金利上昇局面に入り、住宅ローン選びがこれまで以上に難しくなっている。これから借りる人は、「固定」と「変動」どちらの金利が有利か。

金利が今よりも上がる前に、繰り上げ返済をするべきか。後悔しない住宅ローンの考え方を、住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営するMFS取締役CMOで住宅ローンアナリストの塩澤崇氏に聞いた。


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変動と固定、判断のポイントは「金利差」

__日本銀行が利上げを決めた。これから住宅ローンを借りる人は、「固定金利」と「変動金利」、どちらを選ぶべきか。


 変動と固定の「金利差」に注目して考えると、金利上昇への備えは必須だが、変動金利に合理性があると考えている。主要金融機関の平均的な変動金利の水準と、固定金利で代表的な「フラット35」を比べると、足元の金利差は約1.2%ある。今後、日銀の利上げによって変動金利は上昇する見通しだが、この金利差が短期間で逆転する可能性は高くなさそうだ。


 変動金利は政策金利にほぼ連動して動く。私の試算では、政策金利は現在の0.75%から2027年度に1.5%までの上昇にとどまるとみている。


 また、金利は景気サイクルに連動して上下を繰り返すため、住宅ローンの返済期間中、変動金利がずっと上がり続けることは考えにくい。


 住宅ローンは35年で組むケースが多く、最初の10年間は返済額に占める金利の割合が大きい。元本が多く残る最初の10年間をいかに低金利で乗り切るかは重要なポイントで、変動金利を選ぶメリットが大きいと考える。


金利上昇、後悔しない住宅ローン戦略~変動、固定、繰り上げ返済の考え方
毎月の金利支払額

__金利が上昇する局面で、変動金利を選ぶ場合の注意点は。


 金利の動きは予測しにくい。黒田東彦総裁時代と異なり、植田和男総裁の下では金利が上がりやすい環境ともいえる。変動金利を借りる場合は、金利が上がったとしても無理なく払える限度額を試算し、借り過ぎないことが大切だ。


 また、インフレ時代は家計の負担も増す。インフレを追い風に業績が伸びそうな企業の株式などで資産運用することも重要だ。変動金利を借りるのであれば、金利が今よりも上がることを前提に、今のうちから備えておくことが必須となる。


利上げ局面でも、繰り上げ返済を急がなくていい三つの理由

__利上げが続く見通しの中、繰り上げ返済は積極的に行うべきか。


 安易な繰り上げ返済はお勧めしない。理由は三つある。


 一つ目は、「金利の逆ザヤ」だ。例えば、手元にある500万円を、金利0.5%で借りた住宅ローンの繰り上げ返済にあてた場合と、年利2%で20年間運用した場合で比べてみると、投資に使った方が約10倍のリターンを得られる可能性がある。もちろん投資にはリスクがあるが、一つの判断材料になるだろう。


金利上昇、後悔しない住宅ローン戦略~変動、固定、繰り上げ返済の考え方
繰上返済vs投資の差は約10倍!

 二つ目は団体信用生命保険(団信)だ。

借主が亡くなった場合などに住宅ローン残高がゼロになる仕組みで、繰り上げ返済をすると、本来であればゼロになるはずだった負債を現金で前払いすることになる。


 三つ目は流動性だ。一度返済したお金は引き出せない。いざという時に使える現金を手元に残しておくことは、家計管理の観点からも重要だ。


__変動金利が上昇した場合、具体的に家計の負担を抑える対策は。


 金融機関の間では金利競争が激しくなっており、現在よりも低い金利の住宅ローンが見つかる可能性がある。その場合は「借り換え」も有効な選択肢だ。


 私の試算では、借り換えによって金利が0.3%以上下がる場合、元本に対して2.5~3%程度の諸費用を払ってもメリットが出るケースがある。


 当社のサービス「モゲチェック」でも借り換えのシミュレーションができ、利用者の中には借り換えによって150万円程度の削減効果が出ている人が多い。


__変動金利の「5年ルール」と「125%ルール」は、どのような点に注意が必要か。


 メガバンクや地方銀行など多くの金融機関が、金利が上昇しても5年間は毎月返済額が変わらない「5年ルール」と、返済額の増加を従来の125%までに抑える「125%ルール」を設定している。


 すぐに返済額が上がらないため一見安心できそうだが、その間は元本の返済が進みにくく、結果的に支払う金利総額が膨らむ可能性がある。


 また、5年ルールの期間中に繰り上げ返済をすると、5年ルールが適用されずに新しい金利と残高で再計算されるため、毎月の返済額が増えてしまうケースもある。仕組みをしっかり理解した上で活用してほしい。


20代が「ペアローン」「50年ローン」を選ぶワケ

__最近の住宅ローン市場の傾向は。


 当社が実施したアンケート結果によると、都内を中心に、夫婦で借りる「ペアローン」や、返済期間50年の「超長期ローン」を選ぶ人が増えている。特に、自己資金が比較的少ない20代では、全体の5割近くがペアローンかつ超長期ローンを組み合わせている。


 背景にあるのは、不動産価格の上昇だ。住宅ローンの借入額は、全国平均で約5,000万円、都内では7,000万~8,000万円近くと年々増加している。ペアローンで借入額を増やし、返済期間を長くして毎月の返済額を抑える、という戦略が一般的になっている。


 インフレと金利上昇が続く中、「毎月返済額を抑え、余った資金を投資に回す」という考え方も、一段と浸透しつつあるように感じる。それぞれのリスク許容度に応じた対策を考えることが重要だ。


金利上昇、後悔しない住宅ローン戦略~変動、固定、繰り上げ返済の考え方
年代別、ペアローンのうち超長期ローンの比率(東京)

(トウシル編集チーム)

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