米連邦準備制度理事会(FRB)などの主要予測機関による2026年の経済見通しは安穏としたものが多い。しかし、筆者は「実は、不穏なリスクを排除できない」と考える。

想定されるマクロ環境を踏まえて、米、欧、中、日、新興国の株、債券、金など商品別に、2026年を投資ポジションでどう描くかを考える。


【田中泰輔】2026年の株・債券・為替・商品を考える、ゆく投...の画像はこちら >>

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の田中 泰輔が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【世界の株・金利・為替・商品】ゆく投資 くる投資。マネーが語る2026年 」


サマリー

●ポイント1:AI投資継続。需要見通しの裏付けが確からしい銘柄選別、ETF活用も一考
●ポイント2:複数回の利下げケースでは、景気・バリュー株買いにも妙味
●ポイント3:日本株も米AI関連、高市テーマ、外国人物色の銘柄を軸に、慎重に前向き
●ポイント4:米株集中投資に高値警戒が出やすくなることで、国際分散投資が促されやすい
●ポイント5:米利下げでドル安のケースでは新興国市場が活性化されやすい
●ポイント6:米利下げでドル安、先行き不確実性への警戒で、金への選好継続


安穏な予測と不穏なリスク

 2026年は投資家にとって、どんな年になるでしょうか。経済について、主要な予測機関の見通しは総じて良好です。米連邦準備制度理事会(FRB)が12月に公表したマクロ予測では、国内総生産(GDP)成長率+2.3%、失業率4.4%、個人消費支出(PCE)コア価格指数+2.5%で、2027年、2028年とそれぞれ中立水準に収束していくとしています。この過程で、利下げを0.25%ずつ、2026年と2027年に1回ずつ行うのが、中心予想です。


 欧州中央銀行(ECB)は、景気中立水準以下まで利下げを進めてきたこと、ドイツなど中核国で財政支出を増やすことから、景気はしっかりめで推移し、それでいてインフレは目標+2%前後に抑えられるとしています。日本銀行も経済見通しはまずまずです。米欧日とも足元では経済データに一定の底堅さがあります。従って、予測機関としても、あえて景気後退リスクを強調することはほぼありません。


 しかし、それぞれに不穏さも抱えています。米国は雇用と消費者心理の陰りが続いています。雇用者数の減少は、通常であれば、景気後退のシグナルとされました。しかし、先端的人工知能(AI)企業のAI導入によるリストラ、移民抑制、政府機関の一時閉鎖とリストラといった特殊事情が、景気全体へどう波及するかを読み切れずにいます。


 欧州は、金融財政政策の効果待ちとはいえ、中核であるドイツ経済の往年の強さを支えた自動車産業が劣勢となり、蜜月だった中国の需要が減退し、安価なロシア産燃料に頼れなくなっています。


 日本は、賃金の伸びがインフレに追い付かず、中国との関係悪化も響いてはくるでしょう。米利下げの進み方次第で、円高リスクも排除できません。高市政権の政策への期待はあるものの、成長戦略の成果は短期間で出るものではありません。積極的な補正予算はGDPを+1.4%押し上げるというのが政府の試算ながら、長期金利上昇などマイナス作用もあり、実際には+0.5%未満と評価されます。


 中国のマクロ情勢はさらに厄介です。深刻な不動産不況が内需に及び、デフレに陥りつつあるとみられます。AIなどデジタルの分野こそは、米国と競合できる唯一の国であり、活況を呈しています。

しかしデフレ不況の先輩である日本の経験からすると、政策対応の遅れが、中国経済をむしばんでゆく途上に見えます。


 一見して安穏とした経済見通しの裏には、シナリオを暗転させるかもしれない、こうした不穏なリスクがくすぶっているのです。そこに政治リスクが絡んできます。


 米国では、トランプ関税の違憲裁判、中間選挙の結果次第で、政権の政策能力が問われるでしょう。極右が台頭する欧州では、特にフランス大統領選挙への警戒が強まりそうです。


