衆議院選挙の投開票日が2月8日に迫りました。選挙の大きな争点が消費税の減税です。
安倍政権時代の「大きな違い」
トウシル:よろしくお願いいたします。高市政権の経済政策をどのようにみていますか?
愛宕伸康さん(以下、愛宕):高市早苗首相は安倍晋三元首相の後継者を自任しており、政策面でも安倍氏のアベノミクスと共通点が見られます。
安倍氏が首相に返り咲いた2012年は、円高が進行し、賃金も物価も上がらないデフレ環境にありました。そうした状況の中で、アベノミクスの機動的な財政政策と大胆な金融緩和政策が効果を発揮しました。
ただし、当時と今では、日本の経済環境が大きく異なります。
消費者物価指数(CPI)はゼロ近辺から約3%にまで上昇し、名目の雇用者報酬も3%を超えています。今は経済の需給環境が引き締まり、物価と賃金が相互に上昇する、インフレ圧力の強い状況です。
アベノミクス開始時と現在の経済指標
そうした中でアベノミクスのような拡張的な財政政策を行えば、インフレを助長したり大幅な金利上昇を招いたりといった副作用が生じる懸念があります。
金融市場では、高市首相が積極的な財政出動を行うことによる財政リスクの織り込みが進み、長期金利(日本10年国債利回り)の上昇や円安進行が見られます。
10年物国債金利(新発債)は、2025年夏の参院選後から上昇し、高市政権誕生後にはさらにそれが加速しました。今年1月に衆議院解散のニュースが出た直後には、一時2.3%を突破し27年ぶりの高水準に達しました。円安も一時は1ドル=159円台まで進行しています。
トウシル:金利の上昇や円安は日本経済にマイナスなのですか?
愛宕:長期金利の上昇は、住宅ローン金利の引き上げにつながるほか、国債価格の下落による金融機関の含み損拡大を招き、それが行き過ぎた場合、金融システムを不安定化させる恐れがあります。
また、過度な円安は輸入物価を押し上げます。その結果国内のインフレを加速させ、国民の生活費負担を増大させます。
ドル/円相場
日米長期金利
「消費減税=物価高対策」は本当か?
トウシル:今回の選挙では物価高対策が大きな焦点になっていますね。
愛宕:物価上昇で人々の生活が厳しくなる中、多くの政党が「物価高対策」として消費税の減税を掲げています。
与野党の減税案
政党 消費税の公約 自民・維新 食料品を2年間0% 中道 食料品を恒久的に0% 国民 5%(条件付き) 共産 5%(将来的に廃止) れいわ 廃止 参政 廃止 減ゆ連 廃止 社民 一律0% みらい 税率維持食品に絞った減税案も浮上しています。購入頻度の高い食品の価格が上昇すると、消費者物価などの数字以上に国民の負担感が強まります。従って、食品に対する減税は、負担軽減を実感しやすいという面はあるかもしれません。
ただ、消費税率の引き下げは、物価高対策として効果が薄いというのが、多くの経済学者やエコノミストの共通認識です。消費税が下がっても、その分物価が下落するとは限りません。むしろ需要が増加して、結果的に物価を押し上げることになるかもしれません。
自民党は2年という期限付きで食品に対する減税を掲げていますが、2年たった後、税率を戻すということができるでしょうか。国民から強い反発を受けると予想されるため、減税が恒久化してしまう可能性が高いのではないでしょうか。
「責任ある積極財政」の現実味
トウシル:消費税を下げて生活者の負担を減らそうとしても、その効果は期待されたほどではないかもしれないということですね。むしろ、財政リスクが強く意識されて円安がさらに進行したり、長期金利が予想以上に上昇するかもしれません。
愛宕:高市政権は「責任ある積極財政」の具体的な目安として、政府債務残高の伸びを名目国内総生産(GDP)の成長率よりも低く抑える、つまり政府債務残高の対GDP比を低下させることを指摘しています。しかし、政府債務残高の対GDP比を低下させながら財政支出を拡大させることなどできるのでしょうか。
近年、日本の名目GDP成長率は、GDPデフレーターの高い伸びに支えられ、約4%という高水準を維持しています。一方で、政府債務の伸びは2%程度で推移していますので、こうした構図が今後も続くなら、高市首相の言う「責任ある」は維持できます。
しかし、約0.5%にとどまっている実質GDP成長率は、潜在成長率を超えて大きく伸びることはありません。従って、現在のような高い名目GDP成長率を維持しようと思えば、GDPデフレーターの高い伸びを維持する必要があります。
政府債務残高と名目GDPの変動率
しかし、そもそもインフレは、「インフレ税」という言葉があるように、実質的に増税と同じです。従って、高いGDPデフレーターの伸びが続く、つまり高インフレが続くということは、重い「インフレ税」を国民に課し続けるということになります。
インフレ税とは?
物価上昇により国民が持つお金の価値が下がる一方、政府は債務負担の軽減や税収増の恩恵を受けること
現状のような高インフレの継続は望ましくありませんし、日本銀行も2%のインフレ目標を掲げています。
そうなると重要なのは、現在0.5%程度の実質GDP成長率をどこまで伸ばせるかです。どの政党が勝つにしろ、成長分野に効果的に財政資金を投下して、潜在成長率、つまり成長率の天井を高めることが重要です。
インフレ率が2%程度に落ち着き、政府の成長戦略が奏功して実質GDP成長率が1%程度まで上がったとすると、名目GDP成長率は3%程度です。その場合、高市首相の言う「責任ある」を実現するには、政府債務残高の伸びを3%以下に抑えることが必要になります。
財政支出を増やす中で、もう一つ懸念されるのが金利上昇です。長期金利が上昇すると、国民への負担となるだけでなく、政府も国債の利払い費用が増加して財政が圧迫されます。
「ドーマー条件」という有名な考え方によれば、長期金利が名目GDP成長率よりも高くなると、財政の持続可能性が低下すると言われています。
1月には長期金利が2.3%台まで上がりました。先ほど述べたように、長期的に見た名目GDP成長率の姿が3%だとすると、長期金利が3%まで上昇すれば、ドーマー条件に抵触することになり、財政の持続可能性が怪しくなります。
トウシル:今回の衆院選後の経済はどうなりそうですか?
愛宕:ほとんどの政党が消費税減税もしくは廃止を掲げていますので、高市氏率いる自民党が勝っても負けても、財政面では拡張傾向が強まり、日本の財政に対する信認低下が続く可能性が高いとみています。
消費税減税を実施するとしても、きちんと財源を示して、いかに財政規律の維持と整合させるか、そしてそれをいかに国民や市場に対して説明するかが重要になります。
選挙後に選ばれる政権が、円安や長期金利の上昇といった金融市場の警鐘を真摯(しんし)にとらえ、政策運営に生かせるかどうかが重要なポイントになってくるのではないでしょうか。
(呉 太淳)

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