「偵察任務」といえば、敵から身を隠しつつ……というイメージかもしれませんが、陸上自衛隊では偵察部隊の射撃競技会を実施しています。その射撃も「偵察」という任務の一部なのだとか。
2020年8月6日、陸上自衛隊の北海道大演習場において、東千歳駐屯地(北海道千歳市)の第7師団第7偵察隊が主催する「偵察部隊合同訓練」が行われました。第7師団隷下の偵察部隊のほか、北部方面隊に所属する各師団旅団の偵察隊や、ゲストとして駒門駐屯地(静岡県御殿場市)から機甲教導連隊の偵察小隊も参加してのものです。
競技会参加前に整列する偵察警戒車。この日、北海道に所在するほぼ全ての偵察車が集まった(武若雅哉撮影)。
この合同訓練の一環として、射撃競技会も行われました。使用された装備は87式偵察警戒車、通称「RCV」で、これに搭載された機関砲によるものです。

同じ部隊の隊員に見送られて競技会に臨む。応援旗も部隊毎に特色があり見ているだけでも面白い(武若雅哉撮影)。
RCVは全国の偵察部隊に配備されている偵察車で、車体は装甲化され防御力が高く、足回りは3軸6輪駆動でコンバットタイヤを装備し、最高100km/hで走ることができます。上述の射撃競技に使用されたのは主武装の25mm機関砲で、ほか7.62mm機関銃を搭載します。

「前へ!」と号令を掛ける車長の隊員。
一般的に「偵察」といえば、敵に発見されないよう姿を隠しながら、敵の情報を収集することをイメージするかと思われますが、なぜ偵察用車両にこうした武装が施され、また偵察部隊の競技会でその射撃技術を競うのでしょうか。
「偵察」といっても種類があるひと言で「偵察」とはいいますが、陸上自衛隊においてその内容は、大きくわけて2種類あり、それぞれ「隠密偵察」「威力偵察」と呼称します。

勢いよく前進したのちに、急ブレーキをかけて射撃態勢に移行する。タイヤチェーンの摩擦で地面から白煙が上がる(武若雅哉撮影)。
「隠密偵察」とは先にふれたような、敵に見つからないようこっそりその情報を収集するという、いわゆる一般的な偵察のイメージと思われるものです。

全力で前進する偵察警戒車。巻き上げる泥にその力強さが見える(武若雅哉撮影)。
その具体的な一例を挙げると、あらかじめ敵が出てきそうな位置に陣取り、偵察車などを草木で偽装し姿を隠した状態で、静かに敵の動向を探ります。この時、偵察する側は身動きをせず、数日間、同じ場所に留まる場合もあります。

車体が停止すると、すぐに射撃を開始する。競技会は時間との勝負でもある(武若雅哉撮影)。
敵拠点などがある程度分かっている場合には、静かに近寄り、遠くから監視することもあります。いずれにせよ「隠密偵察」では、緊急時を除いて射撃することはありません。あくまでも、こっそりと覗くだけです。
極めて危険な「威力偵察」という任務対する「威力偵察」とは、「強行偵察」とも呼ばれるもので、強力な戦車砲や機関砲を用い、限定的ながらも敵に対し攻撃を仕掛けます。もちろん、ある程度の反撃が予想されますが、その際の敵の動きや射撃の発射炎などを観察することで、敵勢力を解明し、敵陣地の様子などをうかがう、というわけです。敵に攻撃させるわけですから、やはり命がけの危険な任務です。
またこのとき、基本的には威力偵察をする部隊のほかに、敵の観察に徹する部隊が別に存在します。

両手を挙げて成果があったことを告げる隊員。この部隊は全弾命中で最高得点を記録し優勝した(武若雅哉撮影)。
なお威力偵察の初期段階においては、必ずしも敵に弾を当てる必要はありませんが、当然ながら敵戦力を削り反撃を抑制するに越したことはないため、可能な限り命中させた方が良いとされています。
ほかにも、敵が陣地から出てきて追いかけてくる場合も考えられるため、後退しながらの射撃技術も必要となるでしょう。

射撃が終わり戻ってくる2両の偵察警戒車。
こうしたことから、偵察部隊では定期的に射撃訓練を行い、その成果を競技会で競っているのです。