日本国債の売りと円安を指して「日本売り」などと、個々の相場動意をいきなり構造問題に飛躍させる論調が少なくない。真に受けると、適切な相場対応を見失いかねない。
サマリー
●為替介入に疑心暗鬼となったドル/円の急落は、他市場とのリンクを実地で確認できる貴重な機会
●そもそも介入はあったのか、その目的と効果は?
●ドル/円、ドル指数の急落で浮かび上がる米日株・債券、金のリアルな動因をチェック
すわ為替介入か、その顛末
まず為替介入かと疑心暗鬼になった相場の推移を見てみましょう。
1月23日、日本銀行政策会合後の植田和男総裁会見中にドル/円は上伸しました。「次の利上げはすぐにはなさそう」との思惑から、いよいよ1ドル=160円台を狙う円売りに弾みがつきかけました。ところが直後に1ドル=157円台まで急反落(図の▼1)。市場では、日本の通貨当局(財務省+日銀)による為替介入か、レートチェック(為替介入に向けた準備)か、それとも大口取引が介入と誤認されているのかと、臆測が飛び交いました。
<図>介入に疑心暗鬼のドル/円(10分足)
やがて1ドル=158円付近で迎えたニューヨーク市場で、再びドル/円は急落し、1ドル=155円台に至りました(▼2)。この時は「ニューヨーク連邦準備銀行がレートチェックした」との一部報道があり、日米協調介入かという疑心暗鬼が強まりました。
週が明けた26日も、市場では為替介入への警戒がくすぶり、投機筋のポジション調整が続き、ドル/円は1ドル=153円台に下落しました。もし為替介入が兆円単位の巨額なら、その決済日に当たる27日の銀行間資金需給の予想データから、介入の有無、規模がざっくり推計できます。しかし、夕刻に出たデータでは、介入の証拠となるほどの数字は確認されませんでした(▼3)。
それならここで、ドル/円は反発(円安ドル高が進行)するかと注視しましたが、相場の戻りは思いのほか重く、ダメージを受けた投機ポジションの調整が続いていることをうかがわせました。
28日には日本市場の朝方に、トランプ大統領が下落しているドルの水準について「great(素晴らしい)」とコメント(▼5)。市場はドル安容認と受け止め、相場も戻りを抑えています。その後、ベッセント米財務長官がドル/円への協調介入を否定し、ドル/円は1ドル=153円台に反発しましたが、まだ上値は重いようです。
なお、実弾介入の有無については、財務省が公表する「外国為替平衡操作の実施状況」により確認できます。1月分の合計額は1月末の夕刻に公表される予定です。また、1~3月分の日々の介入取引の詳細は5月初旬に公表される予定です。
介入の目的と効果
為替介入は、実弾のドル売り円買いでも、水準調整の効果は一時的、限定的で、相場の方向を転換させることはできないとされています。レートチェックとは、通貨当局が市場の取引銀行にドル/円売買の価格を聞く行為です。
当局が提示された価格で発注すれば、実弾介入ですから、市場に緊張が走ります。しかし実弾でない以上、相場の需給への直接的なインパクトはありません。
為替介入の効果を、一時的にせよ高められるケースは、投機筋が一方向的にポジションを積み上げて相場をあおっているところに、介入がカウンターとなる展開です。投機筋がロスカットのポジション巻き戻しに追い込まれると、その損失ダメージの程度によって、しばらく意気消沈して身動きをとりにくくなるのです。
1月23日のドル/円急落は、大規模な実弾介入が行われていないとすれば、レートチェックだけか、あるいは、市場の勝手な疑心暗鬼だけで、あれだけの値動きをもたらしたことになります。ただし疑心暗鬼になるだけの理由もありました。
第1に、2月8日の衆院選投開票を控え、高市早苗政権は、1ドル=160円台の円安を放置すれば、輸入インフレを容認・放置している、あるいは無策であるという批判を受けかねません。それだけに、1ドル=160円手前での介入あるいはレートチェックによる円安けん制には、真実味がありました。
第2に、かねてベッセント財務長官は、日銀が金融政策を適切に正常化すれば、極端な円安は是正されうるという趣旨で、ドル高円安の水準調整に前向きと見られていました。このため、日本当局がドル売り介入の許諾を求めた場合にも、応じてくれるとの見方があったのです。
ドル/円急落で見えたリアル相場