 日本では、政権基盤が劣勢の高市政権は、政策効果が表れないまま、国民の高支持率が下がると、抵抗勢力の台頭を許すことにもなるでしょう。


 中国もまた、国内経済の混迷が政治体制への脅威になるか、国民の不満をそらす対外強硬策になるか、深刻なリスクになりかねません。


市場別の狙い目

<米国株>


 米国株相場は2025年も、高金利下でもAIテーマが主導する活況でした。しかし高金利の圧迫で、一般株の上昇率は限定的でした。またAI銘柄も次第に盛衰、波乱が目立ち始めました(図1)。


<図1>米主要AI銘柄(2025年)
【田中泰輔】2026年の株・債券・為替・商品を考える、ゆく投資くる投資
出所:Bloomberg

 2026年も、AIのインフラ構築から実装に至る需要の旺盛さを織り込む相場が続くとみています。しかし、中核的なAI銘柄について、過剰投資、高債務、採算性の問題が浮上し、割高ではないかとの懸念が相場に波乱を招きやすくなっています。その一方で、エヌビディアとオープンAIをコアとする陣営に対して、グーグルなど対抗勢力が台頭し、勢力図の変化、裾野の広がりも進む公算です。


 投資ポイント1は、AIを軸にした相場が続くものの、銘柄別の浮沈が出やすく、需要見通しの裏付けが確からしいものを選別する目が重要になるでしょう。銘柄別の跛行(はこう)・波乱が大きくなって、選択が難しくなる場合、銘柄分散効果のある上場投資信託(ETF)を活用するのも一考です。これは、2025年8~12月の相場で予行演習してきたものです。


 また、米国では、トランプ政権の意向で、FRB議長を含め人事がハト派に傾斜していく見込みです。雇用の陰りについて背景事情を読み切れないため、ハト派の新議長が「利下げせずに、景気対応で後手に回ったらどうするか」と説得することで、年内に2~3回の利下げの可能性を排除できないと考えています。


 投資ポイント2は、利下げが複数回行われる状況では、株式相場には金融相場の様相が出てくるでしょう。AI株の割高が懸念され、波乱含みになる展開では、景気・バリュー株のローテーション買いが進むと想定されます。筆者も、高金利下で敬遠してきた景気・バリュー株の物色に、久々に取り組む準備をしています。


<日本株>


 日経平均株価の変動は、2022~2024年には、米国株とドル/円相場の相乗作用を、外国人投資家がどう生かすかで、ほぼ説明されました。ドル/円が米金利に沿って動いていたこともあり、日本株高もほぼ米国次第の他力本願だったといえます。


 2025年になると、日本株に一定の自律性が出てきました。脱デフレの進展、日本企業の自社株買いを含む株価対策、高市政権の政策への期待が主因です。

米国株一極集中投資の見直しが進む一環で、外国人マネーが日本株に回帰してきたことも、2025年の日本株の急伸を促しました。


 投資ポイント3は、日本株は米AI関連、高市政策テーマ、外国人が物色しやすい優良大型銘柄のうち、需要見通しに確からしさがあるもの、あるいは、短期投資ではその期待が旺盛なものを軸に選別することです(図2)。


<図2>日本の主要テーマ株(2025年)
【田中泰輔】2026年の株・債券・為替・商品を考える、ゆく投資くる投資
出所:Bloomberg

 需要見通しの確からしさなど当たり前のことではないかと思うかもしれません。しかし、例えば、高市政権の戦略分野である防衛とか、ロボットなどフィジカルAIがテーマとして浮上していますが、それらに関わる代表的な企業で、その分野のビジネスがどれほどの比重で、今後どこまで請け負える需要なのかを精査してみてください。より比重の大きい他の分野が株価により大きな影響を及ぼしうる銘柄が少なくありません。


