クルマのヘッドライト周りに個性を持たせ、ブランドのアイコンとするような事例が近年増えています。安全面でも、クルマの「顔」の一部としても存在感が高まるランプ類、その役割は昔と変わってきています。
2021年現在でプジョーの最新ラインナップとなるコンパクトハッチバックの「208」、コンパクトSUVの「2008」と「3008」、そしてフラッグシップセダンの「508」。これらに共通の特徴が、その顔にあります。ライオンの牙をモチーフにしたというLEDデイタイムランニングライトです。
左右のヘッドライトの下からバンパーの下側に向けて伸びる一筋の細い光は、確かに動物の牙のようにも見ることができます。ライオンをエンブレムにするプジョーらしい印象的なデザインです。
プジョー208の牙のようなライト(画像:PEUGEOT)。
こうしたデザインが可能になったのはデイタイムランニングライト(以下、デイライト)という存在にあります。デイライトとは、文字通り「昼間走るときに使うライト」のこと。運転手のために車両前方を照らすのではなく、周囲に“ここにクルマがいますよ”と知らせるのが目的です。交通事故は、クルマと他者がぶつかって起きるため、互いに相手がどこにいるのか気づきやすければ、より衝突を回避しやすくなるというわけです。
欧米でデイライトは1970年代から安全のために普及が始まり、2011(平成23)年よりEUでは義務化もされています。日本でも2016(平成28)年から正式に認められて、徐々にデイライトを点灯して走るクルマも増えています。
もともとヘッドライトは、クルマの見た目の印象を大きく左右するため、古くからデザイン上の重要ポイントとなってきました。丸形のシールドライトが定番だった時代は、ポルシェ911やMINIなど、その丸いライトを上手くデザインに生かしたクルマが数多く誕生しています。
また、丸いヘッドライトを縦に並べることで“縦目”と呼ばれる個性を得たのが1970年代のメルセデス・ベンツです。さらに、使わないときはボディ内に収納するリトラクタブルヘッドライトも1960年代から80年代にかけて人気を集めます。そして、1980年代にはライトの直径を小さくするプロジェクター式が導入されることで、ヘッドライトのデザインの自由度が飛躍的に高まりました。
最近の日本車でいえば、三菱自動車の「デリカD:5」の縦型ヘッドライトも、そうしたライトデザインに凝ったモデルのひとつとなります。

縦型ヘッドライトを採用した三菱デリカD:5(画像:三菱自動車)。
そんなヘッドライトのデザインは、昼間も常時ライトを点灯させるデイライトの普及によって、さらに進化していくことになります。それが、光そのものをデザインに取り入れるというアイデアです。
その先鞭といえるのが、2000年代前半に登場したBMWの「コロナ・リング」です。「イカ・リング」「エンジェル・リング」などとも呼ばれたもので、丸形のヘッドライトの中に、光の輪を浮かび上がらせます。そして、この「コロナ・リング」は絶大な効果を発揮しました。
また、アウディも光を積極的にデザインへ採用したブランドのひとつ。近年のアウディ車のヘッドライトは、デイライトを活用した非常に凝ったものとなっています。これには2010年代より普及が進んだLEDライトという手助けもありました。LEDライトは電力消費が少ないというだけでなく、光源が小さいという特徴もあります。小さな光源は、ライトデザインの自由度を高めることにも大きく貢献したのです。
では今後、ヘッドライトはどうなっていくのでしょうか。当然、デザイン・アイテムのひとつとしてプジョーのように使われることは続くでしょう。その一方で、先進運転支援(ADAS)としての役割も、これからさらに重要になっていきます。
高度に制御された、いくつものLEDをヘッドライトに使うことで、光を自由自在にコントロールし、夜間における走行の安全性を高めることが期待されています。すでに実用化されたものでは、複数のLEDで照射するエリアを自由自在に変化させることで、広いエリアを明るくしつつ対向車や先行車に眩しくさせないということが可能になっています。また、カーブなどで照射するエリアを曲がる先に変化させることもできています。

アウディはいち早く、日本向けモデルもデイライトを全車標準にすることを宣言した(画像:アウディ ジャパン)。
さらに、ヘッドライトで路面などに、文字や絵柄などを光で描くというアイデアも発表されています。明かりで、他車や歩行者とコミュニケーションするのが狙いです。
つまり、この先のヘッドライトは、デザインと安全のために、まだまだ進化する可能性を秘めているのです。私たちをあっと驚かす、新しいヘッドライトを期待しましょう。