陸上自衛隊の現用戦車3種のなかでも、いちばん古い74式戦車には、90式戦車や10式戦車で見かけない装備がいくつかあります。車体後部にある電話機もそのひとつ。

どのように使い、誰と通話することができるのでしょう。

黒い受話器が入った電話ボックス

 各地で行われる記念行事や自衛隊イベントなどで陸上自衛隊の戦車を間近で見てみると、実に様々な装具を車体の各所に取り付けていることがわかります。武器以外にも整備工具や灯火類、収納ボックスのようなものまでありますが、蓋つきの収納具などは、開いていないと中に何が入っているかわかりません。

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74式戦車の車体後部。赤い矢印で指したものが車上電話機のボックス(乗りものニュース編集部撮影)。

 そのようなもののひとつが、74式戦車の車体後部にあります。車体後部中央より右側にある大きな箱。赤ランプが右上に付いたこの箱は、戦車に詳しい人物に聞いてみたところ、「車上電話機」というものだといいます。

 車上電話機の用途は、車内の乗員と車外にいる隊員が通話するためのもので、箱の中には昔のいわゆる黒電話の受話器のようなものと、スイッチ類からなる操作盤があるそうです。また受話器のコードはカールしているものでなく、家庭用掃除機の電源コードのように巻取り式になっており、必要な長さだけ引き出して使うようになっているという話でした。

 そこで気になったのが、なぜわざわざ有線式の通話装置を車体に取り付けているのか。交信するのであれば、背負い式の携帯無線機やトランシーバーのようなハンディタイプの無線機もあるでしょう。

これらのほうが、使用範囲が限定される有線式通話機よりも使い勝手が優れるように思えます。

確実に交信できるのは無線よりも有線

 なぜ無線機があるにもかかわらず、74式戦車は使い勝手が限定される有線電話機を車体後部に備えるのか。それについて前出の戦車に詳しい人物は、次のように答えていました。

「無線はどうしても使用状況や周辺環境で聞き取りにくかったり、混線したり、場合によっては通じなかったりすることがあります。その点で有線は断線しない限り交信できるため、確実性をとるならば有線といえるでしょう。また有線は、傍受される可能性が無線よりも低いため、通信の秘匿性という点でも優れています」

 実際、自衛隊を始めとして各国軍とも、いまだに無線だけでなく有線通信も重視しているのは、そういったメリットを鑑みてという話でした。

74式戦車にある外付け電話ボックスって? 欧米ではわざわざ増設した例も 使い方は?

砂漠での訓練で、M1「エイブラムス」戦車の車体後部に増設された車上電話機で乗員と会話するアメリカ海兵隊員(画像:アメリカ海兵隊)。

 確実に交信できるというのは安心感とともに、連絡の瞬発性や交信時間の短縮などにも貢献します。そのため、アメリカ軍やイスラエル軍などでは、あとから戦車に車上電話機を増設する例があるとか。市街地で敵味方が近距離で戦うような状況では、有線式電話機の方が、無線機で交信するよりもダイレクトかつクリアな通話ができるためです。

 陸上自衛隊の戦車では、アメリカから供与されたM24「チャフィー」軽戦車やM4「シャーマン」中戦車が装備しており、それ以降も61式戦車などに設置されていたとのこと。その流れで74式戦車にもあったようですが、使用する機会がほとんどなかったせいか90式戦車や10式戦車でなくなり、74式戦車でも一部の車両では外してしまっているものもあるそうです。

 しかし前出したように、近年の中東地域での不正規戦などで、有線通信機の有用性が再認識されるようになっていることから、将来的には復活する余地もあるのかもしれません。

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