<世界の株>


 投資ポイント4として、米AI株集中投資に高値警戒が出やすくなると、国際的な分散投資が進みやすくなります(図3)。2025年初頭は、ドイツなど欧州株と、長らく割安なままだった中国株が、国際マネーの分散投資によって押し上げられました。2025年後半には、日本株も分散投資の対象として再評価されるようになりました。2026年もこの延長線上で、国際投資家の目線で相場を捉えていくのもよいでしょう。


<図3>米欧中日株の代表指数(2025年)
【田中泰輔】2026年の株・債券・為替・商品を考える、ゆく投資くる投資
出所:Bloomberg

<新興国市場>


 投資ポイント5は、米利下げでドル安になる場面で活性化されやすい新興国への投資です。株はもちろん、高金利の通貨の上昇、債券の物色もあり得ます。ただし、新興国には、政治・政策面で脆弱(ぜいじゃく)さが危惧される国もあります。

一見して好条件の国も急に情勢を悪化させることもあります。米金利の下降サイクル狙いの投資と、長期的な高成長を狙う投資は区別して対応します。


<金・銀、商品>


 投資ポイント6として、米金利低下でドル安局面に、金相場はサポートされやすくなります(図4)。加えて、経済・政治にくすぶる不穏なリスクもまた、究極の安全通貨とされる金への選好を強めるでしょう。


<図4>金、銀、銅、原油、暗号通貨 vs. 米国株(2025年)
【田中泰輔】2026年の株・債券・為替・商品を考える、ゆく投資くる投資
出所:Bloomberg

 銀は、金相場上昇での連れ高の思惑、産業需要の増加、供給の制約、米政府の戦略物資選定などで、2025年の相場上昇率でトップランカーになっています。これらの相場サポート要因は2026年も続く公算ながら、速すぎる相場ゆえの自律調整リスクを踏まえての対応になります。


 その他の商品については、個別の需給、政策などの影響を評価して対応する必要があります。シンプルに狙い目を事前評価することは控えます。


<債券>


 米国は利下げ、欧州は据え置き、日本は利上げを、各中央銀行は志向し、短期金利の方向性はまちまちです。このため、それぞれの国・地域の景気動向、そこにくすぶる不穏さの現れ方で、債券相場の動意も変わります。


 ただし、米欧日とも共通の動きとして、長期金利は下げ渋るか、あるいは今後上昇する気配を残しています(図5)。コロナ禍で財政政策が積極化され、最近でもその延長線上で、財政収支の悪化が長期債相場を圧迫しています。

高めの長期金利水準を魅力的と捉える投資家もいれば、値下がりリスクを踏まえて、長期債券を敬遠し、必要なら中期債を選ぶ投資家もいるでしょう。中国の長期金利は日本を下回り、デフレ色を強めています。


<図5>米欧中日国債10年金利(2022年~)
【田中泰輔】2026年の株・債券・為替・商品を考える、ゆく投資くる投資
出所:Bloomberg

 債券投資のやりようはいろいろ思案されます。ただし、金利狙いの投資家以外では、値動きの焦点を定めにくいので、ここではあえて投資ポイント7としてリストに入れることはやめておきます。


総括としての田中流

 2026年のマクロ予測とリスクを踏まえて、米日を軸に世界の株、米利下げ次第でドル安がもたらし得る金や新興国の投資のポイントを総花的に整理しました。


 筆者自身が得意とする投資は、対象を広げるよりも、集中するアプローチであり、分散投資は長期投資の一部に限定しています。ただし、2026年には、AI株への機動的投資のみならず、状況次第では、中期でのホールドをAI銘柄からバリュー銘柄まで広げることも思案しています。


 年末年始に、ご自身のスタイルを2026年の環境に照らして、投資のアイデアを巡らす上で、本稿が一助になれば幸いです。2026年が皆さまにとって、よりよい1年になりますように。


*本稿は個別銘柄を推奨するものではありません、投資はご自身の判断と責任において行ってください。


■著者・田中泰輔の 『逃げて勝つ 投資の鉄則』(日本経済新聞出版刊) が発売中です! 


(田中泰輔)

編集部おすすめ