東シナ海上空には韓国の飛行情報区(FIR)のなかなのに、日本と中国の2国で航空管制を行う飛行ルート(コリドー)が存在します。安全性と経済性の双方から問題視されていたその部分が、このたび改善されることになりました。
各国の航空会社260社以上が加盟する航空運輸業界団体、IATA(国際航空運送協会)は2021年2月1日、東アジアの重要な航空機の飛行ルートのひとつである「アカラ - 福江コリドー(航空回廊)」の管制一元化について日本と中国、韓国の3か国がおおむね合意したことを明らかにしました。
「アカラ - 福江コリドー」は、1983(昭和58)年に設定された日本(長崎県福江島)と上海方面を結ぶA593航空路の一区間で、通称「アカラ回廊」と呼ばれています。
このコリドー(回廊)の長さは約515km、東シナ海上空に設けられているため、空域は日本、中国、韓国の3か国にまたがっており、そのうちの約半分、257kmは仁川(韓国)の飛行情報区(FIR)が含まれていました。しかし、これまで「アカラ回廊」は、日本と中国の2国で手分けして管制管理を行うという事象が続いていました。
というのも、コリドーが開設された1983(昭和58)年当時、中国と韓国は国交がなかったため、両国間の管制直通ラインが設けられていなかったからです。
「Akara Corridor」と大きく入ったIATAの画像。東シナ海上空、福江島や済州島沖に、上海方面に機首を向けた飛行機のシルエットも描かれている(画像:IATA)。
IATAによると、アカラ回廊が開設された当初は、この航空路を飛ぶのは1日約10便程度だったため、それほど支障はなかったようですが、中国の経済発展にともない、利用する航空機は激増し、新型コロナのパンデミックが起きる直前には、1日約800便にまで達していたとのこと。
加えて韓国を発着、もしくは同国上空の航空路を利用する航空便、すなわちアカラ回廊と交差する形を採る、東シナ海の南北を結ぶコリドーの管制は韓国が実施していたため、安全性と効率性の両方の観点から整理が求められていました。
とくに南北と東西が交差する「クロッシング・ポイント」の管制は、単一空域ながら航空管制がふたつあるという点で問題視されていたといいます。
管制一元化で往来する便数も増大へ実際、2005(平成17)年にIATAは、国連の専門機関の一つであるICAO(国際民間航空機関)に対して、安全上の懸念を正式に提起しています。これを受けICAOは、アカラ回廊の管制に関して整理刷新が必要であると認めました。
中国と韓国の国交は1992(平成4)年に樹立されており、すでにアカラ回廊を取り巻く状況は、開設時のような複雑な政治外交情勢ではないと見込まれていたものの、いざ作業に着手すると、技術的な面と政治的な面の双方で、困難に直面することになったといいます。
そこで2018年に改めて技術的ワーキンググループを設立し、ようやく日中韓3か国の同意も取り付け、管制の一元化に至ったとIATAは明らかにしています。

上海を拠点にする中国東方航空のボーイング777型機。写真の機体はパンダを描いた特別塗装機(柘植優介撮影)。
新たな協定では、日本が2021年3月25日に東西方向、すなわちアカラ回廊の管制権を、韓国の仁川ACC(エリアコントロールセンター:航空交通管制部)に引き渡す予定とのこと。また同日付けで、上海ACC発着の東西便の管制権も仁川ACCに移転されるようです。
これにより、済州島沖の東シナ海上空の空域管制が仁川ACC単独になるため、安全性、効率性、容量の3つで向上が見込まれることから、付随して東西方向ルートの容量増大も実施される計画だといいます。
なお、この整備は段階的に実施されるそうで、2021年7月には、往来する航空機の容量増大に対応する飛行ルートの追加などが、「2段目のステップ」として盛り込まれているとのことです。