市場では、眼前の相場変動を追認して、拡大解釈する解説が横行しがちです。日本の国債が売られ、円が売られていると、構造的な問題であるかのように「日本売り」を強調する類の論調です。外国人によって、株や不動産が大規模に買われていても「日本売り」と言い、株安場面と重なるようなら、さらに意を強く「日本売り」だとはやすのです。
これを真に受けると、適切な相場対応を機動的に行うことができません。
今回、介入の疑心暗鬼であったとしても、イレギュラーにドル/円相場が急落したことで、さまざまな市場との連動がどのようになっているかを抽出できました。
(1)円安攻めをする投機の大きさ:投機ポジションはシカゴ通貨先物市場など限られたデータから推測するしか術がありません。
(2)ドル/円と米日金利の関係:ほとんどの主要通貨の為替相場は、その国と相手国の金利の相対関係に沿って動きます。ドル/円も大半の場面でそうでした。しかしここ数カ月のドル/円は、米日金利が円高方向であるにもかかわらず、円安気味でした。
構造的な円安論がここぞとばかりに強調される昨今ですが、やはり金利を軸に評価するというのが、筆者の考えです。為替介入には、ファンダメンタルズから乖離(かいり)したナラティブ(物語)で走る相場に、本来のロジックを気づかせる意図もあるのです。
(3)ドル/円と日本株:多くの場合、円安は日本株にプラスに作用しますが、円高は日本株にマイナスに作用します。今般の円高でも日経平均株価は下落しがちでした。しかし、円高の割には、日本株の下落は控えめだったと言えます。そこには、米国株が半導体・メモリー株主導で堅調だったことに加え、日本株に、為替相場にただ受動的に動くわけではない自律性が戻ってきていることが指摘されます。
(4)ドル指数と米国株・債券:米国市場についても、ドルが売られると、米国あるいは基軸通貨ドルの信認失墜などとはやされがちです。
かつて1980年代には、米国で「金利>経済成長」が続き、財政赤字、経常赤字での借金返済が滞るとして、ドル安は米国債安、株安と連動しがちでした。
足元では、ドル安は、円安と日経平均高と同様に、米国の株高に作用する場面が少なくありません。長期的に米国、ドルの信認が保たれるかは確信できませんが、米国売りを「今そこにある危機」とする見方では、各市場の相場を捉えられないでしょう。
(5)ドル指数急落と金:究極の安全通貨とされる金の相場上昇は、先行き不安の反映とか、基軸通貨ドルの信認失墜の証拠のように解説されることが多々あります。近年は中国やロシアなどアンチ米国、アンチドルの国が、ドル準備を金に入れ替え続けており、その意味でドルから金に信認が移っているとの言い方も間違いではないでしょう。
ただし循環的な金相場変動には、米金利低下とドル安がプラスに作用します。ドルがユーロなど大半の通貨に対して軟化している昨今、主要通貨では円のみが対ドルで軟調続きでしたが、今回の介入騒動で円も対ドルで反発すると、ドル指数(ドルの総合為替レート)は如実に低下し、金、銀、プラチナなど貴金属や商品相場全般の押上げ効果を見せています。
すわ為替介入かと疑心暗鬼になったここ数日のドル/円相場の下落(円高)は、日本売り論から一時的にせよ目をそらし、為替、株、債券、商品の値動きを相互チェックできる機会にもなっています。
長期的な・構造的な相場シフトの端緒かもしれない動きを軽視するつもりはありません。しかし、中短期の相場変動ロジックからかけ離れた構造論に比重をかけると、相場対応の機動性を損ないかねないことを、この機会に確認してほしいのです。
筆者は、年末年始に提出したレポートで2026年のドル/円見通しについて、1月に1ドル=160円に接近するも、為替介入や日銀利上げで押し返され、その後は、米国の利下げ回数次第で1ドル=150円割れもあり得るという見立てで、150±10円を基本レンジとしました。
わずか1カ月だけ見て、当たったと言いたいのではありません。相場見通しとは、ロジックに基づくシナリオとして描かれるものです。そのロジックを実地で体感できる貴重な機会として、足元の場面をぜひしっかりと観察することをお勧めします。
*本稿は個別銘柄を推奨するものではありません、投資はご自身の判断と責任において行ってください。
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(田中泰輔)

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