首都圏の駅ではホーム転落事故を防止するホームドアが増えましたが、全体で見れば一部の駅に留まるうえ、整備には時間がかかります。そこで国土交通省は、ホームドア以外の対策についても検討を開始。
国土交通省が2020年10月から「新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会」を設置し、「ホームドアに依らない転落防止対策」を進めようとしています。
ホームドアのない駅における転落対策の検討が進む。写真はイメージ(画像:写真AC)。
これに至った背景は、2020年1月にJR日暮里駅、7月にJR阿佐ヶ谷駅で相次いで発生した、目の不自由な利用者のホーム転落事故です。いずれもホームドアが未整備の箇所で事故が起きました。
国土交通省ではバリアフリー法に基づく「移動等円滑化の促進に関する基本方針」などに基づき、駅へのホームドア設置を進めています。しかし、設置には時間と費用がかかり、さらにホームが狭いなど、設置な困難な場合もあります。そのため、転落事故をなくすための喫緊の課題として、ホームドア以外での対策にも力を入れ始めたのです。
検討会は10月9日(金)に第1回会議、11月9日(月)に第2回会議を開催。実証実験や検討が進められている防止対策についてヒアリングが行われ、意見が交わされました。
ICタグにQRコード スマホ時代ならでの様々なアイデア検討会で紹介された対策は次のとおりです。
・ホーム先端への接近を、杖や腕章が振動して警告
ホーム先端にICタグを埋め込み、利用者が近づくと、利用者が持つ杖がそのタグを感知し、震えて危険を知らせます。また別のシステムでは、利用者の足首にはめた受信機がICタグを感知、手首にはめたバンドが震えて危険を知らせます。現在、駅での実証実験に向けて、調整が行われています。

ホーム先端であることを、振動で知らせるシステム(画像:国土交通省)。
・QRコードをスマホで読み取り、音声誘導
点字ブロックなどに設置されたQRコードを読み取ることで現在位置を順次取得していき、あらかじめ設定した目的地まで、音声誘導が行われます。駅構内などでGPSによる位置取得の精度が低下するのを、実地のQRコードを読み取る方法で補った形です。東京メトロ有楽町線の辰己駅、新木場駅、JR新神戸駅で実証実験が行われています。
・カメラ映像からホーム先端の人間を自動認識
ホーム先端にいる人間を監視カメラが画像認識で感知し、音声での注意喚起を行うとともに、駅事務室へアラートを送るシステムです。京急蒲田駅で実証実験中。
実証実験中のアイデアは他にもあります。

ホームからの転落者を検知するカメラの例(2018年8月、草町義和撮影)。
・目の不自由な人の存在を、改札口で検知
目の不自由な利用者が改札口を通過するのを、カメラ画像の自動解析により検知し、駅スタッフへ通知。必要に応じて声掛けや介助を行います。検知は、杖や車椅子の判定により行われます。近鉄の大和西大寺駅で実証実験が行われています。
・要介助者とサポーターが、アプリで「マッチング」
「マッチングクラウドサービス」に「要サポート者」と「サポーター」が事前にそれぞれ登録し、現地で介助が必要となった場合、付近にいるサポーターのスマホへ通知が入ります。タクシー配車サービスなどのシステムを応用したアイデアです。
・転落した利用者をカメラで自動検知、通報
実際に転落してしまった利用者を、カメラ画像の自動解析により検知し、列車の非常停止などの緊急対応を速やかに行えるようにします。小田急や東急の一部の駅で運用されています。
「新技術等を活用した駅ホームにおける視覚障害者の安全対策検討会」では、2020年度内に意見を取りまとめる予定としています。