ヤリス、フィット、そしてノート――2020年は各自動車メーカーの顔となる基幹的なコンパクトハッチバックモデルが出揃いました。一方、背後では軽自動車の性能が向上。
2020年は、トヨタから「ヤリス」、ホンダからは「フィット」、そして日産からは「ノート」という新型車が登場しました。これら3モデルは、日本だけでなく世界市場でも各自動車メーカーの顔ともなる、存在感の大きなコンパクトカーです。
共通点は、どれもコンパクトカーのトラディショナルと呼べるハッチバックモデルであること。いわゆるスタンダードな存在です。ライバルが揃ったことで、2021年は、そうしたスタンダードなコンパクトハッチバックの戦いになるのでしょうか。それとも別な勢力がベストセラーカーになるのかを考察してみます。
新型ノート(画像:日産)。
まず、新たなベストセラーカーのジャンルを狙う存在が軽自動車と言えます。中でも、「N-BOX」や「タント」「スペーシア」といった背の高い両側スライドドアのスーパーハイトワゴンに勢いがあります。
その背景にあるのが、最近の軽自動車の“出来のよさ”です。衝突軽減自動ブレーキなどの先進運転支援システムが用意されているのは、すでに当たり前になりつつあります。
しかし、その一方で、「やっぱり登録車がいい」と考える人もなくなりません。なぜなら、軽自動車に対するコンパクトカーの高速走行性能や、車体寸法の大きさからくる安全性能の有利さは、どこまでいっても揺るがないからです。軽自動車の販売は伸びるかもしれませんが、コンパクトカーの販売がゼロになることはないということです。
コンパクトSUVのほうがよくない?とはいえ、コンパクトカー側の状況も、いつまでも「ハッチバック一択」なわけではありません。最近では、トヨタ「ライズ」、ダイハツ「ロッキー」のようなコンパクトSUVが登場して大人気となっていますし、スライドドアを持つコンパクト・ミニバンのような「ルーミー」なども販売されています。様々なバリエーションが生まれたことで、コンパクトカーの中でのハッチバックの存在感が、徐々に薄まっています。

ヴィッツの後継となったヤリス(画像:トヨタ)。
ちなみにアセアン諸国に目をやれば、ヤリス、フィット、ノートの存在感は、意外と小さいことに気づきます。トヨタは「ヴィオス」、ホンダは「シティ」、日産は「アルメーラ」や「サニー」といった地域向けモデルが、現地では人気です。かつてはグローバル市場に向けて、ひとつのモデルを作って拡販するという手法が盛んに使われていましたが、最近ではニーズの異なる各市場に向けた専用車を用意することが多くなっているのです。
つまり、これまでヤリスやフィット、ノートのようなグローバル向けのコンパクトハッチバックモデルは、ベストセラーカーの王道的な存在でした。ところが軽自動車の人気の高まり、コンパクトカーのバリエーション増加、世界市場での地域向けモデルの増加など、状況は甘くないものになりつつあります。
それでも基幹のハッチバックが絶対に必要なワケしかし、そうした状況にあっても、コンパクトハッチバックのグローバルモデルは、まだまだ必要性があると筆者(鈴木ケンイチ:モータージャーナリスト)は考えます。
なぜなら、地域向けモデルを作るにしても、SUVやミニバンを作るにしても、ベースとなる存在があれば低コストで良いものができます。そうした役割を果たすのがグローバルモデルです。さらにクルマの商品力の元は、走る・曲がる・止まる。それを生み出すのは、地味で見えづらいプラットフォームやパワートレインにあり、そこを磨き上げるには、スタンダードなハッチバックがベストです。

新型フィット。5タイプのエクステリアデザインを展開(画像:ホンダ)。
そういう意味で、新しいヤリス、フィット、ノートは、今のトヨタやホンダ、日産の底力を感じさせる素晴らしい出来を誇るモデルたちです。ベースに使うには、うってつけと言えるでしょう。確かに昨今の状況から、売れる数は減るかもしれませんが、それでもスタンダードなコンパクトハッチバックの存在価値は、まだまだ高いと言えるのではないでしょうか。