飛行訓練が始まった陸上自衛隊のV-22「オスプレイ」。従来の陸自保有のヘリコプターと塗装が違うのは、新型機だからではなさそうです。

その迷彩塗装と、式典にアメリカ海兵隊司令官が参列した意味合いについて見てみます。

「オスプレイ」がグレーなのは使い方が違うから

 陸上自衛隊木更津駐屯地で2020年11月3日(火)、ティルトローター機V-22「オスプレイ」の飛行開始式が行われ、報道公開された6日(金)の試験飛行には多くの報道陣が集まりました。

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会場に置かれたV-22。ローターを折り畳んでいるが、それでも十分な迫力がある(2020年11月3日、月刊PANZER編集部撮影)。

 式典の主役であるティルトローター機V-22「オスプレイ」は、これまで陸上自衛隊が運用してきた既存の回転翼機とは異なる特性をいくつも持っていますが、同機で最も目立つ外見上の一番の特徴、それは塗装です。

 これまでの陸上自衛隊の回転翼機は、ほとんどが緑と茶、黒の三色迷彩だったのに対し、「オスプレイ」は濃淡の異なるグレー系の3色で、機体上面、側面、下面と塗り分けられています。

 なぜここまで違うカラーリングなのでしょう。この明白な違いはオスプレイの使われ方と存在理由を示しています。

 装備を何色に塗るかということは、どこでどのように使うかということと関係しています。同じ回転翼輸送機であるCH-47「チヌーク」でも、陸上自衛隊と航空自衛隊では迷彩が異なっていますし、陸自の輸送ヘリコプターも全てが迷彩塗装というわけでもありません。要人輸送を担うEC-225LP特別輸送ヘリコプターは、ブルーとグレー、白を用いた3色塗装ですが、迷彩というよりデザイン的な配色です。

 陸上自衛隊の輸送機は緑(植生)のある内陸部の低空域での行動を想定しているため、地表面の色彩に合わせた緑と茶、黒の3色迷彩になっていました。

いうなれば戦車や装甲車のような陸上装備に近い塗装です。

 一方「オスプレイ」には緑や茶は使われていません。これは内陸ではなく海、島しょ部を活動域と想定しているからといえるでしょう。なお、アメリカ海兵隊のMV-22も同じようなグレー系の3色塗装をしています。

「オスプレイ」は米海兵隊と連携するための象徴

 2020年11月3日(火)の「オスプレイ」飛行開始式には、沖縄からアメリカ海兵隊のハーマン・ステイシー・クラディー中将が参列し、安全祈願で機体に御神酒をかけるという日本的儀式も行っていました。

 これは「日本版海兵隊」と呼ばれる陸上自衛隊の水陸機動団と「オスプレイ」が一体運用することを前提にしているからで、アメリカ海兵隊とも密接に関係していることを示しています。

陸自「オスプレイ」なぜあの色? 飛行開始式典に在日米海兵隊司令官が参列の意味

飛行開始式でのテープカット。左端は陸上幕僚長の湯浅陸将、その右は第3海兵機動展開部隊司令官のクラディー海兵隊中将(2020年11月3日、月刊PANZER編集部撮影)。

 水陸機動団は創設以来、アメリカ海兵隊から様々な支援を受けており、ハード(装備)とソフト(編成や運用)の両面でアメリカ海兵隊に準じたものになっています。共同訓練も盛んに行われており、同じ装備を使った方が都合がよいのです。「オスプレイ」とは対照的に、水陸機動団が旧式の部類に入る水陸両用車AAV7をあえて導入したのもそのためといえるでしょう。

 なお陸上自衛隊では「オスプレイ」2機がようやく実動に入りますが、アメリカ海兵隊ではすでに200機以上が汎用回転翼輸送機として、作戦行動だけでなく日常的に業務や連絡にも使われています。

日本が「オスプレイ」を導入したことには、こうしたアメリカ海兵隊の輸送機事情も大きく関係しています。

 日本では安全面に対する不信感が一部で根強く、本来、水陸機動団が駐屯する長崎県にほど近い佐賀空港へ配備する予定だったものが、千葉県木更津市へ「暫定配備」という形になってしまっています。そのためか飛行開始式でも、陸上自衛隊トップの湯浅悟郎陸上幕僚長は、航空安全と地域への理解という言葉を何度も繰り返していました。

 立ち上がって日の浅い水陸機動団は、日本が重視する島しょ防衛の主要部隊であり、アメリカ海兵隊とは切っても切れない関係にあります。領土防衛という陸上自衛隊の運用構想からも、アメリカ海兵隊との連携という日米の作戦計画のうえでも、重要な意味合いがあるといえるでしょう。

 陸上自衛隊にとって「オスプレイ」はただの新型機ではなく、地域への理解からアメリカ海兵隊との関係性まで、いろいろ気を使わなければならない機体です。これまでの陸上自衛隊回転翼機とは異なる3色塗装は、これら諸々の象徴のような気がします。

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