によって、競争力のない企業の淘汰、つまり倒産や統廃合が政府主導で加速する流れが強まるかもしれないことなどが考えられます。


中国の「カネ回り」の悪化も警戒要因

 そして、中国経済については、もうひとつ警戒すべき点があります。それは、中国国内の「カネ回り」の悪化です。


 それを象徴する出来事が足元でも発生しており、先月(11月)から今月(12月)にかけて、「浙江金融資産取引センター(浙金中心)」をめぐるトラブルが日本でも報じられています。


 このトラブルは、11月27日に浙金中心で運用商品を保有していた複数の投資家が、満期を迎えた商品をアプリで換金しようとしたところ、出金ボタンが無効化され、「一時的に償還できない」という表示が出たことから始まりました。


 その後も、担当窓口は無言対応、電話は話し中のまま、SNSで相談しても即削除という状況が続き、12月に入ると、不安に駆られた投資家たちが続々と杭州の市庁舎へと集結し、返金を求める抗議活動が開始され、警官隊と衝突する事態に発展して行きました。


 そして、7日に浙金中心の実質的な親会社とされる祥源グループの幹部が、「資金繰りが行き詰まっている」と事実上の破綻を認めた一方、グループ傘下の上場企業3社は「我々は無関係であり責任を負わない」とトカゲの尻尾切りのような公告を発表し、現在も事態は収束に向かっていません。


 そもそも浙金中心は、浙江省政府をはじめ、寧波市政府や国有企業、銀行などが出資して設立された金融資産取引所で、銀行や大手シャドーバンクから資金を借りられなくなった企業が、浙金中心を経由して資金調達を行う、いわば「最後の貸し手」のような場所でした。


 銀行でもノンバンクでもないため、ルール上では金融商品を販売することができないのですが、企業の債権を証券化・小口化して発行することで、あたかも「理財商品」のように販売し、一般投資家も、「お上のお墨付きがあるから絶対に潰れない」という安心感を背景に、浙金中心が販売する金融商品を購入していました。


 ちなみに、浙江省政府は2024年10月に、はひっそりと浙金中心の金融資格を剥奪しています。


 この数年、中国では「カネ回り」の悪化がジワリと進行してきました。例えば、不動産企業では、日本でも有名になった恒大集団の破綻に続き、優良企業とされていた万科企業までもが、販売不振から資金繰りに窮し、社債の償還延期を余儀なくされました。


 続いて、これらの不動産会社に資金を貸し付けていた中国最大級のシャドーバンク「中植企業集団」が巨額の債務超過で破綻しています。


<図4>不動産を中心とする、中国の「カネ回り」の状況
減速する中国経済、2026年株式相場への影響は(土信田雅之)
出所:筆者作成

 こうした事態の進展に伴い、上の図4にもあるように、企業への融資や住宅ローンの焦げ付き、そして理財商品や社債などの償還遅延やデフォルトなど、「カネ回り」の悪化も拡大しています。


 不動産価格の下落と金融商品の焦げ付きによって家計のバランスシートが傷つけば、消費の低迷が長期化してしまう恐れもあります。


 これまで見てきた状況を踏まえると、中国経済の動向は2026年相場のリスク候補のひとつになる可能性がありそうです。


「膿」を出しきった先に光はあるか?

 もっとも、中国政府がこれまでの「見せかけの成長」を放棄し、長年蓄積された不良債権や過剰設備という「膿(うみ)」を出し切るプロセスと前向に捉えるのであれば、中国経済の健全化に必要な手術とも言え、中国経済は底を打ち、回復への一歩を踏み出すかもしれません。その場合、中長期的な視点では、株価が下落したところで買うという戦略も考えらえます。


 では、その膿を出しきるのに、どのくらいの時間が掛かるのでしょうか?


 そこで、ここ直近の中国の金融機関・債務問題に関する、主な重要ニュースについてチェックしていきます。


■『中小銀行の大量淘汰:2025年だけで300行超が消滅』
(中国経済新聞/2025年12月8日)
概要: 中国全土で中小銀行(村鎮銀行など)の統廃合が加速しており、2025年の1年間だけで300行以上が法人格を失い、合併や解散に至ったと報じられています。「減らして質を高める」政府方針の下、リスクの高い小規模金融機関の退出が本格化しています。


■『中国不動産大手の万科、社債の元利支払いを1年待つよう要請』
(Bloomberg/2025年12月1日)
概要: 優良企業とされていた万科企業でさえも資金繰りが悪化。

2025年上半期決算での赤字転落に加え、12月には債務返済の延期交渉が難航したとの報道で社債・株価が下落しました。不動産不況が銀行のバランスシートをさらに毀損する懸念材料となっています。


■『中国の地方債務2900兆円に膨張 25年の債券発行最大、デフレを助長』
(日本経済新聞 /2025年12月2日)
概要: 地方政府の隠れ債務(LGFV)を含めた総債務残高が、2025年時点で約2,900兆円(日本円換算)に達したとの推計が出ました。土地売却収入の激減が地方財政を直撃しており、デフレ長期化の要因として挙げられています。


■『中国の小規模銀行再編、健全化の道遠く 統合後に体力低下』
(ロイター/ 2025年12月15日)
概要: 深圳や広州周辺でも、農村商業銀行による小規模銀行の吸収合併が相次いで発表されました。経済規模の大きい沿岸部でも金融機関の整理が必要な段階に来ていることを示唆しています。


 このように、中国経済の健全化に向けて、動き出しを見せているような兆しも感じられますが、IMF等の予測では、不動産投資の減少は2025年も続き、銀行の不良債権処理が長引くとの見通しが示されているほか、2024年11月に決定された地方債務の借り換え支援策(10兆元規模)が2025年から本格運用されているものの、根本的な解決には至っていません。


 また、想定以上の景気悪化ペースや、それに伴う不満の高まりは、政権を揺るがしかねない事態に陥ってしまうため、「一気に膿を出しきる」というよりは、「状況を見ながら出していく」ことも考えられます。


 そのため、当面のあいだは中国経済の調整局面が続くことが想定され、中国発のニュースフローに対して、警戒レベルを上げておく必要がありそうです。


(土信田 雅之)

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