コロナ禍のいま、JR東海が新しい旅のスタイルとして「ずらし旅」を展開。コロナ禍でも安心できる内容といいますが、苦しい東海道新幹線はこれで変わるのでしょうか。

JR東海が「ずらし旅」で見据えるのは「コロナ後」かもしれません。

JR東海が提案する新しい旅のスタイル

「12時におやつ、3時にごはん旅」(京都グルメタクシードライバー 岩間孝志さん)

「駅舎にピン!ときたら降りてみる途中下車の旅」(ライター かのえかなさん)

「大阪はぜったい自転車旅」(ライター ヨッピーさん)

 JR東海が2020年9月25日(金)、「ひさびさ旅は、新幹線!~旅は、ずらすと、面白い~」の新CM発表会を開催。そこで“旅の有識者”たちが披露した「ずらし旅」の案です。

「ずらし旅」とは、旅する時間や場所、行動を「定番」からずらしてみると、いままで知らなかったことに気づける、「発見」のある楽しい旅をつくれるという、JR東海が提案する「新しい旅のスタイル」です。

コロナで変わる定番 「旅行の形」はどうなるのか? JR東海「...の画像はこちら >>

東海道新幹線の最新型車両「N700S」(2020年、恵 知仁撮影)。

 直近では38%になっていますが、2020年度第1四半期の利用状況は前年比16%と、大きく落ち込んでいる東海道新幹線。JR東海は7月より観光キャンペーン「ひさびさ旅は、新幹線!~旅は、ずらすと、面白い~」を展開し、現在、そうした具体的な「ずらし旅」の内容について、提案や一般からの募集を行っています。

「『ずらし旅』は、旅先で人を避ける旅になります。昨今、新型コロナウイルスの感染が心配されていますが、そうしたなかでも安心して楽しんでいただける旅になると考えています」(JR東海 金子 慎社長)

「ずらし旅」は東海道新幹線を救うか? もどかしい時代

「ずらし旅」は、東海道新幹線のコロナ禍における苦境を解決するのでしょうか。

 1日平均で約48万人を輸送している東海道新幹線(2018年度)。ビジネスユーザーも多く利用しており、主流ではない「ずらし旅」に特に大きな需要があるかというと、疑問もあるところです。

 JR東海の関係者は、そもそも「ずらし旅」はそうした「コロナ対策」の提案ではなく「新しい旅のスタイル」の提案で、「旅先で人を避ける旅」である結果としてコロナへの配慮になっているもの、といいます。

コロナで変わる定番 「旅行の形」はどうなるのか? JR東海「ずらし旅」の狙い

「ずらし旅」のCM発表会(2020年9月25日、恵 知仁撮影)。

 鉄道のみならず、旅行・観光業界にも大きな影を落としているコロナ禍。店舗閉店などで京都や奈良の街に元気がなくなるのは、それらに関する観光PRと旅客輸送を進めてきたJR東海にとって避けたいことでしょう。

 また昨今、交通・旅行関係の取材をするなかで、「乗ってほしい、来てほしいけど、そう言えない」という事業者のもどかしさを感じることがよくあります。

 そして社会全体がコロナ禍の先を見通せないなか、可能なことから前に進まねばならないのも現実。そろそろ旅に出たい人や、「マイクロツーリズム」といわれてもクルマを運転できない高齢者などが行きやすい旅をつくることも、いま社会で求められていることでしょう。

 そうしたなかJR東海が提案する「ずらし旅」は、見方によっては妙案とも苦肉の策とも思えるかもしれません。しかしJR東海が言うように「新しい旅のスタイル」として、コロナ後に影響を与えることも考えられます。

様々な「定番」を変えたコロナ コロナ後を見るJR東海

 通勤事情は、コロナ禍で大きく変わりました。テレワークが広まり、例年行われてきた時差通勤キャンペーンは今後、どうなるのでしょうか。

 旅行でもコロナ禍でパラダイムシフトが起こり、「ずらし旅」がひとつ定番になった結果、コロナ前に起きていた京都のオーバーツーリズム問題などが緩和されるかもしれません。

 また「定番をずらす」ことは需要の分散や新たな観光資源の発掘などにつながり、それはJR東海として望ましく、「ずらし旅」はコロナ後でも継続できるスタイルです。

 いま「ずらし旅」を展開することによりコロナ後における「旅行の幅」が広がることは、JR東海が狙っていることのひとつでしょう。

 「ずらすことで、早朝の神社の清々しさなどに気がついて、新しい旅、楽しい旅を作っていけるのではないかと考えています」(JR東海 金子 慎社長)

コロナで変わる定番 「旅行の形」はどうなるのか? JR東海「ずらし旅」の狙い

「ずらし旅」CM発表会に出席する本木雅弘さんとJR東海の金子社長(2020年9月25日、恵 知仁撮影)。

 JR東海が「ずらし旅」のひとつとして提案している「自転車の旅」で、JR東海と連携しているドコモ・バイクシェアの堀 清敬社長は、かつてシェアサイクルの利用者はインバウンドの利用者が多かったものの、「ずらし旅」によって旅先でのシェアサイクル利用が日本人にも広がっていくきっかけになればと話します。

 コロナ禍は様々な「定番」を変えました。JR東海が提案する「ずらし旅」は、「コロナ禍で変わっていくもの」のひとつのあらわれ、と言えるかもしれません。

 ちなみに、JR東海の金子社長がオススメする「ずらし旅」は、「早朝の嵐山の竹林」「天龍寺の青紅葉」だそうです。

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